第137話 次の場所へ

「どっちにする?」

「どちらかと言えば、こっちがフリーデル公爵家に近いな。フリーデル公爵家の騎士団が向かうならこっちの可能性が高そうだな」


 ジルが地面に写し出したオート・マッピングを棒で指しながら言った。確かに言われて見ればそんな気もする。場所も平たんそうだし騎士団が動くならそっちかな。合流するか? それとも、別の場所を目指すか?


「フェル、こっちの魔石があるところに行って、フリーデル公爵家の騎士団がいるかを確認してくれ。もしいるようなら、俺たちがさっきやったように、守っている魔物にダメージを与え続ければ魔石を壊すことができると伝えて欲しい」

「アーダンたちはそっちの魔石に向かうんだね」

「そうだ。今回と同様に先に行って下調べをしておく」


 同時に魔石を攻略するならば無難な選択肢だと思う。その間に俺たちの戦力が分散するという問題はあるけどね。情報を伝えるだけで良いのだろうか? いや、そうはいかないだろう。状況によっては手伝う必要がある。


「場合によっては遅くなるかも知れない」

「……そうか。それなら俺たちは無理をせずにフェルたちが戻って来るのを待つことにしよう」


 魔石を破壊する方法が分かったので三人だけでも動く可能性があった。しかしこれで、その可能性はほぼなくなったと言えるだろう。急ぐ必要は当然あるが、ある程度の心の余裕は持てそうだ。


「アーダンたちが向かう場所は山みたいね。そんなに高くないし、どちらかと言うとなだらかな丘みたいだわ」

「それなら隠れる場所は少なそうだ」

「こっちは草原地帯ね。こっちの方が大変かもよ?」

「騎士団で向かえば隠れる場所はないだろうね。相手に居場所が筒抜けになるはずだ」


 騎士団を展開するのにはありがたい地形なのだが相手も攻撃しやすいはずだ。守っている魔物次第では大損害に遭いかねない。こればかりは行ってみなければ分からない。

 すぐに俺たちは行動を開始した。休む間もない強行軍だ。お互いにしっかりと休みを途中で取るように確認をしてから別れた。


「アーダンたちは大丈夫かしら? あたしたちと違って丈夫な拠点を作れないだろうから心配だわ」

「心配ないさ。長い間、三人で冒険者をやっていたみたいだし、今のエリーザにはアナライズも、バリアの魔法もある。以前よりもずっと野営がやりやすくなっているはずだよ。さっきの木でできた拠点も良くできていたからね」

「確かにそうね。でも、お風呂はなかったわよ?」

「さすがにそれは無理なんじゃないかな。普通の冒険者はきっと体を拭くだけのはずだよ」


 拠点に作ったお風呂に入りながらのんびりと話す。今日のところは移動する時間を少し短めにして拠点を充実させた。しっかりと休むように言われているからね。きっと向こうも今頃は休んでいるはずだ。湯船にはピーちゃんとカゲトラの姿もある。リリアと二人っきりではない。


「姉御、魔石の周囲の魔力はどうでしたか? 気持ち悪い魔力が流れていましたか?」

「うーん、特にそんな感じはなかったかな?」

「それならば、それがしたちが参戦しても良さそうですな」

「そうかも知れないけど、ちょっと不安は残るかなぁ」


 操られていた前例があるだけに不安しかない。ここで三種類の精霊に暴れられたら手の施しようがなくなってしまう。


「兄貴は心配性ですね。ボクたちは兄貴と同化しているんですよ? 二度と『この星』に操られることなんてありませんよ」

「さよう。ピーちゃん殿の言う通りですぞ」


 本当かなぁ。万が一のことがありそうなので怖いんだよね。二人が近くにいてくれると心強いとは思うんだけどさ。できることなら、連絡のためにピーちゃんかカゲトラを増やしてアーダンたちと一緒に行ってもらいたいところだったのだが、怖くてそれができないでいる。それができればお互いに安心できると思うんだけどな。


「ねえ、リリア、遠くの人と話すことができる魔法はないの?」

「ないわね。そんな便利な魔法があったら、とっくの昔にみんな使っているわ」

「そう言えば魔道具にもないよね。やっぱり難しいのか」


 残念ながらそんなに都合の良い魔法はないみたいだ。あれば便利なのにね。妖精は作ろうと思わなかったのかな?


「これから行く場所の魔物も風の精霊が呼び寄せた魔物がいるわよね?」

「多分そうだね。そのまま魔石だけが隠してあれば良いんだけど、その可能性はないだろうね」

「確か兄貴たちが戦ったのはガルーダでしたよね?」


 ピーちゃんとカゲトラが湯船にあお向けに並んで浮かんでいる。その上にリリアが乗っかった。その勢いで二人が沈みそうになり、バタバタしていた。一体、何をしていることやら。


「そうだね。もしかすると、風に関係する魔物が呼ばれているんじゃないかと思っているよ。それに強いやつだね。何か心当たりがない?」

「風に関する魔物……ウインドドラゴンとかでしょうか」

「ウインドドラゴン」


 ドラゴンか。確かに大事なものを守るのには最適なような気がするな。しかも魔石の力を借りることでかなりの耐久力を持つことになるはずだ。前に倒したウォータードラゴンの比にならないほど厄介だろう。


「他にも歌声を操るセイレーンなどもおりますな。あれは水も絡んでおりますが」

「あとはウインドゴーレムなんかはどうですか? 自分の体をバラバラにして、風の力で飛ばしてくるんですよ」

「どれも楽な相手ではなさそうだね」


 セイレーンやウインドゴーレムならフリーデル公爵家の騎士団でも、数の力で何とかなるかも知れない。もちろん犠牲は出るだろうが、勝てると思う。しかし、ウインドドラゴンが相手だとすれば難しいだろう。


 場所が平原であるのも良くない。強力な風のブレスを食らえばひとたまりもない。何せ、周囲に隠れるところがないのだから。そして空からそれをされると、何もできないまま騎士団が壊滅することになるだろう。


「ウインドドラゴンがいなかったらいいわね」

「俺もそう思うよ。もしいるなら手伝うしかないね」

「そうなったら、強力な魔法をたたき込み続けるしかないわね」

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