第129話 集まる冒険者たち

 王都の冒険者ギルドに戻って来たことを伝えると、すぐに国王陛下との謁見の日程が伝えられた。ただし、謁見の間ではないようだ。王城内の普段は式典用に使われる広めの部屋で対面することになるらしい。ギルドマスターのラファエロさんも一緒に参加するようだ。


「どうやら俺たちだけじゃないらしいな」

「好都合だね。他の人たちにも頑張ってもらわないと」


 指定された日に登城すると、そこには予想通り他の冒険者たちの姿があった。もっともそれは、ミスリルランクやオリハルコンランクの冒険者だったりするのだが。


「これだけいれば、私たちが参加する必要はないよね?」


 エリーザが部屋の中を見渡している。参加人数は全部で二十人くらいだろうか。どの顔も、キリリと引き締まった歴戦の戦士を思わせる顔をしていた。みんなまだ若そうだけどね。


「同感だね。国としては確実にこの問題を解決したいんだろうな」

「すでに被害が出てるものね」


 王都では屋根が飛んだり、窓ガラスが割れたりした家があったようだ。屋根に布がかぶせてある家や、窓を修理している家をあちらこちらで見かけた。警戒していてもこの被害。嵐が連続で来るようならそのうち王都はがれきの山になるだろう。


 国王陛下が入場し、今回の件についてその場にいた全員に話した。どうやら初めて聞くパーティーもあったようで、一時的にざわめきが起こった。何でこれまで冒険者たちに話さなかったのだろうか。まさかこんなことになるとは思っていなかったのかな。


「そこで今回の件について、ベランジェ王国に支援の打診を行った。ベランジェ王国でも我が国に支援を要請するべきだと言う話が出ていたようだ。そのため、こちらの提案を受けることになった」


 ベランジェ王国の対応、遅すぎないですかね? どうやら国としての自尊心は国民の命よりも重いらしい。何だか支援に行く気がなくなって来たな。ベランジェ王国の国民は救いたい。だが、上層部はどうも好きになれそうにない。


「ベランジェ王国の現状を報告するために、明後日の午後、使者がやって来る。この場にいる全員に参加してもらいたい」

「お言葉ですが、ベランジェ王国の使者が冒険者などに会うのは嫌がるのでは?」


 この場にいた冒険者の一人が言った。ベランジェ王国が冒険者という存在を嫌っていることは有名だ。だからこそ、十分にあり得る話だ。それを裏付けるかのように全員がうなずいている。

 国王陛下は眉間にシワを寄せた。頭の痛い問題だと思っているようだ。


「その可能性は大いにある。だが、受けてもらわねばならん。状況が分からないままでは皆もベランジェ王国に行くのはためらうであろう?」


 国王陛下の問いかけにだれも答えなかった。不謹慎だが、その通りだとみんなが思っているのだ。この場にいるのは自分たちだけでない。自分たちが先陣を切って危険な場所に行く必要などないのだ。


「そういうことだ。相手方には理解してもらうしかない。調査した限りではベランジェ王国は王都も含め、大きな被害を受けている。特に風の精霊が出現した辺境の地はすでに壊滅しているそうだ」


 その発言に再び騒然となった。どうやらベランジェ王国の王侯貴族は国を滅ぼしたいらしい。話にならないな。驚きとため息が混じり合い、本日の謁見は終了した。次は二日後。あんまり参加する気は起こらないな。


「どうやらベランジェ王国はとんでもない国のようだな。ウワサには聞いていたが、ここまでひどいとは思わなかった」

「そうね。今まで一度も足を踏み入れたことはなかったけど、行かなくて良かったわ」


 ベランジェ王国のことを残念に思っているのは俺だけではないようだ。このまま他の冒険者に任せるという考え方もあるけど。


「国民がかわいそうだよね。この感じだと、何も知らされていなさそうな気がするよ」

「あり得そうだな。情報が出回っているなら、すでに密偵が調べ上げているだろう。わざわざ使者を呼び寄せて現状の説明をさせる必要はないからな」


 ジルもお手上げだと思っているようだ。両手を上げている。一体どんな状況に陥っているのだろうな。ひどい状況になっているのは間違いなさそうだけどね。




 それから二日後。俺たちは再び先日と同じ部屋に案内された。他の冒険者も欠けずに参加しているようだ。俺たちは国に認定された冒険者じゃないが、さすがに放ってはおけない。ベランジェ王国のためではない。そこに住む住人のために動くことに決めていた。

 そのためにはできる限り正確な情報が必要だ。


「国王陛下がいらっしゃいました」


 シンと辺りが静まり返る。国王陛下が一人の初老の男性を連れてやって来た。俺はその男の顔に見覚えがあった。俺の祖父だ。やつれた顔が不意にこちらを向いた。驚いたかのようにその目が大きくなった。俺はとっさに顔を伏せる。

 間違いなく見られたな。面倒なことにならないと良いのだが。


「皆、そろっているな。こちらがベランジェ王国からの使者、バルデス・フリーデル公爵だ」

「あ、お、お初にお目にかかります。バルデス・フリーデルです」


 しどろもどろにそう言った。完全に動揺してるようだ。もしかして、この場に俺の姿があったからだろうか。俺も内心では動揺している。来るのが分かっていたなら、間違いなく仮病を使っていたことだろう。

 周囲が少しざわついている。冒険者たちにもその光景が奇妙に映ったようである。

 騒ぎを落ち着かせるためなのか、少し間があった。周囲は再び静寂に包まれている。


「フォーチュン王国の冒険者たちのことはウワサで聞いていたが、ここまでの者たちが集まっているとは正直に言って思わなかった。心強い限りだ」


 その発言に、再び室内にざわめきが起こった。ベランジェ王国の公爵が冒険者に配慮している? 考えられない。どうもウワサと違うようだとささやいている声が聞こえる。

 どうやら先ほどの間は冒険者たちを見回していたようである。目を合わせないように下を向いていたので分からなかった。


「どうかあなた方の力を貸していただきたい」


 その発言に思わず顔を上げると、フリーデル公爵が頭を下げていた。思わぬ展開に驚いたのは俺たちだけではなかったようだ。国王陛下の顔にも動揺の色が見て取れた。

 それを国王陛下が一つ咳することで、何とかその場を鎮めた。


「そ、それではフリーデル公爵、ベランジェ王国の現状を話してもらえるだろうか?」

「もちろんです。私が知りうる限りの情報を提供しましょう」


 フリーデル公爵が話した内容は驚愕だった。

 ベランジェ王国の上層部に「風の精霊復活の兆し」という報告がもたらされたとき、王族の中でフォーチュン王国に救援を求めるべきだという意見と、自国で対応すべきだという意見に真っ二つに割れたらしい。最終的にそれは貴族を巻き込んでの内乱にまで発展したそうだ。ずいぶんとフォーチュン王国は嫌われていたようだ。


 最終的にその内乱は風の精霊の復活によって終止符が打たれた。だれにも邪魔されることなく短期間で力を蓄えると、巨大な竜巻を操りベランジェ王国を破壊し始めたのだ。

 ようやくこのままではマズイと気が付いた貴族たちだったが、争いによってできた溝は深く、うまく連携を取ることができずに風の精霊によって各個撃破されたらしい。


 だから今までフォーチュン王国側に情報が入って来なかったのか。内乱のあとの混乱。派遣されていた偵察部隊も巻き込まれたのだろう。そして事情を知られたくないベランジェ王国は情報が外に漏れ出さないように闇に葬った。当然のことながら、捕まえた密偵もまとめて処分したはずだ。

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