第21話

 僕は高速で頭を回す。 

 僕の視界には見えていた。捉えていた。

 手が。圧倒的で禍々しい力を保有した手が。

 

 すでに首を切り落とされ、力を失ったはずの魔怪が伸ばしている手が。

 

 ここにいるだけでもよくわかる。

 『あれ』はダメだ。次元が違う。『あれ』は、『あれ』の持っている力は今の僕に匹敵する。 


 そんな魔の手が僕の方に向かって駆け出す小夜に向いていた。


 僕の悪い予感は見事的中したのだ。

 すでに魔力は解除し、刀もしまっている。

 また刀を取り出し、再度魔力を解放して刀に流して。なんてしていたら間に合わない。

 魔力でなにか作る。

 無理だ。

 『これ』の攻撃を防ぎきれるようなものを作り出すことなんて出来ない。

 魔力にだって限界がある。

 ……今、『これ』の攻撃を防げるのはたった一つだけだ。


「小夜ッ!」

 


 それは『僕』だ。



「お兄、様?」

 

 僕は体を滑らす。

 小夜を守るように。


「ハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 誰かの、軽快で、悍ましい笑い声。


「え……?なんで?」

 

 小夜の困惑したような声。


「かはっ」

 

 口から真っ赤なものが流れる。

 ……これは血。僕の血だ。

 

 僕のお腹から黒く禍々しい爪が伸びていた。

 

 黒く禍々しい爪が僕を貫いていた。 


 禍々しい爪の先端は僕が手のひらで止めている。

 小夜の方に向かわないように

 『僕』という硬いものを貫いたおかげでその爪の速度はかなり落ちていた。

 そのおかげでなんとか手のひらで止めることが出来ていた。

 たらりと手のひらから赤い血が流れる。

 

 ぷるぷる

 

 腕が震える。

 

「はぁはぁはぁ」

 

 僕の口から荒い息が漏れる。


「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 その場に小夜の絶叫が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る