第158話 オリハルコンの槍
かつて水の精霊であるカゲトラが持っていた槍。その槍はオリハルコンで作られた槍だった。俺たちのパーティーには槍を得意とする人がいなかったので魔法袋の肥やしになっていたのだが、まさかここで役に立つだなんて。
俺たちは一度、槍を受け取るために飛行船へと戻った。
「どうだった?」
「大きすぎて無理だね。それに壊したところでほとんど魔石に影響がないみたいなんだ。これじゃ一生かかっても魔石の魔力を枯らすことはできないよ」
「お手上げじゃないか」
それを聞いたアーダンがあきれたような声を出したが、その顔は笑っていた。きっと俺たちが何か対抗策を見つけたことを感じ取ったのだろう。
「まあそうなんだけど、トパーズの話によるとオリハルコンの槍があればどうにかなるかも知れないんだ」
「なるほど、そう言うことか」
すぐにアーダンが魔法袋からオリハルコンの槍を取り出した。それを見たトパーズが目が飛び出しそうなほど驚いている。
「本物だわ。どこでこれを手に入れたの? 大昔に海の中に沈んだはずなのに」
「カゲトラが持っていたんだよ」
「さよう。これも何かの縁でござろう。それがしもどこでこれを手に入れたのか、サッパリ分かりませぬがな」
首を振るカゲトラ。思い出せなくて残念そうな顔をしているが、カゲトラのおかげで切り札が手元にあることには間違いない。
「これをどうすれば良いの?」
「オリハルコンの槍は魔力を込めることで切れ味が高まるという不思議な特性があるのよ」
「そんな力があったのか。それじゃ、俺が魔力を全力で込めれば、魔石を切れるかも知れないってことだね」
「そう言うことよ」
魔石が『この星』の本体であるならば、魔石を切ることで直接ダメージを与えることができるはずだ。何度も繰り返せば完全に破壊することも可能だろう。
この話はジルとエリーザも聞いていた。
「それじゃフェルはあの魔石に槍を持って突っ込むことになるのか。俺は空も飛べないし、フェルが適任と言えばそうだが……ちなみに一応聞くが、槍を使ったことは?」
「今日初めて握るよ」
「しっかり両手で持っておけ。両手の間隔は離しておくんだぞ」
ジルが槍を持って見せてくれた。これなら槍を抱えて突撃するくらいはできそうだ。飛行魔法を使えばあっという間に魔石まで到達することができるはずだ。
「リリア、俺が魔法で作った穴はそのままなのかな?」
「ええ、どうやらそうみたいね。たぶん『この星』が元に戻せるのは、トパーズと分離したあとの形みたいだわ」
「それは朗報だね。毎回穴をあけることなれば大変な作業になっていたところだよ」
「確かにそうだわ。あたしたち、ついてるわね」
魔石までの最短距離の穴をあけていて良かった。これで遠慮なく正面から突っ込むことができるぞ。
オリハルコンの槍を手に取り再び空を舞った。研究員たちが飛行船をうまくコントロールしてくれているおかげで、付かず離れずの距離を保ったまま飛んでいる。
「よし、魔力を込めて突っ込むから、みんなはこの位置から援護を頼むよ」
「一人で行くの!? さすがに危険だわ」
「大丈夫。高速飛行で突っ込むだけだからさ。リリアが置いてけぼりになっちゃうよ」
「さすがにそれはないと思うけど……分かったわ。フェルにバリアの魔法を使っておくわ。だから攻撃に集中しなさい」
「ありがとう、リリア」
リリアが幾重にもバリアの魔法を使う。さすがにやり過ぎなのではないだろうか。パッと行って、パッと魔石を砕いてくるだけなので大丈夫だと思うんだけど。
「それじゃあボクたちは周囲の状況を随時報告します」
「何かあればすぐに助太刀しますぞ」
シルキーとトパーズもそろってうなずいている。準備はできたようだ。それを確認してからオリハルコンの槍に魔力をそそぐ。
ドンドン俺の魔力を吸収するオリハルコンの槍。際限なく魔力を吸い込みそうな感じである。精霊たちと同化したことで自分の魔力はかなり多いと思っていたのだがそれでも足りないようだ。
魔石に突っ込んでから戻って来ることができるくらいの魔力を残しておく。俺の持つ魔力を限界まで込めた槍は内側から力強く鼓動しているようだった。今のオリハルコンの槍なら何でも両断できそうな気がする。
「それじゃ行ってくるよ」
「本当に気をつけてよね。まあ、フェルなら大丈夫だと思うけどさ」
リリアの頭をポンとなでてみんなから離れた。徐々に速度を上げていたら、相手が何か仕掛けてくるかも知れない。だから最初から最高速度で飛ぶつもりだ。そうなると、周囲に多少の風による被害が出る。小さなリリアたちにはひとたまりもないだろう。
リリアたちから飛行船三隻分ほど離れたところで高速飛行魔法を使った。この魔法は速度だけはものすごく速い。そのため今の俺ではうまく方向転換できないが、今回の作戦にはピッタリの魔法である。
俺たちの動きに気がついていないのか特に変化は見られない。そのまま油断してくれていると良いのだけど。
俺は槍抱えて一直線に魔石へと飛んだ。あっという間に島が、魔石が近づいて来る。今のところ妨害はない。あれだけの大きさの魔石だ。外すことはまずないだろう。
もしかすると一撃で魔石を破壊することができるかも知れない。そうなれば『この星』の暗躍もこれまでだ。槍を持つ手に力が入った。
ガキン! と鈍い音を立てて槍と魔石が激突した。槍を持つ手が一気にしびれた。槍から手を離さないようにするだけで精一杯だ。
魔石には――傷一つついていなかった。
「そんな」
俺がつぶやくのと同時に周囲の石や岩が襲いかかっていた。それらは全てリリアが施してくれたバリアの魔法が防いでくれた。オリハルコンの槍に込めた魔力は霧散したわけではないようで、まだ槍の中にとどまっている。つまりは単純に込める魔力量が足らなかったと言うことなのだろう。
追撃を避けながらスピードを上げて一気に飛行船へと戻った。すぐにリリアたちが集まって来た。『この星』はここまでは石を飛ばしてこなかった。飛行船が落ちるのはまずいと思っているのかも知れない。
「フェル、大丈夫!?」
「大丈夫だよ。腕がしびれただけさ」
「兄貴、ここまで音が聞こえましたよ。跳ね返されたみたいでしたが」
「そうだね、跳ね返された。でも魔法で跳ね返されたわけじゃない。直接魔石に当てることができたよ」
手応えはあった。傷つけることはできなかっただけである。
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