第136話 タル型魔石の真実
体が重くなり、飛べなくなったガルーダにジルが飛びかかった。ガルーダはそれを鋭い爪で受け止めようとしたが、ミスリルの剣はそれを軽々と切り飛ばしそのまま右腕を切断した。ジルはすれ違いざまに剣を返し右の羽も切断する。
「これで空を飛べなくなってくれると良いんだが」
そう言って距離を取るジルの目の前で、右腕と右の羽が生え替わっていた。その速度は水の精霊ほどではなかったが、それでも十分に驚異的な早さだった。
「やっぱり先に魔石を壊すのが先だな」
「またフェルに頑張ってもらうしかなさそうだが……それをガルーダが許してくれるかな?」
やっぱりそうなるよね。俺がエナジー・ドレインを使って、魔石の魔力を吸収するのが一番早いだろう。そうなると、別の場所にも俺たちが行く必要があるんだろうな。
「ちょっと待って! アイツの魔力と魔石に揺らぎがあるわ。さっきのジルの攻撃が効いているのかも知れない」
全く効果がなかったように思えたのだが……その言葉を聞いたジルが魔石を調べ始めた。ガルーダの相手はアーダンだ。飛んでくる魔法をエリーザが防ぎながら、俺とリリアはガルーダが飛ばないように魔法で押さえつけていた。
「見つけたぞ、魔石にヒビが入っている! どうやらコイツの耐久力は高くないみたいだぞ」
ジルが魔石に攻撃を加えた。おそらくそのヒビを中心に一撃を加えたのだろう。魔石の一部が欠けた。
「ギイイィ!」
悲鳴を上げたガルーダが放った何本ものウインド・ランスがジルへと向かう。それをウインド・シールドで防いだ。ジルが再度、魔石に剣をたたきつけたが、今度は弾かれたようだ。ジルが舌打ちしている。
「ガルーダに攻撃を与えれば魔石にヒビが入る。どうやらそこから魔石を砕くことができそうだ」
そう言ってアーダンがガルーダを攻撃する。今はまだ、魔石を壊せないと見たジルがそれに加わった。どうやら俺がエナジー・ドレインを使わなくても済みそうだ。あの魔法、身動きが取れなくなるから使いにくいんだよね。隙だらけになってしまう。
二人の猛攻によって手、足、羽が切断され、それがまたすぐに生えてくる。そのたびに魔石にヒビが増えていった。ガルーダが俺たちを忌ま忌ましそうににらみつけながら攻撃しているが、攻めあぐねている。
「そろそろ良いんじゃないかしら?」
リリアが慎重に魔石を確認している。リリアの目には、うまく一撃を加えれば、魔石が砕けそうに見えているのだろう。ここは重い一撃を加えることができるアーダンの出番だな。
「アーダン、魔石をハンマーでたたいて欲しい! 代わりに俺が援護に入るよ。リリア、頼んだよ」
アーダンが魔石の方へと移動する。その穴を埋めるように攻撃を開始した。先ほどから何度もガルーダは飛び上がろうとしている。空を飛ぶことができれば、自分の方が有利だと分かっているのだろう。
二人係で押さえていたところを、リリアが一人ですることになるのだ。神経を使う作業になるはず。今のように、ガルーダの魔力の流れを確認しながらそれをやるのは不可能だろう。
アーダンが魔石に向かっていることを気がついたのか、ガルーダがそちらに向かおうとする。それを剣と魔法で食い止める。ガルーダは近づけさせない。
「うおおおお!」
アーダンの叫び声のあとにガシャンという何かが割れたような音が聞こえた。
ガルーダの動きが止まる。あの音はアーダンが魔石を破壊した音だろう。このチャンスを逃さずに、ジルと連携してガルーダを攻撃する。
「ストーン・ランス!」
「これで、終わりだ!」
ストーン・ランスが腹を貫き、バランスが崩れたところでジルがガルーダの胴体と頭を切り離した。ガルーダは声を上げることもなく、大きな魔石になって地面に落ちた。
振り返ると、予想通りにバラバラなって砕け散った魔石の欠片がアーダンの足下に転がっていた。
その手にはミスリルの盾がしっかりと握られている。どうやらこの盾で殴りつけたようである。
「良くやったぞ」
アーダンが笑っている。俺たちも一緒になって笑う。まずは一つ。何とかなった。
「これで俺がいなくても魔石が壊せることが分かったね」
「他の場所でも同じように壊せそうね。ただ、このことに気がつけば良いんだけど」
リリアは心配そうだが、他の場所はここと違って人数が多いはずだ。それならば、だれかが魔石の異変に気がつくだろう。そうなれば、魔石を破壊することも可能なはずだ。
「リリア、巨大竜巻に何か変化はあった?」
「ええ、もちろんよ。あの竜巻に向かう『魔力の流れ』の中の一本がなくなったわ。すぐに変化はないかも知れないけど、これから巨大竜巻が小さくなっていくはずよ」
砕け散った魔石は色を失い、灰色になっていた。どう見てもその辺りに転がっている石ころと同じである。拾って確かめて見たが、その考えは変わらなかった。
「これ、石だよね?」
「んー、そうね、石だわ」
「どういうことかしら?」
エリーザもやって来て色を失った魔石を手に取った。石を魔石に変えたのだろうか? 俺たちが壊した酒樽型の魔石が本物の魔石でなかったとするならば、バラバラに破壊できたことにも納得できる。
「石を魔石に変えたのかしら?」
「そんなことまでできるのか、『この星』は……」
「それならいくらでも魔物を生み出せそうだよな」
ジルのつぶやきにゾッとした。もしそんなことになったら、この星に住むことができるのは魔物だけになってしまう。それもたぶん、「この星」に運命を握られたものとして。
「ここでやるべきことは終わったな。次の場所に移動しよう」
「問題はどこに向かうかね。フリーデル公爵家がどう動いたのかも気になるし、まずは冒険者たちとフリーデル公爵家の情報を集めるべきかしら?」
エリーザが首をかしげている。迷うところだな。フリーデル公爵家の動きを知るには一度そこまで行く必要がある。時間を短縮したいなら、このまま次の場所に向かうべきだろう。
「次の場所に行こう。戻っている時間はないかも知れない。魔力を送り込んでいる魔石が一つなくなったことは、あの巨大竜巻の中にいる風の精霊も気がついているんじゃないかな」
「そうだな。そうなると、無理してでも王都を破壊しようと動くかも知れん」
「それなら巨大竜巻の弱体化を急いだ方が良いわね」
反論はない。方針は決まった。この場所から一番近い場所にある魔石に向かう。とは言ったものの、どちらも同じくらいの距離があった。
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