第133話 巨大竜巻

 ようやく山を登り切った。竜巻が通った影響なのだろう。登山道は何カ所も壊れており、そのたびに別の道を探さなければならなかった。倒木や山肌が崩れ落ちているところもあった。そんなものに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。


「もうすぐ山頂だ。そこで休憩しよう」

「あ、見えて来たわ」


 山頂にたどり着いた俺たちは絶句した。巨大な竜巻が遠くに見える。その近くにある大きな街がベランジェ王国の王都だ。フリーデル公爵が言っていたように、巨大竜巻が王都に迫っているようだった。


「どうするの、あれ?」

「どうにかなるのかな? それよりもおかしくない? フリーデル公爵が王都に来てからそれなりに時間が過ぎているのに、まだ竜巻が維持されているなんて。竜巻を作るのにはかなりの魔力が必要になるはずだよ」


 遠目に見ても王都にはまだ巨大竜巻が到達していない様子である。これも理解できない。フリーデル公爵が王都に巨大な竜巻が向かっていると知ってから、ずいぶんと日にちが経過しているはずである。それなのにまだ無事だなんて。


「あの竜巻、あの位置で止まっているのか?」

「そんなことあるのかしら。何か分からない、リリアちゃん?」

「うーん……」


 リリアが目を細めたり、大きくしたりして竜巻を見ている。きっと「リリアちゃんアイ」で魔力の流れを確認しているのだろう。俺たちはリリアが何かを発見するまで静かに待った。


「あの巨大竜巻から、三本の線がつながれているのが見えるわ。どうもそこから魔力を補充してあの巨大竜巻を維持しているみたいね」

「今は何をしているのかな?」

「魔力を竜巻の中心に集めているみたい。良く見れば分かるけど、あの巨大竜巻、ちょっとずつ王都に進んでいるわ」


 そう言われたので、俺とエリーザはイーグル・アイで、アーダンとジルは望遠鏡で確認した。確かに少しずつだが王都に近づいている。


「どうして動きが遅いのかしら?」

「うーん……あ、王都の周りにバリアの魔法が張られているわ。きっとあれのせいで先に進めないのよ」


 どうやらバリアの魔法で王都に巨大竜巻が来るのを妨げているようだ。あとどのくらい耐えられるのかな? 相手は巨大な竜巻だし、どこからか魔力が供給されている以上、いずれ力尽きて蹂躙されるぞ。


「どうする? と言っても、俺たちにできることは魔力の供給源を断つことだけだろうけどね」

「そうなるな。近い場所から潰して行こう。リリア、案内を頼めるか?」

「分かったわ。あたしに任せてちょうだい」


 三本の線がつながっている先はどうなっているのだろうか。簡単に供給源を断つことができれば良いんだけど。


「ピーちゃん、カゲトラ、何か分かった? あの巨大竜巻の中心に風の精霊が居そうな気がするんだけど」

「ボクもそうだと思うのですが、居るような居ないような……」

「判断がつきませぬ。ですが、このようなことをできるのは風の精霊だけでしょう」


 これは風の精霊に何かあったと見るべきだな。火の精霊、水の精霊と違い、完全に「この星」によって意識もろとも乗っ取られているのかも知れない。もしそうならば、何とか助けてあげたいところだ。


「何か変化があったらすぐに教えて欲しい。二人と同じように、風の精霊を見捨てたりはしないよ」

「兄貴!」

「殿、お願い致しまする。風の精霊が好んであのようなことをするとは思えませぬ。心優しい子なのです」


 カゲトラの声が震えていた。何とか救い出すことができれば良いんだけど。




 山頂からベランジェ王国の王都近辺を見下ろすことができたため、オート・マッピングの範囲も広がった。それと買ってきた地図を照らし合わせて、ベランジェ王国の信頼できる地図を作りあげた。


「たぶんこの辺りにあるわね」

「この辺りは……どうも断崖絶壁が続いているみたいだね」

「近づくだけでも大変そうだが行くしかないな」

「国の軍や騎士団が使えるんだったら、他の場所も同時に調べることができるのにな」

「フリーデル公爵家を訪ねてみるべきかしら?」


 エリーザの問いかけに返事はなかった。みんな期待できないと思っているようだ。この場にフリーデル公爵がいればまた違った決断ができたかも知れないが残念ながらそうではない。


「俺たちが動くのが早いだろうな。だが何とか後続の冒険者に知らせたい」

「どうやってそれをやるかだな。だれかが戻って知らせるのが一番早いが、それをするならアナライズを使える人になるな」


 アナライズを使えるのは俺とリリアとエリーザ。エリーザは戦闘能力がないので、一人で行かせることはできない。行くなら俺たちなのだが、魔力の流れが見えるリリアはこれからの作戦に必要不可欠だ。

 チラリとリリアを見たが、俺が置いて行こうとしていることを察したのか、俺の腕に両手両足でしっかりとしがみついていた。


「俺とリリアが行ってくるよ。空を飛んで移動すればそれほど時間がかからないはずさ。その間にアーダンたちは目的地に行って、どんな状況なのかを確認しておいてよ」

「魔力をかなり消費するんじゃないのか?」

「そうだけど、俺にはエナジー・ドレインがあるからね。きっと何とかなるよ。エリーザ、オート・マッピングで場所は確認できた?」

「ええ、大丈夫よ、問題ないわ」


 これが一番早い方法だろう。後続の冒険者に合流することができたら残りの二カ所の場所を教える。そこを何とかしてもらえれば、あの巨大竜巻にも何か変化があるはずだ。

 本当はピーちゃんを増やして、片方をアーダンたちに預けたかったのだが、その場所に何があるか分からない。再び「この星」にピーちゃんが操られるのを恐れて、安易に増やすわけにはいかなかった。


「それじゃ行ってくるよ」

「みんなも気をつけてね」


 俺たちは空へと飛び立った。地上にいるときよりも風が強い。飛ばされないように注意しながら来た道を引き返す。オート・マッピングがあるので迷うことはない。

 アナライズで捜索しながら進んで行くと、あの破壊された検問所付近で反応があった。すぐにそこに向かう。


「プラチナランク冒険者のフェルです。ベランジェ王国の情報を持ってきました」

「先に行っていたパーティーか。助かる!」


 どうやら他の冒険者はこの場所に来た段階でその異様さに気がつき、先に進めなくなっていたようだ。この場でさらに後から来る冒険者を待っていた様子である。ちょうど良かったので、後続への情報伝達も頼んでおいた。

 俺が現状を話す間に、聞いていた冒険者の顔色がどんどん悪くなっていった。


「ある程度の覚悟はしていたが、まさかこれほどまでとは……」

「そうだった、フリーデル公爵から書状をもらっている。これがあればフリーデル公爵家が力を貸してくれるはずだ」

「肝心のフリーデル公爵は?」

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