第150話 島の探索

 古代人が用意してくれていたのだろう。ちょうど良い具合に、飛行船が着陸できるような平地があった。


「どうやら俺たちが先に島に降りて、地面を平らにする必要はなさそうだね」

「そうね。これだけ広くて平らなら、ここに立派な拠点を作っても良いわね」


 島に降り立った俺たちの目の前にはゴツゴツとした岩が散乱していた。その向こうには大きく鋭い山が見える。アナライズの反応はあの山の麓からのようである。

 島の調査では研究員の半分が飛行船で待機することになっている。そして何かあった場合はすぐに離陸する手はずになっていた。飛行船にはこの場所を示す大事なコンパスがある。最悪それだけは守らなければならない。


「このまま何事もないと良いけどな」

「無理だろうね。必ず何かあるはず。慎重に進まないとね」


 俺の返事にアーダンが苦笑した。ジルは少し先を行っている。俺たちについてくる研究員たちは少し後ろだ。何かあればアーダンが研究員たち二人を抱えて飛行船まで走ることになっている。もちろんエリーザはジルが抱える。俺たちは魔法で援護だ。


「かなり近づいていると思うんだけど何も感じない?」

「感じませんね」


 精霊たちが首を左右に振った。どうやら助けに来るのが遅すぎたようである。これは間違いなく何か起こるな。それまでにどれだけの情報を集めることができるかだ。


「アナライズには何か反応はないのか?」

「今のところ動きはないかな。えっと、あっちに地下通路があるみたいだね」


 反応がある方を指差した。そこには大きな平らな岩が垂直に近い角度でそそり立っていた。俺の指示に従って慎重にその場所へと進んで行く。


「あの大岩の根元に穴が空いているな。あれがフェルの言う地下通路の入り口なんだろう」


 ジルが双眼鏡を片手にその周囲を見渡している。研究員たちも確認したようだ。「すごい魔法があるな」とささやいている声が聞こえた。確かにアナライズの魔法があれば、古代遺跡の発掘もはかどることだろう。失われた時代の魔法なのでそう簡単には教えることはできないけどね。


「何だかゴーレムが現れそうで怖いわね」

「リリア、魔力の流れはどうなの? ゴーレムが出て来そうなのかな?」

「可能性は十分にあると思うわ。島中、微量の魔力で満たされてるわね」


 その言葉にみんなが小さくうなずいた。元々油断などしてはいないが、穴に入る前に心の準備がしっかりとできた。ゆっくりと慎重に穴の方へと進んで行く。


「地下通路の中でゴーレムに遭ったら厄介だな」

「ここから見える限りではそれほど大きな通路じゃないわね」


 ライトの魔法で穴の奥をエリーザが照らしている。地面は平らになっており、人工物であるのは明らかだ。研究員たちが周囲の壁を調べている。


「ふむ、どうやら風化して壊れないように細工が施されているようだな。魔法なのか、魔道具なのかまでは分からないがね。これが魔道具なら何とか手に入れたいものだな。きっとみんな喜ぶぞ」


 研究員たちはうれしそうだが、今のところは魔道具のようなものは確認できていなかった。アナライズで調べた結果をみんなと共有する。オート・マッピングで地面にその地図を映し出すと、研究員たちが「実に素晴らしい魔法だ」と喜んでいた。


「あの山の麓まで一直線だな。これは絶対に何かあるぞ」

「そうだな。あとはどのタイミングで敵が姿を現すかだな」

「この通路を使うのは危険かも知れないね」


 ひとまずお昼の休憩にしてみんなで考え込んだ。敵がいないのならばこの通路を使うのが一番早く魔石にたどり着けるのだろうが、今回はその限りではない。時間はかかることになるが、この地下通路を使わない方が安全に魔石までたどり着くことができるだろう。それに、ゴーレムと戦うにしても広い場所の方が都合が良い。


「まずはこの島の全土を調査しよう。ある程度の地図はオート・マッピングで作ることができるんだろう?」

「そうだね。でも細かい植生なんかは分からないよ。地下に何かが埋まっているとかは分かるけど、それでも詳細は分からないね」


 アーダンは出発前にギルドマスターのラファエロさんが言っていたように、無理せず調査する方向で動くつもりのようだ。そうなると、今回は通路の奥には行かないことになるかも知れないな。


「島全体を調べたあとはどうするんだ? 怪しいあの通路の先も気になるぞ」

「そうだな、まずは島全体の地形を把握して、何か動きがないかを確認しよう。俺たちが島の上でウロウロしていれば、何か行動を起こしてくるかも知れん」

「手先くらいは送ってくるかもね。でも親玉は魔石の近くから動かないと思うよ。前に風の精霊を討伐したときに、魔石を守っていた魔物がそこから離れることがなかったからね」


 島の中央付近にある魔石の近くには特に何の反応もなかった。だが、守っている魔物がゴーレムならば、その状況でもうなずける。


「またゴーレムがいるのかな?」

「どうかしら? 今度はお化けがいるかも知れないわよ」

「不死身のゴーレムも困るけど、ゴースト系の魔物も困るね」


 ミスリル製の武器があるからまだ良いが、リッチなどの強力なゴーストが出て来るとさすがに苦戦することになるだろう。もしそうなった場合は精霊たちの力を借りて……。


「リリア、この空飛ぶ島の地中には魔力が含まれているの?」

「それがほとんどないみたいなのよね。地表を漂っている魔力ならそれなりにあるけどね」

「うーん、地表を漂っている魔力は魔石から出たものなのかな?」

「その可能性が高いんじゃないかしら? 地中に魔力がないのは元からこの島が魔力のない島だったからでしょうね。でも土の精霊が封印されたのに、そんなことってあるかしら。どちらかと言えば、大量の魔力が地中に流れ込みそうだけど」


 リリアが何やらブツブツと言っている。どうもこの島に流れている魔力が想像していたよりもずっと奇妙なようである。そう言えばこの島って古代人が浮かべたんだよね? それにしてはそれらしい魔道具の反応がないんだよね。


「奇妙なことと言えば、この島は古代人が技術の粋を集めて空に浮かべたものだと思っていたのですが、それにしてはそれらしい遺構が見当たりませんね」

「確かにそうですな。古代文明の遺跡がいくつも残っていてもおかしくはないはずなのに。先ほどの岩に空けられた穴も古代遺跡の遺構と言うよりも、何だか手彫りで掘ったような穴でしたな」


 研究員たちはそう言っているが、俺の見た感じではあれは魔法で空けた穴だと思う。ピットの魔法で穴を空けるとあんな感じになるんだよね。そのように俺が言うと、研究員たちは「とても参考になりました」と言って考え込んだ。

 古代人がこの島の位置を示すコンパスを持っていたからには、何か関わりがあることは間違いないだろう。そのつながりが何なのか、今のところは分からなかった。

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