Prologue2.オペレーターの憂鬱

電車を降りて会社へ向かった。

車内では、皆スマホを取り出して画面を見ている人が多い。

ラインで連絡でもとっているのだろう。


会社に着いて一番最初に行うことは、使用している機器の電源を入れることだ。

会社では、電子機器が所狭しと並んでいて周囲の同僚も電子機器を使用して仕事を行っている。

この電子機器であるが定期的に点検作業が行われることになっているのだ。


つい最近、電波について考える機会があったことから、点検作業の日がいつか気になっていた。

点検作業では、人間は適切な電磁界の範疇で作業が出来ているかどうかをチェックするのである。

ガイドラインがあり、それに照らし合わせて計測するだけなのだが、電界や磁界からどれだけ影響を受けているかの指標となるようだ。


この日は点検作業があるということで、午後から仕事をいったんやめていた。

点検作業では、「磁束密度」と「磁界強度」、それに「電界強度」の3点を機器を使用して調査する。

簡単な作業だが、会社としては非常に重要な要件なのだ。

社員は皆、オペレーターに当たる。

調査の結果、強い電磁界に暴露されていると判断されてしまうとマズイわけだ。

オペレーター全員の作業環境が良くないということなので、皆作業するのを渋るかもしれない。

また、点検作業での調査結果は当然公表出来るものでなければいけない。


点検作業はすぐに終了した。

なぜか、私の作業環境だけが強度の電磁界に暴露されているという驚愕の結果となってしまった。

会社では、私のデスクを他に移動するようにとの指示が出され、今後も仕事は続けることになった。


「う~ん、もやもやするなあ」とチラと思いながら、この日も電子機器をフル活用して仕事に励んだ。

考え過ぎは良くない、と常々言っている私であるが、さすがに仕事環境の悪さにはかなり頭にくるものがあった。

強度の電界、磁界は健康に悪影響を及ぼすという事が知られており、海外では論文も散見される。

会社での対策に危機感を持ったので、大袈裟かもしれないが作業中に絶縁手袋や防護衣等を自前で用意しようかなと思った。


一般の会社とは関係が無いが、医療分野で働く人にはこういった事柄は当然のこととして広く知られている。

医療電子設備や機器を扱う病院等では、立ち入り制限が行われていたり、可視警報の使用等の対策が講じられているのである。


一般家庭でも、送電線の近くに住んでいる方や家庭内での電子機の放つ電波が気になる方は大勢いる。

そういった方は、自ら測定機器を用意して携帯電話や家庭用電話機器の放つ電波の強さを測定しているのだ。

案外と家庭用電子機器の電界の強さに驚くかもしれない。


私も家庭内で、事ある毎に電界の強度を測定しているのだが、かなりの強度に眩暈がする程だ。

一定限度を超えるとアラートが鳴るように設定しているのだが、何度もその音を聞いた。


家の中でもこういった状況であるのに、さらに会社でも電界に暴露されているので呆然としている。


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