第25話


「今宵も月が綺麗だ」


 僕はぶどうジュースがなみなみと注がれたワイングラスを掲げる。

 ワイングラスがあんてぃーくな照明に照らされ、輝く。

 ここは僕の秘密基地。

 コツコツと小夜から貰えるお小遣いを使って物を準備した最高の一室。

 高層マンションの最上階にあるこの一室を飾っているのは世界が誇る一流の品々のみ。

 僕のような神に選ばれた者を飾れるのは一流の品々だけなのだ!

 よく銘柄とかブランドとか知らないからなんとなくでしかないんだけど。

 あ、そういえば道端で適当に拾った絵もあるか。かっこよかったから拾って飾ったりなんかもした。絵の良し悪しなんて誰もわからないよね!

 小夜から貰っているお小遣いだけじゃ足りなくて、自分で増やしたたりなんかもしなきゃいけなくて大変だったけど、とても満足のいくものになった。

 満足である。

 葉巻とお酒とかにも興味あるけど、まだ我慢だ。

 僕は夜空で美しく輝く月を眺めながらワイングラスに注がれたぶどうジュースを口に含む。

 

「刹那様。準備が完了いたしました」

 

「うむ」

 

 僕はいつの間にか跪いていたストーカーさんの言葉に頷く。

 ……。

 ………。

 ふぇ?いついたの?

 ここ、僕の秘密基地なんだけど。

 なんで?なんで?なんで?

 なんで!?

 なんでここがバレたの!?秘密基地が秘密じゃなくなった!?

 後、刹那って誰?

 でも、かっこいいからおけまる水産。

 

「……時は満ちたか。今宵は闇の世界。影の世界。紅の世界の前触れ。月は今隠れる」


 僕は雲に隠れゆく月を眺めたまま独り言のように話す。

 ストーカーさんがこの場所を知っていたことには驚きだけど、僕は今気分がいい。一緒に楽しもうじゃないか。夜のひとときを。

 

「えぇ。今宵は月が隠れし影の世界。それは私達に相応しき夜にございます。私の命により『グロプス』総勢214名。いつでも行動可能です」


「そうか」


 ……ほえ?

 グロプスって何?かっこいいけど。響きがカッコいいけど!

 かっこいいな!何のことを言っているのかはさっぱりわからないが、その言葉を選ぶとはストーカーさんもセンスがいい。


「全ては君たちに任せよう」

 

「……!あ、ありがたき幸せ」

 

「だが、フィナーレは僕が奏でよう。異論はないな?」


「えぇ。あるわけがありません」

 

「自由に動くことを許可する。我には我の仕事がある」


 僕は席を立ち、剣を召喚する。

 そして、僕が一歩。また一歩と歩くたびに僕を飾る装飾品の数々が増えていく。

 それらは僕の魅力を引き立て、力を増幅させる。


「さぁ」

 

 僕は自らの魔素を活性化させ、隠していた魔力を開放する。

 僕から開放された膨大な量の魔力は空間を捻じ曲げる。

 さて、これから何をするのだろうか?

 夜のお散歩にでも行くのかな?

 とりあえずはストーカーさんについていこう。

 面白いことがあるといいな。

 

「今宵もまた月が煌めく」

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