第139話 ウインドドラゴン討滅戦

 どうやら騎士団長は一矢報いたいようである。だがしかし、騎士団長に万が一のことがあれば、ここにいる兵士たちはどうなるのか。

 騎士団長は、先ほどからこの場を仕切っている、冒険者たちのリーダー格の人と話している。


「心配はいらん。私の指揮権はすでに参謀へ渡してある。私に何かあったとしても問題ない」

「団長、我々もお供します!」

「そうですとも。団長だけ行かせるわけにはいきません」


 さらに何人かの騎士が加わった。どの騎士も歴戦の勇士のような屈強な男たちだった。

 さすがに断り切れないと思ったのか、リーダー格の人がこちらを向いた。


「構わないかな?」


 何で俺を見るんだ。俺は無関係だぞ。正直なところ、そっちで勝手に決めてもらいたい。ほら見ろ、リリアも嫌そうな顔をしているぞ。


「命の保証はできませんよ?」


 騎士団長の方に向き直りそう言った。すっかりと覚悟を決めているのだろう。ダメだと言っても付いてきそうな感じである。


「それで構わない。君は……あなたはもしかして、アルフォンス様ですか!?」

「人違いですね」


 そう一言いってからテントの外に出た。どうやらフリーデル公爵の書状には俺のことが書かれていたようだ。余計なことをするもんだ。もしかすると、面影がフリーデル公爵と似ていたのかも知れない。


「あそこにはもう戻れないわね」

「そうだね。でも、もう戻るつもりはないよ。ここの魔石を破壊すれば残りはアーダンたちが向かっている場所だけだからね。さすがにここの騎士団は間に合わないだろう」


 ここを片付けたらサッサとみんなに合流しよう。ここに残れば厄介なことに巻き込まれそうだ。俺たちが飛び立つと、すぐにテントから別働隊の冒険者が出て来た。その動きを確認しながらウインドドラゴンの縄張りへと向かう。


「魔石はあそこか」


 イーグル・アイで確認する。ガルーダが守っていた魔石とまったく同じである。その近くにはウインドドラゴンの姿があった。地上でドッシリと構えているが、首を何度も上げてこちらを見ている。


「なかなかおっきいわね、あのドラゴン」

「魔法が当てやすくていいじゃない」

「そんな見方もあるわね」


 そんなたわいもない会話をしていると、先ほどから俺の肩にとまっていたピーちゃんとカゲトラがパタパタと翼をはためかせて目の前に飛んできた。


「ボクたちも手伝いますよ」

「左様でござる」


 二人は大丈夫だって言ってるし試してみるかな。これから風の精霊と戦うときに、二人の力が必要になるかも知れないからね。

 幸いなことにこの辺りの大地には魔力が豊富にある。それを少しだけ拝借すればそれなりの戦力になるだろう。それに人数が多い方が相手の目をくらませやすい。


 ウインドドラゴンはこの位置でもまだ攻撃を仕掛けて来ない。それならば遠慮なく準備をさせてもらうとしよう。地上に降りると、エナジー・ドレインを使い大地から魔力を集める。ある程度たまったところでピーちゃんに魔力を分け与えた。

 姿はそのままだが、今は魔力がその体の中に充満していると思う。これである程度の魔法が使えるようになっているはずだ。


「次はカゲトラだね」


 同じように魔力を集めるとカゲトラに分け与えた。こちらも変化はないが十分に魔力を持った状態になっていると思う。何というか、二人の顔つきが凜々しくなっているような気がする。目がキリッてなってる。


「どうかなリリア?」

「あきれたわ」


 リリアが両手を上げてお手上げのポーズをした。どうやら本気であきれているようである。これなら大丈夫かな? もし魔力が不足していたら「もうちょっと」と言うはずである。


 俺たちが準備をしている間に、冒険者たちがブレスが飛んでこないギリギリの場所までたどり着いた。あとはこちらがウインドドラゴンの注意を引きつければ、即座に魔石へと向かってくれるはずだ。


「それじゃ、派手に暴れるとしよう。こっちが目立てば目立つほど向こうが安全になるからね」

「オッケー! 手加減はなしね」

「ボクだってやるときはやりますよ」

「ようやく殿にそれがしの力をお目にかけるときが来ましたな!」

「えっと、みんなやり過ぎないようにね?」


 魔石が壊れるまでは不死身のようだし、ま、いっか。再び空に舞い上がりウインドドラゴンの縄張りに入った。すぐにウインドドラゴンが反応した。

 ウインドドラゴンは空に舞い上がり一気にこちらへ距離を詰めると、首を大きく持ち上げて必殺の「風のブレス」の体勢に入った。


 恐らく前回、ウインド・シールドで風のブレスを防いだのが俺たちだと気がついているのだろう。接近することで風のブレスの威力を高めるつもりのようだ。

 こちらとしてはあの場所から引き離そうと思っていたのでちょうど良い。


「プロミネンス・バースト!」


 ピーちゃんの声と共にウインドドラゴンの顔が吹き飛んだ。当然のことながら、ウインドドラゴンが口元にためていた魔力は霧散した。容赦ない。俺の出番、あるかな?

 動きが止まるウインドドラゴン。しかしすぐに顔が再生を始めた。やはり魔石を破壊しない限りは不死身のようである。


「ハイドロ・ジェット」


 カゲトラが渋い声で言った。全てを悟ったかのような落ち着きのある声に恐怖を感じた。危険だ、カゲトラを怒らせてはいけない!

 無数の水の線がウインドドラゴンに到達すると、その体をバラバラに切り裂いた。体を失ったウインドドラゴンが地上に落ちる。


「プロミネンス・ボール!」

「ハイドロ・ボール」


 地面に落ち、なおも再生が始まったウインドドラゴンを二人がグチャグチャにしていく。大地はすでに穴だらけになっている。何が二人をそこまでさせるんだ。普段のかわいい君たちはどこに行ってしまったのかい?


「あたしたちの出番、なさそうね」

「そうみたいだね」


 リリアの顔が引きつっている。俺も顔も引きつっていると思う。二人は涼しい顔で魔法を撃ち続けていた。そうこうしているうちにウインドドラゴンが再生しなくなった。良く見ると、大地に大きな魔石が落ちている。どうやら終わったようである。

 そしてちょうど二人の魔力も切れたようだ。


「どうやらうまく魔石を破壊できたみたいですね」

「殿、魔石を回収して次の場所へ向かわねば。戦場が拙者を呼んでおりまする」

「呼んでないからね。カゲトラの勘違いだからね?」


 不用意に二人に魔力を与えてはいけない。今回のことで良く分かった。前回とは違い、ピーちゃんは「怒りのピーちゃん」じゃないから大丈夫だと思っていたが、そんなことはなかった。


「リリア、魔力の流れはどうなっている?」

「きれいさっぱりなくなっているわ。みんなに挨拶しに行く?」

「面倒なことになりそうだから、魔石を回収したらすぐに最後の場所に向かおう」

「そうね。地上から見ると、フェルが一人でやっつけたみたいにしか見えないものね」

「……やっぱりそうかな?」

「間違いないわね。向こうじゃ『大賢者様!』とか言われてるんじゃないの?」

「やだなー、それ」


 言われかねない。やったのは俺じゃなくて、ピーちゃんとカゲトラなのに。まあ、魔力を与えて仕向けたのは俺だけど。それってやっぱり俺のせい?

 地上にいる人たちが俺たちに向かって手を振っている。それに手を振って応えると、急いで地上に降りて魔石を回収し、アーダンたちが向かった方角へと飛んだ。


「兄貴、次も活躍しますからね!」

「遅れは取りませぬぞ」


 そうは言うがね、君たち。俺は当分、二人に魔力を与えるつもりはないぞ。危険過ぎる。二人にはいつまでもかわいい鳥の形態でいてもらわねば。

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