第128話 支援の打診

 外に出ると街には物が散乱していた。嵐によって折れた木の枝や、倒れた小さな木が道の真ん中に落ちている。中には家に突き刺さっている木もあった。住人は大丈夫かな?

 風はまだ少し強いが、動くことはできる。嵐は過ぎ去りつつあるらしい。ただしこの進路だと、王都方面に行きそうである。


「もしかして王都を狙っているのかな?」

「まさか人が多いところを目指してるのかしら? でも、少しは嵐の勢いを削ることができたんでしょう?」

「バレてたか」


 舌を出してごまかそうとしたが許されなかったようだ。俺の顔に飛びつくと、真剣な表情をこちらに向けた。


「魔力が枯渇したらどうするの。危ないからダメだって言ったでしょう?」

「大丈夫だよ。ちょっとだけだから。ちょっとだけ」

「イタズラする子はいつもそう言うのよ」


 めっとリリアに怒られた。そんなやり取りをしながら俺たちは他の建物を回り、ケガ人の確認と復旧作業を急いだ。

 竜巻と同じような流れになるのなら、これから何度も嵐がこちらに向けてやって来るはずである。早く現状を確認して次の準備をしておかなければならない。


 今回は事前に嵐が来ることが分かっており、対策を採っていたので被害は最小限で済んだ。しかし、ケガ人はいたし、倒壊した家もあった。どうやら古い家屋が嵐に耐えられなかったようである。

 次に嵐が来たときは、古い家屋に住んでいる人は別の場所に避難してもらった方が良さそうだ。


「俺たちは魔法障壁の確認に行ってくるよ」

「よろしく頼む。こっちは俺たちに任せておけ」


 今もエリーザが治癒魔法で治療している。この場はエリーザたちに任せておけば大丈夫だろう。

 俺たちは急いで国境沿いへと向かった。道中では多くの木が倒れていた。道を塞いでいる木を片付けながら進んで行く。


「ひどいわね。森の中はもっとひどいことになっているはずよ」

「そうだね。こんな嵐が何度も来たら、森がなくなってしまうよ」

「そんなことになったら、この辺りに住んでいた魔物が森から外に出るかも知れないわ」

「それは困ることになりそうだ。冒険者の仕事は増えそうだけどね」


 冗談を言っているが、街道沿いに魔物が出現するようになれば付近の町や村の流通が滞ってしまう。そうなれば、そこに住む住人たちの生活にも影響が出るだろう。何とかしないと、この辺りに住むことさえできなくなるかも知れない。


「見てよ、フェル! 魔法障壁は無事みたいよ」

「そうみたいだね。一応、付近を見回っておこう」


 魔法障壁は今もベランジェ王国から吹いてくる魔力を帯びた風を防いでいる。そのおかげで、ベランジェ王国側の木々は大きく揺れているのに対して、この辺りは穏やかだ。

 グルリと一回りしたが、特に問題はなかった。どうやら嵐は魔法障壁を素通りしたようである。


「魔法障壁が壊れていなくて良かったけど、今後は嵐のことも考えないといけない。何か良さそうな案はない?」

「うーん、ないわね」

「思いつきませんね」

「それがしも思いつきませぬ。嵐に嵐をぶつけても、相殺されるわけではないですからな」


 嵐が起きる原因を突き止めなければいけないな。もっとも、その原因は風の精霊なのだろうけど。ベランジェ王国は一体どうなっているんだ? 風の精霊が現れたわけでもないこの場所でこれだけの被害が出ているのだ。風の精霊の本体がいるベランジェ王国はもっとひどいことになっているはずだ。


「あの国、どうなってるんだろうね? 相当な被害が出ていると思うんだけど」

「もう滅んでたりしてね」


 冗談ではない。そんなことになっていたら、ベランジェ王国の国民がかわいそうだ。王族や貴族が情報を公開しないせいで被害が大きくなっているのだろうか。もしそうなら、そんな国はなくなってしまった方が良いだろう。


「戻ろう。戻ってみんなの手助けをしないと」

「そうね。この辺りに住んでいた人たちもコリブリの街に避難しているもんね。みんな不安に思っているはずよ」

「コリブリの街からエベランに移動する人も出て来るかも知れないね」

「そうなったらあたしたちの仕事ね。護衛任務、忙しくなるわよ」


 確認を終えた俺たちは国境付近の町や村の状態を確認してからコリブリの街へと戻った。残念ながら、多くの家が被害を受けていた。すでに避難していたため人的被害がないのが不幸中の幸いだろう。だが元に戻るまでには時間がかかるに違いない。


「お帰り。どうだった?」

「魔法障壁は無事だったけど、近くにある町や村はかなりの被害を受けているね。すぐには戻れないと思う」

「そうだろうな。エベランに避難することも検討しているようだ」

「その方が良いかも知れないね。あと何回、あの規模の嵐が来るか分からないよ」


 ベランジェ王国側の空を見上げながらそう言った。ベランジェ王国の情勢はいまだに詳しくはつかめていない。お互いにライバル視しているからでだろうが表立って動けないようである。もし密偵と分かれば投獄される可能性は十分にある。すでに捕まっている人もいるのかも知れない。

 そんなことをしている余裕はないと思うのだが。


 コリブリの街から嵐が去ってから数日後、嵐は王都に到達した。話によると、かなりの人数のケガ人が出たらしい。これまでで一番大きな嵐だったそうである。

 事前に警告を発していたようだが、それを軽視した人たちがかなりいたようである。国王陛下も頭を抱えていることだろう。


 そして今回の嵐の件で、国王陛下はベランジェ王国に対して支援の打診をすることに決めたようである。このまま何もせずにいると、フォーチュン王国の被害が大きくなると判断したのだろう。実際にすでにかなりの被害が出ているのだ。そう思うのも当然か。


「それで俺たちが王都に呼び戻されることになったんだね」

「そういうことらしい。動くのは俺たちなんだろうな。まあ、当然の判断だろうな」

「私たちには信頼と実績があるものね」


 どことなくウンザリとしたように、エリーザが口元をゆがめている。どうせならもっと早く言ってくれれば良かったのにと思っているのかも知れない。その方が、風の精霊が力をつける前に対処できたはずだからね。その気持ちは分かる。

 俺としてはオリハルコンランクやミスリルランクの冒険者に頼んでもらいたかったけどね。


「このまま放置しておけばますます被害が広がるだけだろうし、行くしかないか。ベランジェ王国の国民も苦しんでいるかも知れないしね」


 俺たちは足取りも重く王都へと向かった。

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