[20211211] 素敵な刺繍の美しい花(一)

 日が沈む頃、彼女が暮らすトウム・ウルの上を飛ぶ。逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと廻りながら下を伺う。

 俺の後には荷物を乗せた一頭のルーが付いてきている。まだ若いけど、賢い、よく飛ぶルーだ。手放すのは惜しい。でも、シュグイ花嫁のためならちっとも惜しくない。

 大きなパールム母屋の前で火がかれて、その周囲に男たちが集まっている。しばらく前、姉のケレト結婚の時は俺もああやって火の前で、姉を攫いにくるクーゲン花婿を待ち受けていた、と思い出す。

 あの時は、自分が誰かを攫いにいくなんて、考えてもいなかった。


 ガニ離れ家から、彼女の母親が出てくる。シュグイ花嫁の準備ができたらしい。彼女はあの中で、ちゃんと俺を待っていてくれるだろうか。ツェッツェシグ可憐なツェッツェシグ花のようなシュグイ花嫁。俺のツェッツェ

 すっかり暗くなった頃、火の周りに集まっていた男たちが歌い始めた。酒を飲んで歌うのは攫いにゆく頃合いということだ。俺は真っ直ぐに降りてゆく。

 できるだけ音を立てずにガニ離れ家の脇に降り立って、ルーから降りる。首筋を撫でて「チェメグ静かに」と囁けば、大人しく伏せる。

 遅れて降りてきたルーを落ち着かせて、手綱を引いて一緒にガニ離れ家の中に入る。

 ようやく、俺のシュグイ花嫁に会える。


 見事なクハトーザ刺繍の衣装を纏ったシュグイ花嫁が顔を上げる。俺の姿を見るとツェッツェシグ花のように笑った。俺はルーの手綱を離して彼女に駆け寄る。彼女が頭から被っていた大きな布を外して、立ち上がる。

 急いでここを離れないといけない。でも、俺は我慢できなかった。彼女を抱き締める。ようやく、彼女に触れることができる。髪に口付ける。

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