[20211207] 花のような糸と勇ましい羽(三)

 ノースクーケルーデ人形の隣の男は、オール・アキィトを見せてくれて、編み方も教えてくれた。髪に結ぶところまで。

 わたしはそれを真似て、糸を編んでみている。トウム・ウル・ネイの糸で編むとどうしてもオール・アキィトと違う雰囲気になってしまうけれど、わたしは自分の好きな色の糸を集めて編んでいた。

 指を動かしながら、ノースクーケルーデ人形と隣の男のことを考える。

 クホス夫婦になるというのは、どういう感じなんだろうか。あの二人は、顔立ちも雰囲気も随分と違う。同じネイの人ではないだろう。どうやって知り合って、どうしてケレト結婚することになったのだろう。

 山に降りた先のネイでも、やはり男の人が女の人をさらいに行ったりするのだろうか。もしそうなら、あの男の人はネイを超えてノースクーケルーデ人形を攫って逃げたということだ。

 祖母に聞いた昔話にそんな話があった気がする。トウム・ウル・ネイの若者が山に降りた先で女の人を気に入って、そのまま攫って逃げた話。あるいは、トウム・ウル・ネイの女を気に入った男が、ルーに乗ることもできないのに、なんとかトウム・ウル・ネイまでやってこようとする話。

 あの二人にも、そんなことがあったりしたのだろうか。


 しばらく前に、いずれわたしを攫いに来る相手と会ったことを思い出す。

 わたしと同じくらいの年の男で、リクトー勇ましいラッフと呼ばれている。名前の通りに強い視線で、向かい合っていると睨まれているようで体が竦む。それに、ずっと唇を引き結んで、随分と不機嫌そうだった。

 二人で話せと言われても、何を話せば良いのかもわからない。向こうも不機嫌そうな顔のまま黙っていた。だからただ二人で何も言わずに立っていただけだ。わたしの父とリクトー勇ましいラッフの父は少し離れたところで、様々な取り決めをしているのだろう、向き合ってあれこれと話しているようだった。

 後から母に「どうだったか」と聞かれたけれど、何も言えなかった。「嫌か」と言われて困ってしまう。嫌も良いもわからない。わたしは母に「わからない」「何も話さなかった」と素直に伝えた。母は笑って「何回か会ううちにわかるでしょう」と言った。

 わたしはこっそりと、どうせ向こうから断ってくるだろうと思っていた。何も話すことなく終わってしまったのだ。それにずっと不機嫌そうな顔をしていたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る