第152話 魔石

 昨日立てた予定通りに、まずは人工的に掘られた穴へと向かった。相変わらず穴の近くまで来ても何の反応もなかった。


「それじゃ、中に入ってみるとしよう。俺とジルが中に入る。他は外で待機だ。何かあったら対処してくれ」

「任せておいてよ。気をつけてね」

「ああ、そっちもな」


 ランプの魔道具を手にしたアーダンが穴の中へと入っていく。ジルの手には昨日作製した地図が握られている。一本道なので迷うことはないと思うのだが念のためである。

 周囲を警戒しつつ入り口で待っていたが、特に何事も起こることはなくアーダンたちが戻って来た。


「特に何もない通路だったな。古代遺跡で見られたような通路を照らすための魔道具もなかった」

「生き物の気配もなんもねぇ。そのまま奥まで進めば魔石のある場所まで行けるだろうな」


 ちょっとつまらなそうにジルが足下に石を蹴っていた。だがしかし、昨日の話し合いではこの怪しい通路は使わずに、新たに別の場所に俺が穴を掘ることになっている。

 再度そのことを確認すると、魔石までの最短距離にある地点を目指した。


 島の中央にある山の麓までやって来た。この場所も他の場所と同様に岩だけが転がっている不毛地帯だった。

 地面を確認する。どうやら地表の岩の下には固い岩盤があるようだ。これなら穴を掘っても崩れてくることはないだろう。


「大丈夫そうだね。予定通りに穴掘りを開始するよ」

「任せたぞ。周囲の警戒は俺たちに任せて作業に集中してくれ」

「了解。ピット」


 落とし穴を掘る魔法を使い、まっすぐ魔石に向かうように斜め方向に穴を空けた。穴の大きさは大人が三人両手で広げても入れるくらいの大きさだ。先ほどアーダンたちが入った穴と比べると三倍以上の大きさである。これだけの広さがあれば、ゴーレムが現れても十分に戦うことができるだろう。


「何の反応もないわね」

「そうだね。全く気にしていないみたいだね」

「気にしていないと言うよりかは、もしかして誘われてる?」

「……」


 作業を中止して、もう一度みんなで話し合うことにした。もうすぐお昼の時間になるし、ちょうど良いだろう。突然作業を中断した俺を見たアーダンたちが首をかしげながら迎えてくれた。


「どうした、何か問題でもあったのか?」

「お昼休憩の時間にしたいと思ってさ。それとリリアが言ったんだけど、もしかして俺たち、誘われているんじゃないの?」

「誘われている、か」


 腕を組んで考え始めた。俺たちを誘い込んでどうするつもりなのか。まとめて始末するなら、別に今の段階でも良いわけだし、それをしないということは別の意図があるのだろう。それが何なのか気になるな。安易に魔石に近づかない方が良いような気がする。


 昼食を食べてる最中もその話になった。魔石のある場所に行くとどうなるのか、触れるとどうなるのか、何かあった場合、すぐに逃げ出すことができるのか。検討する項目はたくさんあった。


「魔石がある場所の周囲は広い空間になっているんでしたよね? そこに何か装置のようなものがあったりはしないですか?」

「うーん、今のところこれと言ったものがないのよね。天井が崩れているのか分からないけど、岩らしきものが転がっているみたいなんだけどね」


 研究員の質問にリリアが眉間に指を当てながら答えた。確かに何かが転がっている反応はあるのだが、それが何かの装置なのかまではさすがに判断できなかった。研究員たちはそこに行けば何かしらの装置があると思っているのだろう。俺も何かあるならそこだと思う。


「行ってみるしかなさそうだな。せめてこの島に古代遺跡があって、そこから何かしらの情報が得られれば良かったんだがな」

「仕方がないさ。何にもないからな、この島」


 ジルの言う通り、今のところこの島には魔石しかなかった。このまま王都に戻っても、再びだれかがここに来ることになるだろう。それならば、もう少し踏み込んで調査した方が後々役に立つはずだ。


「それじゃ、午後からは穴掘りを再開するよ。岩盤は固いみたいだから遠慮なく掘ることにするよ」

「よろしく頼む。まずは魔石までの道を作ろう」


 午後からの作業でも妨害はなかった。掘り始めたときとほぼ同じ速度で魔石までの道を掘ることができた。魔石のある空間とつながるときにはさすがにみんなで警戒したのだが、結局何も起こることはなかった。


 魔石のある空間は特殊な魔法が施されているからなのか淡い光に包まれており、ライトの魔法が必要のないくらい明るかった。


「あれがこの島にある魔石か。さすがに大きいな」

「土の精霊の影響かしら? 普段見慣れている魔石よりも茶色を帯びているわね」

「言われて見ればそうだな。普通の魔石はもっと黒に近い色をしていたはずだ」


 暗く焦げ茶色に鈍く光る魔石が地面から突き出していた。アナライズで確認した限りでは地面から飛び出ている部分と同じくらいの大きさが地中に埋まっているようだ。あれを引き抜くのは困難だろう。


「フム、この部屋にも古代人が残した物はなさそうだな。これは『聖なる大地』を作ったのは古代人ではないな。別の何かの力が関与していると考えるべきだな」

「そうだろうな。だが古代人と無関係とは思えない」


 二人の研究員が双眼鏡を片手に部屋の隅々まで確認している。研究員たちの言葉には思い当たることがある。もしかすると、この空飛ぶ島を作ったのは前世の俺である妖精王なのかも知れない。どういった経緯でそうなったのかまでは分からないが。何せ俺には前世の記憶がないからね。


「ピーちゃん、妖精王がこの島を作ったと思っているんだけど、どうなの?」

「恐らくそうでしょう。ただ、直接見たわけではないので確信はありませんけどね」

「カゲトラとシルキーはどうなの?」

「そのような話は聞いたことがありませぬな」

「分からない。私は最初に封印されたから」


 自由に世界中を動き回ることができそうな風の精霊は最初に封印されたのか。島を空へ浮上させたのなら水の精霊であるカゲトラが何か知っていそうだけど、知らないと言うことは土の精霊が封印されるよりも前に、水の精霊は封印されたのだろう。


 リリアは「聖なる大地」のことを知らなかったので、聖なる大地と妖精王との関係を聞くまでもなく知らないだろう。でも薄々この島を作ったのが妖精王だと気がついているのではないだろうか。どうも先ほどから表情が暗く、口数が少ない。今も魔石をジッと見続けている。


「魔石は確認できたがこれからどうしたものか。あの魔石の中に土の精霊がいるのかどうか、分からないか?」

「それが全く反応がありませんね。ここまで近づけば何かしら分かると思ったのですが……」

「反応がないということは土の精霊はいないと考えた方が良いであろう。あれは『この星』とつながっているナニカと見た方が良いかと」


 今のところ、精霊たちには悪影響をおよぼしていないようである。三人は何か少しでも情報を得られるようにするためなのかジッと魔石を見つめていた。

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