第4話「明かされた真実」

 俺のバイトは終わりを告げた。

 二十歳を目前にして生まれて初めての彼女ができた。

 彼女ができてから数日が経って、彼女にあることを告げた。

「今更だけど、バイトはもう終わりにする」

 雇い主兼彼女にその旨を伝える。

 ユキは俺の言葉に驚き、数秒間固まってから慌てて口を開いた。

「ど、どうしたの。コウ。付き合いだしてまだ数日なのにもう私に飽きちゃったの?」

「そういうわけじゃないから落ち着け」

 俺はユキを宥めた。言葉を間違えると泣きだしかねない。

「別に会場への送迎とかは続けるよ。彼女に雇われるって言うのが嫌なだけだ」

「別にいいじゃない。そのままで。いずれ結婚したら私の収入は夫婦の共有財産だしコウを養うくらいは……あっ」

 ユキは言葉を止めた。

「ごめん。結婚とか……重かった?」

 恐る恐るユキが尋ねてきた。

「いや、気にするな。……結婚は俺も考えていたし」

 後半は恥ずかしくなって顔を背けつつ小声でそう告げた。

「本当。嬉しい」

 そう言ってユキは俺に抱きついてきた。

 ずっと一緒にいたから付き合うことになってもそんなに変化はないなとも思った時期があったが、ユキが甘えて来ると言うか好意を素直に向けて来るようになったのだ。もう幼馴染が可愛すぎて辛い。

「いや、まあ、将来の事も考えて職も考えないといけないなと思って。在宅でできそうなやつがいいな」

 ユキの世話を見つつできる仕事を探さないといけないのだ。ヒモになってはいけない。

「そこまで考えてくれたのね。ありがとう」

 俺に抱きつくユキの腕の力が強くなる。

「頑張って二人分稼ぐから」

 ユキはそう言う。タイトルを維持していれば可能だろう。女流タイトル戦のタイトルは種類によって違うが何百万と高額だ。

 だがそれでもピークはいずれ来る。トッププロだからそういった発想になるのだろうが、そんな簡単にタイトル防衛なんてできないのだ。

 そのためにユキには稼げるだけ稼いでもらって、俺は俺で別の収入源を探す。ふんわりとした感じだが未来予想図だ。

「だからひとまずユキから俺に金の流れる今のシステムはやめよう。俺も稼ぐ手段を見つけたらプロポーズするから」

 最後にちょっと余計な事を言ってしまったかと思ってユキを恐る恐る見ると、嬉しさで震えているように見えた。

「コウ。私幸せ。最後のタイトルを失ってもいいわ」

「いや、だめだろう」

 こんな言い方したら怒られるが大事な収入源だ。

 それになんか気恥ずかしい。このタイミングであることを告げようと思った。

「あとな。ユキ。いい機会だから一つだけ言っておく」

「何?」

「髪を降ろしてメガネをコンタクトにして軽くメイクしてオシャレな服を着たらきっと凄くもてると思う」

 俺はユキに真実を伝えた。

「そう思っていたんだ」

 味気ない反応だった。特に驚いた様子は無い。

「じゃあ、私からも一つ」

 ユキは俺の言葉を聞いて少し考えてからそう言いだした。

「コウはね。服のセンスが良くない」

「えっ。そうなの」

 衝撃的な言葉を聞いた。みんなにダサいと言われていたがユキだけは似合うと言ってくれたのに。

「ええ、壊滅的にダサい」

「マジか!?」

 ちょっと衝撃的すぎる。割と立ち直れそうにない衝撃だ。

「なんで?」

 当然の疑問をこのまま口にした。何故俺は幼馴染に騙されていたのだろうか。

「だって普通の服着たらコウはもてちゃうから。変な服着たままで女の子に好かれないようにして欲しかったの」

 幼馴染と考える事は一緒だった。向こうのほうが若干失礼な感じで。

「そうだったのか?」

「そう。今までごめんね。でもこれからは私がちゃんとコーディネイトしてあげるから」

「……宜しくお願いします」

 なんか腑に落ちない感じでユキの言葉に頷くのだった。

 俺の方がダメージを受けているが、俺とユキは互いの隠していた真実は明かされた。

「ユキ。他に何か俺に隠していることある?」

 聞いてみたがあまり衝撃的な隠し事はもう勘弁して欲しい。

「コウは無いの?」

 ユキに聞かれてふと考えている。

 ユキが好きな事とユキの格好を指摘しないことだけしかない。どちらも公表済みだ。

「無いぞ」

 俺は自信を持ってそう告げた。

「ユキは無いのか?」

 もう一度ユキに軽く聞いてみた。ユキは何か考え込む。

「コウに彼女ができた時のために用意していた動画があったの」

「動画?」

「高校の時に撮った下着姿の私とコウが喋っている時の映像。彼女が出来たらそれを見せて別れさせようと思って」

「怖いよ」

 しかもそれ、きっと夏のある日に暑いからって俺の前でも下着姿でいるユキを説教した時だ。あの時以来何を言っても駄目だと思ってユキが着替えそうになると部屋を出るようにしたのだ。

「内容聞かれたらコウに説教されているだけなのがばれちゃうから音声編成するために自分の部屋にレコーダーをしかけていたの」

「用意が周到で怖いよ」

 俺が思っていたよりも俺の幼馴染はしっかりしていた。変な方向に頭も使っている。

「でも編集がうまくいかなくて難航しているの。パソコンがそんなに得意じゃないから編集ソフトの使い方が全然わからなくて」

 やっぱり俺の幼馴染はちょっと抜けているところがあった。

「でももう必要なかったね。コウは私の彼氏になったし」

「もちろんだ」

 男らしくそう答えた。正直そんな変な映像すぐに消してもらいたいくらいなのだ。

「じゃあもう他に隠し事は無いよ」

 それを聞いてほっとしながらも「でも何かあった時の保険にとっておこうかな」と呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。

「二人の間に隠し事はなしだよ」

 隠し事万歳だった彼女からそんな提案をされて俺は釈然としない気持ちになりながらもなんとか首を縦に振って「ああ」と答えた。

 ちょっと不安もあったが、二人の日々はこれから始まるのだった。

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白雪姫の憂鬱 @kunimitu0801

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