第144話 一つに
いきなり中央の巨大魔石には近づかず周囲をグルリと回った。魔石から何かしらの反応があると思ったのだが、特に何も反応がない。巨大竜巻は相変わらず王城に向かって突き進んでいた。竜巻の周囲には少し前に吸い込んだがれきが、轟音と共に次々と放り出されている。
「何とかして止めないと。俺たちへの攻撃はないみたいだから、あの魔石を何とかすれば良いはずだよ」
「でもどうやって? エナジー・ドレインを使うにしても、あの大きさだとかなりの時間を使うことになるんじゃないのかしら」
「それもそうだね……ん? 何かがこっちに向かってきてる!」
アナライズにいくつもの反応があった。真っ直ぐにこちらへと向かって来ているということは、空を飛んでいる可能性が非常に高い。俺の肩に乗ったリリアがその方向をイーグル・アイを使って見ている。
「ハーピーよ、ハーピーの群れだわ! 自分が動けないから、きっと仲間を呼んだのよ。たぶんこの巨大な魔石自体は竜巻を作り出すことしかできないんだわ」
ハーピーの数は二十くらいだろうか? 空中戦でやり合うならちょっと面倒な数である。飛ぶことに集中する必要があるため、飛んでいる状態ではあまり強力な魔法を使うことができないのだ。ここは攻撃はリリアたちに任せて、俺は回避することに専念するべきか。
「あいつらはボクたちに任せて、兄貴と姉御は風の精霊を助けてあげて下さい!」
「左様。あの程度の魔物は我々だけで十分ですぞ」
「二人とも、何か分かったの?」
二人が大きくうなずいた。どうやら確信があるようだ。
「あの魔石の中に風の精霊の気配を感じます」
「恐らくはあの魔石の中に捕らわれているものかと。あの魔石を破壊すれば、風の精霊も解放されることと思います」
「あの魔石を壊す……」
それはエナジー・ドレインで魔力を吸い取るのはまずいということなのかな? 確かにそんなことをすれば、風の精霊もろとも吸い出すことになりかねない。そうなれば、風の精霊がどうなるのかは分からない。
「あの魔石はやっぱり『この星』が用意したものなのかしら?」
「そうじゃないかな? それとも、操られた風の精霊が魔力を他から集めた結果、自らが魔石化してしまったという可能性もあるな」
「それならあの魔石をぶっ壊して、風の精霊に直接話を聞くしかないわね」
リリアはあの魔石を壊すつもりのようである。でも一体どうやって? 火の精霊のときと同じように、魔力を大量にそそぎ込んで破壊するか? いくら俺が保持できる魔力量が多いとは言っても、人間なので限界はあるぞ。以前の何倍も大きい魔石を壊すには俺二人分くらいの魔力がいるだろう。
それならリリアから魔力を分けてもらうか? そのためにはリリアにエナジー・ドレインを使う必要がある。そんなことをして大丈夫なのだろうか。それにエナジー・ドレインで魔力を吸収するのには時間がかかる。
その間にそそぎ込んだ魔力が竜巻を巨大化させることに使われでもしたらたまったものではない。可能な限り短時間で終わらせなければ。
ピーちゃんとカゲトラは今、ハーピーと戦闘中だ。分け与えた魔力を回収したら、ハーピーたちを抑えることができなくなる。
それに二人の魔力を回収したところで俺の魔力量の四分の一にも満たない。どう考えても不可能だ。無理がありすぎる。
それでもリリアには何か策があるのか、どことなくうれしそうな表情でこちらを見ていた。……うれしそう?
「フェル、一つになるわよ」
「はい?」
ありのままに起こったことを話すぜ。どうやってあの巨大魔石を破壊しようかと考えていたら、俺の大事な人が一つになろうと言ってきた。これって、あれだよね? その、人間で言うところの子作りをしようってことだよね? 良いの?
「ちょっと、なんて顔をしてるのよ! 男の子っていつもそうよね。エッチなことばかり考えて!」
「え、違うの?」
「違うわよ! ピーちゃんやカゲトラと同じように、一つになるってことよ」
「それはそれで大丈夫なの!?」
確かにピーちゃんとカゲトラとは一つになった。同化することが一つになるという意味ならばの話だが。リリアと一つになることがそれと同じということで良いのかな。本当に大丈夫なのか?
「完全に一つになっちゃうとまずいけど、途中で分離すれば大丈夫よ」
「全然大丈夫じゃない。その自信はどこから出て来るんだよ」
「普通は相反するものが一つの器の中に入るから反発するのよ。放っておいても分離するわ。それをどれだけの時間、一つでいられるかがカギね」
「普通じゃなかったら?」
「頑張って分離する?」
ダメだこりゃ。ものすごく嫌な予感しかしない。ここは腹をくくって、エナジー・ドレインで地道に魔力をけずっていくしかないな。王都に住む住人には大きな被害が出てしまうけど……。眼下に逃げ惑う人たちの姿が見えた。竜巻は王都の中心地へ向かって、全てを破壊しながら進んでいる。
「……やろう、リリア。みんなを助けなきゃ」
「さすがはフェルね。そう来なくっちゃ!」
なんだかものすごくうれしそう。俺と一つになることを喜んでいるのは、俺よりもリリアの方じゃないだろうか。
リリアがスッポリと俺の手の中に収まった。これから一体、どうなってしまうんだ。
「まさか、リリアを食べるの?」
「違うわよ! あたしに……あ、あたしに、く、口づけをするのよ!」
リリアが服まで真っ赤に染まった。大丈夫なのかこの状況。爆発したりしないよね? 顔が熱い。たぶん今の俺の顔も、リリアと同じように真っ赤になっていることだろう。周りにだれもいなくて良かった。
すでにリリアは目をギュッと閉じて待っている。断るわけにもいかず、俺はそっとリリアに口づけをした。その瞬間、体の中に熱い液体のようなものが流れてきた。
とても不思議な感触だが、心が満たされていくのを強く感じた。体の中を流れていくのは、俺がリリアに与えていた魔力なのだろうか。そんな気もするし、そうでもないような気もする。
「あ、兄貴!? 大丈夫なんですか?」
急激な魔力の増加を感じたのだろう。ピーちゃんが現場を放棄して突っ込んできた。その向こうではカゲトラが一人でハーピー相手に無双していた。実に楽しそうである。
「……たぶん」
そうは言ったものの、これはダメだ。ものすごく眠たくなってきた。心地良い眠たさが俺の意識をさらっていこうとしている。体の中のものがとろけて、一つに混じり合ってしまいそうだ。
何とか意識を保ちながら魔石にたどり着く。モタモタしていると、本当にリリアと一つになってしまう。
だれだ、反発し合って分離するなんて言ったのは。その可能性はないぞ。
今の俺の中には「俺二人分」の魔力が入っている。その魔力量は膨大な量になっているはずだ。それをこの巨大な魔石にそそぎ込む。
持ってくれよ、俺の理性。全力で魔力をそそぎ込む。リリアと一つになっているおかげなのか、前回とは比較にならないほどの早さで魔力を送り込めている。すぐに魔石の表面にヒビが入り出した。まだだ、まだまだ足りない。
さらに魔力を込めると、魔石が悲鳴を上げるかのように、表面に大きなヒビが入った。もう一押しだ。
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