第26話
「すぅーはぁー」
私は深呼吸を一つする。
覚悟は決めたはずだ。
とうの昔に覚悟など決めたはずだ。
しかし、私の心臓は意思と反して高鳴っていた。
心臓の音が痛い。
無機質な真っ白な壁、天井、床。
見慣れた光景。
忘れたくても忘れられない。
私という存在の奥深くにまでこびりついた忌まわしき記憶。
「メーデン様?」
「……いや、大丈夫だ。行くぞ。刹那様を待たせるわけには行かない」
心配そうに声をかけてくれる部下に私は声を返す。
刹那様はここに乗り込んでからすぐに『我に我の仕事がある……』と言ってどこかに行ってしまった。
刹那様のお考えは私のような凡夫には理解できない。
おそらく私なんかでは想像することも出来ない思惑があるのだろう。
だが、私は任されたのだ。失敗は許されない。
私は頼りになる部下たちの顔を見て頷き、自分の頬を叩く。
しっかりしろ!私!私は心を殺し、戦意を高ぶらせ、刹那様を思い出す。
この子達は私が世界各国を周り、集めた部下たち。
貧困に苦しみ、明日生きることすらままならない子どもたち。
私が打たれた薬より弱い薬を打ち、私が改造を施した子どもたち。
私が『ジュネシス』より打たれた薬は『魔力』を再現するための薬。
『魔力』
それは遥か古代の神が持っていたとされる力。そして、刹那様お持ちになっている力。
あの『陰陽師』や『侍』たちが持っている『呪力』や『剣気』とは違う。
長年の修練、幼少期からの慣習、血筋などによって自然と身につく『呪力』や『剣気』とは違い、それは生まれながらのもの。
どんな修練を積もうとも『魔力』を手にすることは出来ない。
私に打たれた薬は人工的に魔力を再現する薬なのだ。
私は完全な『魔力』ではないものの似たような力『儀典魔力』を持っているのだ。
それは私の部下も同じ。
「はっ」
進みだした私に部下の子たちが付いてきてくれる。
「何者だ!」
「邪魔だ!」
私達は自分たちの前に立ちふさがる敵を一刀両断の元切り捨てる。
「馬鹿な……!その力は……!」
施設内で活動する研究員、戦闘員は私達の使う力を見て驚愕する。
それも当然だろう。
自分たちが開発した力を私達が振るっているのだから。
自分たちが開発した力が自分たちに向けられる恐怖を思い知るがいい。
私達は刀を振るい、進み続ける。
「メーデン様!人命の救助は!」
「後でいい!まずは制圧が急務だ!」
私は部下たちに命令を下す。
私と同じように白い殺風景な部屋に閉じ込められているであろう人たちのことはまずは放置して先に進む。
……。
私の脳裏に浮かんだのは私と同じ施設に捕らわれていた人たち。
実験によって残骸となった人たち。
自分の表情が、心が歪みそうになるのをなんとかこらえて先に進む。
あぁ。
やはりここは嫌だ。
もう乗り越えたと思った記憶が。私にずしりとのしかかる。
それを見ないふりして私達は先に進む。
そして、開けた場所に出た。
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