別れ

 自分が競馬をしっかりと見るようになったのは本当に最近のことで、2018年のオークスからだ。別に競馬を忌避する家庭環境でもなかったのでそれまでにもテレビで大レースが映っているのを見た覚えはあり、競馬に何の関心もないわけではなかったが、ともかく本腰を入れて見始めたのはたった3年ばかり前のことだ。

3年という短い期間の中でも古今東西のたくさんの名馬の存在を知り、また幸運なことに何頭かのスーパーホースの誕生を目にすることもできた。一方で、時が流れる限り避けることのできない悲しみも知った。


 2019年、7月。午前中にあった用事を済ませ、日差しの降り注ぐ駅のホームで一息ついていたときであった。高校生ぐらいの二人組が通りかかったときに、片方がスマホを見ながら「ディープインパクトって…」と発したのが耳に届いた。学生服とあまり結びつかないような単語に違和感を覚え、スマホのニュースをチェックしてその見出しが目に入ったとき、一瞬思考が停止した。

「ディープインパクト死す」

自分はディープインパクトのレースをリアルタイムで見たことはない。それでも競争成績、種牡馬成績共に日本競馬のチャンピオンホースだというのは当然知っていたし、全レースを集めたDVDを借りてきて何度も見たほどだ。そして何よりも、種牡馬としてバリバリに活躍しているという認識があった。17歳。物凄く若いとはいわないが、それでも早すぎる死だと思う。本当にショックだった。

 それから1月と経たないうちに、ディープインパクトに並ぶ日本競馬の巨星、キングカメハメハの死が伝えられた。こちらは体調の悪化から既に種牡馬を引退して余生を送り始めた矢先だったと知っていたので、ディープインパクトとはまた違った寂しさを覚えた。思えば2019年は4月にウオッカも15歳の若さでこの世を去り、こんな残念なこともあるのかと悲しんだが、その時はまさか半年経たないうちにその「残念なこと」が何度も連続するとは思っていなかった。20歳、30歳といった、自分にとってはすでに遠い歴史上の存在にも思える名馬ではなく、二十一世紀を彩った、自分よりも年下の馬が唐突に死ぬという事実に直面した年だった。

 それからさらに時が経った今年の夏、ドゥラメンテの訃報を目にした時、春前に種牡馬展示で元気な姿を確認していたために全く実感がわかなかった。悲しみや寂しさといった感情が追いついたのはかなり後のことであった。


 以上に挙げた出来事は特に印象に残っていたもので、この3年間にこの世を去った名馬たちは他にも数多くいるし、その度に胸が痛んだ。しかしそのほぼ全ては自分が競馬にどっぷりと浸かる以前に引退した馬たちで、それでも大きな衝撃を受けることが何度もある。

 そしてこれから先も競馬を続ける限り、今度は自分がリアルタイムで熱狂し、愛した馬たちとの永遠の別れが必ず、そして唐突に訪れるのだ。そのとき自分がどのような感情を抱くのか。それを知る日ができるだけ遅く来ることを切に願っている。

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