第151話 聖なる大地の秘密

 昼食を終えた俺たちは再び島の探索を続けた。グルリと島を一周するべく、なるべく島の外縁を歩く。当然そこには道はなく、むき出しの岩が続いているだけだ。


「転げ落ちたら助からないね」

「そうね。あたしたちは問題ないけど、他の人は無理そうね。もちろん落っこちる前に助けるけどね」


 ほぼ一日がかりになってしまったが、それでも無事に一周して飛行船のところまで戻って来ることができた。何が起こっても良いように夕食は飛行船の中で食べた。


「特に何事もなかったな」

「ハーピーなんかの空飛ぶ魔物の姿も見えなかったな。ちょっと期待外れだ。ゴーレムくらいは襲ってくるかと思ったのに」


 つまんなそうにジルが料理を突いている。確かに意外ではある。てっきり俺たちを排除しようと攻撃してくると思っていたのに。そうでなくとも、何かしらの変化はあると思っていた。


「この島には古代人の痕跡が何もありませんでした。これは私たちの見解を改めなければなりませんね」

「そうですね。この島は古代人が作った物ではないという結論になりそうです。もし古代人が作ったのならば、何かしらの制御装置や島を浮かべるための設備があって良いはずですからね」


 ちょっと残念そうに研究員たちが話している。きっとここには古代の英知が残っていると期待していたのだろう。古代人とのつながりはありそうだが、それほど深くはなさそうだ。


「そうなると、この島は魔法で浮かんでいるって言うことになるのかな?」

「そうなるだろうな。だがそうなると、一体だれがどうやってその魔法を維持しているんだ?」

「魔力の供給源はたぶん島の中央付近にある魔石でしょうね。島全体が魔力に満ちてるってリリアちゃんが言ってたから、それで浮かべているんじゃないかしら?」


 確かに大きな魔石がそこにはあるけど、何千年もそれを維持していたら、いずれは魔力切れで地面に落ちると思う。もしかして……。


「古代人がコンパスを残したのは魔力切れでこの島が地上に落ちる前に魔力を補充してくれってことなのかも知れないね」

「なるほど、あり得そうだな。だがフェルはともかく、普通の人が魔力を魔石に補充できるものなのか?」

「うーん、もしかしたら何かしらの装置がそこにあるのかも知れないよ」


 可能性はあると思う。魔石がある場所にはきっと何かがあるはずだ。俺たちの話に興味を持ったのか、研究員たちはあれこれと議論をかわしていた。


「明日はどうするの?」

「そうだな、今日は島の詳細な地図以外には何も得られたかったからな。明日は今日よりも少し魔石がある方に近づいてみるとしよう」


 さすがに地図の作製だけでは帰れないと思ったのだろう。それが冒険者としての誇りなのかどうかは分からないが、反対意見は出なかった。


「それじゃ、どこから向かう? あの怪しい通路を使うか、それとも別の場所から向かうか」

「フェルとリリアちゃんがいるなら、想定外の場所から穴を掘って向かうこともできるわね」

「確かにそうだけど、勝手に島に穴を掘っても大丈夫かが気になるところだね。この島の耐久性によっては崩れることもあるかも」

「まあ、魔法で浮いているみたいだし、崩れても空には浮かんでいると思うわよ。ほら、島の外に浮いている岩がいくつかあったでしょう?」


 確かに言われてみればそんな岩があったような気がする。リリアの説明に納得したかのようにアーダンがうなずいているので、どこかで見覚えがあるのだろう。


「よし、まずは午前中に見つけた穴に少しだけ入ってみよう。すぐに外に出られる範囲なら問題はないだろう。そこで変化があれば、何か新しい情報が得られるはずだ」

「もし何も起こらなかったら?」

「試しに魔石までの最短距離をフェルに掘ってもらう。それでも変化がなかったら魔石のある場所まで行ってみよう」


 さすがに島に穴を掘れば何かしらの反応があると思う。きっとアーダンもそれを期待しているのだろう。聖なる大地に到着してから不気味なほどに何も起こっていない。そのことが引っかかっているのはアーダンも同じようである。


「なーんか引っかかるのよねー。今までだったら絶対に邪魔が入ってたのに全く反応がないだなんて。土の精霊が完全に『この星』に意識を乗っ取られているのなら、どうして攻撃してこないのかしら。それともこれから来るの?」


 リリアがそう言って首をかしげると、エリーザが不安そうに眉をゆがめた。


「これから来る……それなら飛行船は離陸して、少し離れた場所に移動した方が良さそうじゃない?」

「確かにそうかも知れないな。ライトの魔法で地面を照らせば、飛び立つくらいはできるか?」

「その方法なら飛び立つことはできるが、さすがに暗闇の中を飛行するのは無理だぞ」


 俺たちの話が聞こえたのだろう。研究員の一人がそう言った。島付近は明かりで見えるだろうが、少し離れれば真っ暗闇が続いているのだ。真っ暗闇の中を飛ぶのは危険だと判断したのだろう。


「それじゃ、腹をくくってこの場で一晩過ごすしかないな」

「ちゃんとバリアを張っておくから大丈夫だよ。と言うか、バリアを張っていれば夜間飛行も可能なのでは?」

「……事前に試しておくべきだったな。さすがに何の準備もなしにそれをやるのは危険性が高すぎる」


 十分な準備をしておいたつもりだったがそれでも足らない部分があったようだ。研究員たちは飛行船二号には安全対策として、バリアを張る魔道具を搭載しようと話し合っていた。飛行船の安全性が高まるのはとても良いことだと思う。空の上で事故が起こると大変なことになるからね。


 結局その日の夜は特に襲撃されることもなく、次の日の朝を迎えた。エリーザは警戒していてよく眠れなかったのか、目の下にクマができていた。敵が来ればバリアが反応するから大丈夫だと言ってあるのだが、さすがに空の上だと安心できなかったようである。


「おはようリリア。……どうしたの? 眉間にシワが寄っているけど」

「おかしい」

「おかしい?」

「どうして何も起こらないのよ。あたしたちがこの島にたどり着いたことに気がついているはずだわ。おかしい、怪しい」


 リリアが「ぐぬぬ」みたいな顔になっている。実は土の精霊が頑張って「この星」を食い止めているとかじゃないかな? だとしたら、早く助けに行かないと。


「みんなは何か感じなかった?」

「何も感じませんね」

「ありませんな」

「ない」


 精霊三人衆がそろって首を振っている。土の精霊が頑張っているなら何かみんなが感じ取れそうな気がするんだけどな。それがないということは、その可能性はないのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る