[20211208] 花のような糸と勇ましい羽(四)

 わたしは父に怒られた。ノースクーケルーデ人形の隣の男に近付きすぎだと言われた。オール・アキィトを見たかっただけなのだと言ったけれど、距離が近過ぎると言われた。もうケレト結婚できる年なのだから気を付けなさい、と。

 ノースクーケルーデ人形と話すことは、父も咎めなかった。だからわたしは、ノースクーケルーデ人形だけに話しかけた。隣の男は心配そうにずっとこちらの様子を伺っている。

 この男はノースクーケルーデ人形のことを心配しすぎじゃないだろうか。それとも、クホス夫婦とはそういうものなのか。

 それでも、今度は隣の男も口を出してこなかったので、わたしはノースクーケルーデ人形に自分の持っているいろんな綺麗なものを見せた。ノースクーケルーデ人形は綺麗なものが好きみたいだ。

 髪はモーン・ウータ銀糸、瞳はノダー。そうだ、今度は白い布でノースクーケルーデ人形を作ろうと思いながら、目の前のノースクーケルーデ人形を見る。

 そのうちに、ノースクーケルーデ人形はオール・アキィト以外にも、いろいろなものを見せてくれた。ノースのような青い線が入った黒い石の首飾り。それから、薄くて平ったい透き通るもの。

 その薄くて平ったい透き通るものは、魚の体を覆っているものなのだという。魚というのは、水の中を飛ぶのだと聞いたことがある。体がこんな透き通ってきらきらとしたもので覆われているなんて、宝石のような生き物なんだろうか。

 ノースクーケルーデ人形は、その薄くて平ったい透き通るものを一つ、わたしにくれた。


 ノースクーケルーデ人形は、隣の男に大事にされている。あの隣の男は、ノースクーケルーデ人形にたくさんのものを与えている。わたしがクハトーザ刺繍した布鞄も、買ってノースクーケルーデ人形に渡していた。

 本当にクーケルーデ人形のようにあまり笑わずにいたノースクーケルーデ人形だけど、隣の男がクハトーザ刺繍の布鞄を渡すと、嬉しそうに笑ってそれを抱きしめていた。

 それで、ノースクーケルーデ人形と隣の男は、行ってしまった。父は二人を送り届けて、いつもよりも遠い山に降りるので、戻りは遅いだろう。

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