第142話 合流
残されたのは砕け散った灰色をした石だけだった。どう見ても光を失った魔石ではない。やはりただの石から作り出したようである。手に取った石を無造作に投げ捨てた。
「リリア、これであの巨大竜巻に向かう魔力は全部なくなった?」
「ちょっと待ってね……うん、ないわね」
みんなが巨大竜巻を見上げた。姿を変えていたピーちゃんとカゲトラは、いつの間にかいつもの鳥の姿に戻っていた。だがしかし、内包している魔力はかなりのものである。
どうやら使い切れなかったみたいだ。これなら、風の精霊との戦いでも役に立つだろう。
「あの竜巻、ちょっと小さくなったんじゃない?」
「お、確かにそうだな」
エリーザとジルが巨大竜巻の変化に気がついたようだ。ガルーダを倒し、ウインドドラゴンを倒してから少しずつ小さくなっている。ウインドゴーレムも倒したので、さらに小さくなるはずだ。もしかすると、消滅するかも知れない。
「しばらく待つか、今すぐ乗り込むか、だな」
アーダンがあごに手を当てて考えている。理想としては、弱まってから向かうのが良いのだが、風の精霊が新たに魔石を設置して、魔物を呼び寄せるかも知れない。そうなれば、ベランジェ王国のあちこちを飛び回って対処し続けることになる。
そこに終わりはないかも知れない。少なくとも、対処に時間がかかるのは確かだ。その間にベランジェ王国がどんな行動を取るか予測不能だ。
「とりあえずは拠点に戻ろう。俺たちには休憩が必要だと思うよ」
「フェルの言う通りだな。戻ろう。戻ってから落ち着いて考えよう。腹も減ってきたしな」
「そうね。一度戻りましょうか」
拠点に戻った俺は念のため拠点の強化を行った。今は周囲に魔物はいないが、ウインドゴーレムがいなくなり、酒樽型の魔石もなくなった。そうなれば、またこの地に魔物が戻ってくるはずだ。
お茶を飲みながら今後のことを話し合った。まずはフリーデル公爵家の騎士団に魔石を破壊したことを報告する必要がある。そのあとでどのように動くかは彼ら次第だ。
「王都に向かっている巨大竜巻の威力は衰えているはずだ。王都をバリアで守っている魔法使いたちはそのことにすぐ気がつくだろう。そうなると、王都でも何か動きがあるかも知れない」
「あの竜巻を攻撃するかも知れないわね」
「あり得るな。それならすぐに行かない方が良さそうだ。下手すりゃ巻き込まれるぞ」
ジルの言う通りだな。ベランジェ王国側が何をするか分からない。俺たちが動いていることなど知らないだろうし、こちらから情報を伝えることもできないだろう。何せ、俺たちはフォーチュン王国から来た人間だからな。信用されないだろう。
「しばらくは様子を見るしかなさそうだね」
「そうね。またあの魔石を設置するなら、何度でも邪魔しに行くだけだわ」
リリアが息巻いている。イタズラ妖精の血が騒いだのかも知れない。風の精霊が何度も魔石を設置するようならそうするしかないけどね。設置しているのが「この星」なら……もしかすると突然、酒樽型の魔石が出現したりするのかな。それはそれで対処が難しくなる。
「よし、まずは他の冒険者たちと合流しよう。そのときに騎士団長と話して、ベランジェ王国の現状を聞こう。王都にいる連中が動くのか、それとも動かないのか。騎士団長はどうするつもりなのか。他の考えが分からないと動きようがないからな」
異論はなかった。今の俺たちに足りないものは情報である。
翌日はゆっくりと休んだ。きっとあちらも情報収集を行っているはずである。急いで行ったところで何の情報もないのでは意味がない。心身共に回復したところで俺たちは移動を開始した。
フリーデル公爵家の騎士団が見えて来た。どうやらこちらに向かって真っ直ぐに来ていたようである。俺たちを見つけた冒険者が叫んだ。
「おい、大賢者様が戻って来たぞ!」
「きっと何もかも終わったんだ。ほら、俺が言った通りだっただろ? あの巨大竜巻が小さくなってるってな」
ワイワイと騒がしくなってきた。だれかの大賢者発言にリリアが笑っていた。
「やっぱりそうなったわね」
「そんなにうれしそうな声で言わないでよ。言われる方はあんまりうれしくないから」
賢者だけでも十分なのに、さらにその上を行くことになるだなんて。名を上げたからと言ってあんまり良いことはないんだよね。責任だけが大きくなる。
合流した俺たちはすぐに騎士団長のところへと連れて行かれた。こちらとしても情報が欲しかったのでちょうど良かった。ちなみに俺は「他にやることがある」と言ってその場から離れた。
みんなには悪いが、騎士団長との話し合いは俺を除くメンバーでやってもらう。俺の態度から何となく事態を察したのだろう。アーダンたちからは何も言われることはなかった。
情報収集と言って、周囲の状況を確認しに行った。付近にある町や村には人がいるようだったが、通りに人の気配はなかった。
「寂しい景色ね」
「そうだね。風の精霊の騒動が収まっても、ベランジェ王国内は荒れるだろうね。もうフォーチュン王国と争いあっている場合じゃなくなるよ」
「上に立つ人がダメだと、下にいる人たちがかわいそうだわ」
リリアが遠くを見つめている。その通りだと思う。だからこそ、だれからも束縛されないようにするために冒険者になったのだ。
アナライズに反応があった。どうやら話し合いは終わったようである。アーダンたちの姿を確認し、十分に周囲の人たちから離れたところで合流した。
「任せてしまってごめんね」
「構わんよ。むしろいない方が良かったぞ」
「ああ、そうだな。あいつら、フェルのことをどうにかしようと思っていたみたいだしな。キッパリ断っておいたから安心しろ」
「そうよ。私たちのパーティーに口出しするなら、今すぐ依頼を放棄して帰るって言って黙らせたから」
ずいぶんとエリーザが怒っているようである。どうやらかなり不愉快な思いをしたようだ。アーダンもジルも険しい顔をしていた。
「これからのことについてだが、まずはベランジェ王国の王都と連絡を取るつもりらしい。そこで協議を重ねて、これからどうするのかを決めるみたいだ。この場にフリーデル公爵がいれば良かったのだがな」
「それなら連れてきた方が早いかも知れないよ?」
「ああ、その通りだ。一部の冒険者がフォーチュン王国に戻って、連れて来る手はずになっている。騎士団長は俺たちにベランジェ王国の王族や上層部を探してもらいたいみたいだったが、断った。俺たちに得るものがないからな」
フォーチュン王国側からしても、権力を持った人物がいない方が良いに決まっている。国民を見捨てて逃げ出したのだから、それを罪状にして失脚させた方が良いだろう。その後、親フォーチュン王国派の人材をベランジェ王国の上層部に据えた方がいい。王族は飾りだ。
「それじゃ、あたしたちはしばらくお休みってわけ……ね?」
リリアが振り向いた。そこには王都から巨大竜巻に向かって、無数の魔法や矢が飛ぶ光景が広がっていた。
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