第22話


「逃げて」

 

 僕は目の前の小夜に告げる。


「お、お兄、様……?な、なん、で?」

 

 小夜は呆然と戯言を繰り返す。

 現実を受け入れられない。そんな様子だった。


「小夜ッ!」


「ひっ!」

 

 僕の叫び声に小夜は悲鳴を上げる。悲鳴を上げる必要はなくない?別にどうでもいいけどさ。


「逃げて。邪魔」


 僕は簡潔に伝えたいことを伝える。


「あ、……え、はい」


 小夜は急いでその場を離れる。ちゃんと理解しているのだろう。自分が邪魔、お荷物であることに。


「ふー」

 

 僕はゆっくりと息を吐き、僕のお腹を貫いている爪を抜く。


「素晴らしい兄弟愛じゃないか。うん」

 

 後ろの魔怪は流暢な日本語を話す。

 いや、これを魔怪と呼んでいいものか。次元が一つ、二つ。違っていた。さっきまでのこいつとはまるでモノが違う。進化。変身。戦闘力が53万くらいありそうな帝王様みたいな変身能力持ちなのかな?

 こいつは今の僕の全力に匹敵する。

 全力のときの僕ならともかく……魔力を半分失い、再生能力を他者に割いている今の僕が勝てるかどうか……。

 ちょっとだけ不安である。


「お前は随分なお人好しみたいだな。うん。未だ使えない別の人間のために再生能力を割き続けて、自分を再生しないとはね。うん」


「僕は一度決めたことを曲げたりしなんだ」

 

 一度決めたことは行う。

 それが僕だ。それが──だ。

 

「それが原因で君は負けることになる。うん。まぁ。うん。別にそんなハンデなど無くても君は負けるが。うん」


「やってみないとわからないでしょ?」


 僕は剣を握り、魔力を込める。

 刀は伸びる。

 僕が込めた圧倒的な魔力に、空間が歪む。

 全力だ。

 周りへの被害など気にしない。


「やらなくてもわかる。うん」


 魔怪の豪快な一振り。

 さっきまでとは重さも、速さも段違いな圧倒的な一撃。

 だが、僕には当たらない。当たらないのなら別になんてことない。

 なんの驚異にもなりはしない。


「勝負の勝敗は戦う前から決まっている。うん」


「そうとも言えない。同格ならともかく。圧倒的な剣の前にはどんな策も無意味」

 

 僕は策を練らない。考えない。

 必要ない。何もせずとも勝つ。それが僕だ。僕という存在なのだから。

 僕は──の受け皿なのだから。


「それを思い知らせてあげるよ。僕は優しいからね」


「ほざけ、人間。うん」

 

 圧倒的な力と力がぶつかりあった」

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