第141話 ウインドゴーレム
ウインドゴーレムが巨大な腕を振り下ろしてきた。さすがに盾では防ぐことができないと判断したアーダンが回避行動を取る。その間にジルが攻撃を開始した。俺とリリアとエリーザはすぐに退却しやすいようにその場所から離れた。
ジルの攻撃により腕を形作っていた岩のいくつかが破壊された。しかし、すぐに元の形へと戻っていく。
「どうやら硬くはなさそうだね。ウォーター・ジェット」
勢いよく放出された水がゴーレムの体を破壊する。すぐに再生することは分かっているが、今はとにかく相手の情報が欲しい。ゴーレムの核を壊さなくてもダメージを与える方法を見つけなければならないのだ。
「そうみたいね。でもゴーレムにはあまり効いてないみたいよ」
「それでも攻撃あるのみですよ! ファイアー・ボール!」
ゴーレムの腕が破壊される。ゴーレムは壊れた腕を利用して、風魔法で勢いよく石や岩を飛ばしてきた。アーダンは盾で、ジルは剣で、こちらに飛んできたものはエリーザがライト・シールドの魔法で跳ね返した。
「ウォーター・ボール」
カゲトラの魔法が肩の部分を破壊するが、何事もなかったかのようにゴーレムは攻撃を続けている。止まらない攻撃に、一時的に距離を取るしかなかった。
こちらに被害はないが、あちらにも変わった様子は見られない。俺たちが離れると、すぐに体を再生させた。
「まったく変化なしだな。これじゃ切りがない」
「こりゃいつか心が折れることになるな」
手応えがあるだけに、相手に効いていないことに納得がいかないようである。
「リリア、ウインドゴーレムの魔力に何か変化はあった?」
「ないわね。攻撃してくるときと、体を再生するときに魔力を使うみたいだけど、消費する魔力が少ないのか、すぐにあの魔石から補充されているみたいだわ」
ゴーレムの体は魔力によって石や岩がくっついているだけだ。これまで戦ってきた魔物と違い、筋肉や血管などの細かい部分を再生させる必要がない。そのため、どうやら少ない魔力で体を再生させることができるようだ。
「それじゃ、あの魔石を直接何とかするしかなさそうだね」
魔石を直接何とかする。それはエナジー・ドレインでどうにかすると言うことだ。それをやるにはみんなの力が必要だ。俺一人の力ではとても無理だろう。
「よし、やるか。俺たちはなるべくゴーレムを引きつける。エリーザはフェルの援護を頼む」
「リリアはゴーレムへの攻撃を頼むよ。ピーちゃんとカゲトラはリリアを援護して欲しい」
「分かったわ」
問題があるとすれば、酒樽型の魔石がどのくらいの量の魔力を大地から吸い上げ続けているかだな。その量次第では長期戦になる恐れもある。あとは俺が吸収した魔力をどうするかだが……これはピーちゃんとカゲトラに預けよう。
あの日のピーちゃん再び、みたいにならなければ良いんだけど……いや、むしろ今はなってもらった方が良いのかも。
逃げればまた再挑戦できるのだ。逃げる方向を確認し、まずはやってみることにした。再び近づいて来たアーダンたちをウインドゴーレムが体の石を飛ばして迎え打つ。その攻撃を俺たちが嫌がっていることに気がついたのかも知れない。
だとしたら、考えるだけの頭はあるようだ。その程度の石で俺たちに致命傷を与えることはできないのだが、それを回避するために動きが止まってしまうのがいやらしいところだ。
魔石を盾にして張り付くと、すぐにエナジー・ドレインを使った。すぐにウインドゴーレムが反応するかな? と思っていたのだが、予想に反して反応することはなかった。ガルーダのときは反応したんだけどな。もしかすると、露骨に破壊しようとしなければ気がつかないのかも知れない。
そのまま静かに魔力を吸収する。どうやらこちらの方が吸収速度が速いみたいだが、このままだと時間がかかり過ぎる。何とかしないといけない。
作業をしつつ、魔石を観察する。前回のときは気がつかなかったが、どうやら魔石の一部が地面に埋まっているようである。もしかすると、そこから魔力を吸収しているのかな? だとすれば、地面から切り離せばそれを防ぐことができるかも知れない。
魔石が動かないかを確かめてみたが、俺の力ではビクともしなかった。これは四人で持っても持ち上がらないだろう。ウインドゴーレムなら持ち上げることができるかな?
そうだ! ピーちゃんに吸収した魔力を与えて、「あの日のピーちゃん」になってもらおう。そしてこの魔石を抱えてもらおう。
そうなるとウインドゴーレムがこちらに向かってくるだろうから、それをみんなで防いでもらう。これなら何とかなりそうだ。石を飛ばしてくるだけなら、リリアとエリーザのシールドの魔法で十分に防ぐことができる。この魔石が魔力を地中から吸い上げなくなれば、すぐに魔石の中の魔力を枯渇させることができるはずだ。
以心伝心を利用して、ピーちゃんとカゲトラに指示を送る。リリアにもできれば良かったんだけど、今のところは無理みたいだ。ピーちゃんがリリアに耳打ちして、リリアがこちらを向いてうなずいた。
十分に魔力を集めたところでピーちゃんを呼んだ。リリアとカゲトラも一緒にこちらへと飛んできた。ゴーレムはアーダンとジルの攻撃によってくぎ付けになっている。
「頼んだよ、ピーちゃん」
「お任せあれ!」
ピーちゃんに魔力を与えると、その体が見る見るうちに巨大化していく。その姿はあのときの炎の魔人そのものである。ピーちゃんは「どっこいしょ」とばかりに魔石を地面から引き抜いた。すぐにエナジー・ドレインで魔力を吸収する。どうやらうまく行きそうだ。この分だと、あと十分もあれば、完全に枯らせることができる。
「ガイア・シールド!」
リリアの魔法がウインドゴーレムの飛ばしてきた岩を防いだ。どうやらこちらの動きに気がついたようだ。一直線にこちらへと向かってくる。吸収した魔力を今度はカゲトラに分け与える。カゲトラが巨大な魚の姿になった。丸みを帯びた、ずんぐりとした体をしている。
「クジラだわ! 初めて本物を見たわ」
エリーザが声を上げた。クジラ、初めて見る生き物だ。エリーザが知っていると言うことは魔物の一種なのかな? 見た目からすると海の生き物のような気がする。カゲトラはその巨体を生かし、ゴーレムに体当たりを食らわせる。ゴーレムが吹き飛ばされた。
「フェル、状況は!?」
「あと十分くらいで魔石の魔力を全部吸収できるよ」
「あと十分か。何とかなるか?」
先ほどまでとは違い、俺を守る陣形になった。ゴーレムが飛ばす岩をアーダンとジル、リリア、エリーザで防ぎ、近づいて来たらカゲトラが体当たりで吹き飛ばす。ついでに口から水のブレスを吹き出して攻撃していた。
かなり威力が高いようで、毎回、ゴーレムをバラバラにしていた。クジラ、海で会いたくない生き物だな。クラーケンよりも恐ろしい。
そうしている間に魔石の魔力が完全に枯渇した。色を失った魔石にヒビが入っていく。それをピーちゃんがフンと両手で握り潰した。ガシャン、という音と共に魔石が砕け散った。
「あとはアイツを倒すだけね」
リリアの声を皮切りに総攻撃を開始した。すでにウインドゴーレムは魔力が尽きかけていたのだろう。再生速度が遅くなり、ついには大きな魔石を残して消えていった。
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