第135話 魔力の源

「重さを変化させる魔法か。どんな感じになるのか気になるな」

「アーダンに使ってみてあげようか?」

「頼む」

「それじゃ……グラビティー」


 リリアが魔法を詠唱した。聞いたことがない魔法だ。これが重さを操る魔法。すぐに変化は訪れたようだ。アーダンが腕を上げ下げし始めた。今は立ったり、座ったりしている。


「体が重い。体が疲れているような感覚だな。うまく動けない」

「リリア、俺にも試させてくれ」

「あ、ジル、やめた方が……」

「良いわよ、グラビティー!」


 明らかにアーダン時とは違い、遠慮のない感じでリリアが魔法を詠唱した。ジルが「しまった」という顔をしたがもう遅い。その場でジルが両手両足をついた。


「ぐおお、重い、体が重い! 潰れてしまう。これじゃ動けないぞ」

「ちょっとリリア、そのくらいでやめないと」

「大丈夫よ。短時間しかものすごく重くすることはできないわ」


 それを証明するかのように、ジルが何事もなかったかのように動き出した。しきりに腕を回し、動きを確かめるかのように屈伸している。


「実に嫌な魔法だな。俺はもう二度と経験したくないぞ」

「あら~?」

「やるなよ、絶対やるなよ、リリア」


 よっぽど嫌だったみたいだ。リリアにお願いする顔が恐怖のためか青くなっている。リリア的にはイタズラ成功なんだろうな。俺とエリーザも加減してもらってから試させてもらった。


「確かに体が重い。これならガルーダも飛べなくなるぞ」

「でもこの魔法、持続時間が短いのよね。それでも飛び上がろうとしたときに使えば、空を飛ぶのを防ぐことができるはずだわ」

「それじゃ、的確にそのときを狙って魔法を使わないといけないね」

「そうなるわ。万が一に備えて、フェルにもこの魔法を覚えてもらうわ」


 おお! リリアが妖精のイタズラ魔法を教えてくれるのは珍しい。俺も少しはリリアに認めてもらえたってことかな? リリアから教えてもらうこと数分で使えるようになった。


「これでガルーダ対策は大丈夫なのかな?」

「あとは実際に戦ってみないと分からないな。ガルーダが何かを守っているのならば、あの場所から遠くには離れないだろう。もしそうなら、一度、逃げてから態勢を整えることもできるはずだ」


 崖の上には何かがある。それがアーダンの考えだ。それを裏付けるかのように、リリアもあの崖の上には何かがあると言っていた。

 翌日、ガルーダ討伐へと向かった。先日までアーダンたちが調べておいてくれた断崖絶壁へとまっすぐ向かう。事前にしっかりと下調べをしておいてくれたおかげですぐに崖の下までたどり着くことができた。


「真下まで来たのにガルーダの反応がないね」

「俺たちに気がついていないのか、それとも、気がついていても襲って来ないのか」


 ジルが難しい顔をしている。できれば降りてきて欲しかったのだが、そう思い通りにはいかなかったようだ。相手が待ち構えている場所に行くのには勇気がいる。


「それじゃ、次の作戦だな。フェルとリリアの魔法で崖の上まで飛ばしてもらう」

「本当にやるの、それ? 大丈夫かしら」


 エリーザの顔が引きつっている。昨晩の作戦会議で、ガルーダが下に降りて来なかった場合は、断崖絶壁の上までみんなを飛ばすことに決めていたのだ。


「大丈夫よ。飛行するわけじゃないからね。ただ単に空に浮かべるだけなら問題ないわ」

「そうだよ。それに一人じゃなくて、俺とリリアの二人係で魔法をコントロールするから大丈夫だよ」


 ようやく納得してくれたのか、うなずきながらエリーザはジルの腕にしがみついた。アーダンとジルもうなずいている。準備は良いようだ。


「地図によると、断崖絶壁の上は比較的平らな大地が続いているみたいだ。それでも油断しないでね」

「みんなを断崖絶壁の上に送ったら、すぐにあたしたちも行くわ」

「頼んだぞ」


 念のため、ピーちゃんとカゲトラはしまってある。風の精霊と同じように操られるかも知れないからね。今はガルーダ討伐に集中したい。


「それじゃ、行くよ!」


 リリアとタイミングを合わせて三人を宙に浮かべた。そのまま速やかに上昇させると、すぐに断崖絶壁の上にたどり着いた。それに気がついたのだろう。アナライズにガルーダがこちらへ向かう反応があった。


「ガルーダが来てる、気をつけて!」


 そう叫ぶと、リリアを連れて俺たちも断崖絶壁の上へと向かった。

 断崖絶壁の上は地図にあった通り、平らな大地が続いていた。所々が削れた草原の中に、ポツンと一つだけ場違いに黒光りしている魔石があった。酒樽くらいの大きさだ。


 アーダンとジルはすでに戦闘態勢に入っていた。あの魔石は二人の目にも入っているはずだ。怪しいと思ったはず。その証拠に、戦いながらも魔石の方へと移動している。

 ガルーダはやはり風魔法を得意としているようで、ウインド・アローや、ウインド・ソードを駆使していた。飛んできた魔法をミスリルの剣で打ち落としたり、エリーザのシールドの魔法で防いだりしていた。


 俺たちも急いで参戦する。アナライズの魔法で分かっていたことだが、周囲に他の魔物がいないのがさいわいだ。ガルーダの背後からストーン・アローをお見舞いする。それに気がついたガルーダがウインド・シールドで防ごうとした。


 だがしかし、俺とリリアの使ったストーン・アローはそのウインド・シールドを貫いた。ギャ! という声を出しながら回避したが、一部が胴体をかすめた。ガルーダが顔をしかめている。


「やっぱり横回転よね~」

「横回転?」

「そうよ。普通のストーン・アローは横回転しないのよ。知らなかった?」

「知らなかった」


 それならガルーダが焦りの声を上げ、回避が遅れたことにもうなずける。まさかウインド・シールドを貫くとは思わなかったのだろう。

 ガルーダがこちらに飛ばしてきたウインド・ランスをウインド・シールドで跳ね返すと、みんなと合流した。


「あの魔石、何だろうね。聞くまでもなく怪しいけどさ」

「あれがガルーダが守っているものに違いないわね。あたしが見る限り、あれが魔力の源ね。どうする?」

「聞くまでもなかろうよ。ぶっ壊す!」


 隙を見てジルが怪しく黒く輝く魔石に斬りかかった。だがしかし、カキンという甲高い音と共に跳ね返された。どうやら魔石はミスリルの剣でも切れないようである。そうなると、魔石を切れそうなのはオリハルコンの剣くらいだろう。そんな剣が存在すればの話だが。


「ちっ、やっぱりダメか。そろそろいけそうだと思ったんだけどな~」

「ジルがダメなら俺はもっと無理だな」


 そう言いながら、アーダンはジルを狙ったガルーダの攻撃をミスリルの盾で防いだ。

 魔石に斬りかかったジルに危険を感じ取ったのだろう。ガルーダが他の人には脇目も振らずにジルに襲いかかろうとした。それをアーダンが防いだのだ。

 同時にカウンターの一撃を腹に入れている。俺たちがダメージを与えた場所に近い位置だったのだが……。


「何よあれ! 傷口がもう塞がっているわ。コイツも水の精霊と同じように、魔石がある限り不死身なのかしら!?」


 アーダンとジルから距離を取ったガルーダに、リリアが驚きながらも魔法で追撃した。それをガルーダが上空に飛ぶことで回避しようとする。


「グラビティー!」

「ギョ!?」


 体が重くなったガルーダは飛び立つことができず、バランスを崩して地面に膝をついた。そこにリリアの放ったファイアー・ボールが命中したかに思えた。

 しかしそれは、ガルーダのウインド・バリアで防がれていた。だが完全に防ぐことができなかったようで、体の一部が黒くなっている。ダメージは確実に蓄積されているように見えるのだが。

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