第12話
壁も、床も、天井も、着せられている服も白で統一された無機質な空間。
部屋の真ん中で泣きじゃくる私を痩せこけた白衣の男の無機質な瞳が貫く。
なんで、なんで、なんで。
私は自問自答する。
お父さん……お母さん……。
私の脳裏に浮かぶのはぐちゃぐちゃになった車の中で血を流すお父さんとお母さん。
私は黒い影に捕まえられながら必死に車の中のお父さんとお母さんに手を伸ばす。
でも、届かない。
私とお父さんとお母さんの距離はどんどん離れていく。
そして─────
どこに居るの……お父さん……お母さん。
■■■■■
私がここに連れてこられてから一体どれほどの時間が経っただろうか?
痩せこけた白衣の男から何か怪しげな液体を注射されながら思いに馳せる。
最初の頃は恐怖に怯え、泣いていた注射にももう慣れてしまっていた。
「実験の方はどうだ?」
真っ白で無機質な部屋に男が入ってくる。
年は30半ばくらいで、鍛えられた屈強な体躯に鋭い眼光。
私の知っている中でここで一番偉い男だ。
「ヒ、ヒヒヒ。試作品の方は完成いたしました」
痩せこけた白衣の男が懐から箱を取り出す。
箱の中に入っていたのは二本の薬品の入った注射。
「なるほどな……やってみろ」
「ヒ、ヒヒヒ」
痩せこけた男は不気味な笑みを浮かべながら私に近づいてくる。
そして箱から一本の注射を取り出す。
「ヒッ」
私の口から小さな悲鳴が漏れる。
私の本能が警鐘を鳴らしていた。あの薬はやばいと。
いつも打たれている注射とは違う。
恐怖に震える私を無視して近づいてくる。
そして、私にその注射を容赦なく打ち込んだ。
「あっ……がっ!」
私の身体が痙攣し始める。
熱い、熱い、熱い。
身体中が、細胞の一つ一つが、熱く燃え盛る様を幻視する。
私が燃えて、燃えて、燃えて、
堕ちて、堕ちて、堕ちて、
堕ちていく、昇っていく。
熱い、熱い、熱い。
無限の、夢幻の。
あぁ。全てが夢で幻だったらいいのに。
泣きたい。……でも、とっくに涙なんか枯れてしまった。
最早涙を流すほどの感情も気力の残されていなかった。
なんで……なんで……なんで……私ばかりこんな目に。
「素晴らしい……成功だ……!」
「ヒヒヒ」
苦しむ私を他所に二人の男は歓喜の声をあげる。
「おい、いつになったら本薬が出来る?」
「ヒヒヒ、今すぐにでも」
薄れゆく、掠れゆく、意識の中ゴソゴソとした音が私の耳に残る。
「ヒヒヒ、完成だ……完成だ……伝説上の───に近い力だ。出来た。出来たぞ。ようやく形になった。ようやく一歩進んだ。これに更に改良を加えていけば……」
「おぉ。素晴らしい。これで私も……」
「───様!大変です!侵入者です!」
真っ白な無機質な部屋に一つの気配が増える。
「何!?侵入者だと!?何者だ!」
「わかりません!敵は一人の模様ですが、圧倒的な力で蹂躙しています!我々では歯が立ちません!」
「なっ!急いで奴らに出撃命令を下だせ!それと研究成果は念のために避難されて」
爆音。
壁が壊される音が響く。
「ん?なんか変なのいない?」
小さな少年の声が私の脳を揺らした。
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