[20211212] 素敵な刺繍の美しい花(二)

 連れてきたルーを荷物ごとガニ離れ家に置いてゆく。彼女が纏っていた大きな布を被せて、しばらくの間シュグイ花嫁の振りをしてもらう。

 彼女と二人でガニ離れ家を出る。彼女が自分のルーを連れてくる。そのままルーに跨がろうとするので、慌てて彼女を抱えて俺のルーに乗った。シュグイ花嫁クーゲン花婿が抱えていくものだと言えば、彼女は素直に帯で俺と彼女の体を結んで固定してから、きちんと俺の腕の中に収まった。俺のシュグイ花嫁はしっかりしている。ツェッツェシグ可愛い

 彼女のルーもきっと彼女に似て賢い。飛び立てばちゃんと後をついてきた。


 俺の逸る気持ちが伝わってしまうのか、ルーはリクトー矢のように飛ぶ。その背中で、こうして腕の中にシュグイ花嫁がいることを感じて、俺は何度もその髪に口付ける。彼女はその度にくすぐったそうに首をすくめた。

 シュグイ花嫁はもうクーゲン花婿のものだ。もうじきネイ家族のトウム・ウルに降り立つ。そこでクーゲン花婿からシュグイ花嫁に新しい名前を渡せば、もう。

 シュグイ花嫁の新しい名前はずっと考えていた。

 今のツェッツェシグ花のようなウータという名前だって、ツェッツェシグ花のような彼女に似合った、とても良い名前だ。けど、俺の気持ちにはちっとも足りない。

クークスグ素敵なクハトーザ刺繍のサーハン美しいツェッツェ

 新しい名前を耳元で囁けば「ウラト長い」と睨まれる。それでも、こうして髪に口付けることは嫌がられなかった。


 俺が考えた新しい名前はネイ家族にも「ウラト長い」と言われた。彼女はクハトーザ刺繍のツェッツェと呼ばれることになった。けど、これはこれで悪くない、と気付く。

 シュグイ花嫁を『クークスグ素敵な』『サーハン美しい』と呼ぶのはクーゲン花婿だけで良い。


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