第82話 ミスリルを求めて

 夕方になって戻って来た船に再び聞き込みを開始した。どうやらこの付近ではないが、この海岸沿いに大きな難破船が漂着したらしい。船の船員はすでに亡くなっていたようで、まさに幽霊船といった様子だったそうである。


 漁師たちの話だと、その船に乗っていた人たちが化けて出ているのではないかと言う話だった。

 俺たちが「ついでに倒しておきますよ」と言うととても喜んでくれていた。


「どうやら水の精霊は関係なさそうだね」

「そうみたいね。幽霊船か~、本当に海の上を漂っているのかしら?」

「どうだろうね? 海は広いし、漂っていても、遭遇する可能性は低いんじゃないかな」

「それもそうね」


 あの十五日間の何もない海の広さを目の当たりにすると、幽霊船と遭遇する可能性は極めて低いと思う。幽霊船が貿易船の航路を知っているとかなら話は別なのかも知れないが。

 知能を持たないと言われているアンデット系の魔物が知っているとは思えない。


「それじゃ、もうすぐ日も暮れるし、そいつらを討伐すれば終わりだな」

「お礼に夕食を食べさせてくれるそうよ。新鮮な海の幸、楽しみね」


 待つことしばし。すぐに日が沈んだ。エリーザのスモール・ライトの明かりを頼りに海岸付近を警戒していると、すぐに白くてモヤモヤした物体に出くわした。ゴーストだ。


「三体ね。まだ現れるかも知れないし、気をつけて」

「人を殺せるほど強くないみたいだからな。問題ないだろう」


 アーダンとジルは銀の剣を抜いた。昼間に見せてもらったが、凝った装飾が施された美しい剣だった。

 ジルがそのうちの一体に斬りかかった。サクッという妙な音と共に、耳障りな金切り声を上げた。しかしゴーストは相変わらず健在だった。

 ダメージは入ったが、倒すまでには至らなかったようである。


「これだもんなー。弱いゴーストでさえ倒すことができない」


 残念そうなジル。アーダンも攻撃しているがほとんど意味をなしていないようである。その様子を見たエリーザが二人に気を遣うような感じで魔法を放った。


「ライト・ボール」

「ギャワワワ……!」


 光の球を受けたゴーストが一瞬で姿を消した。やはり弱いゴーストのようであり、その余波で残りの二体もダメージを受けているようだった。


「ファイアー・アロー」

「キュウ!」


 残りの二体を片付ける。この場はこれで浄化完了である。何の役にも立てずに肩を落とす二人を連れて、海岸付近を行ったり来たりする。結局、合計十体のゴーストを魔法で倒して終了した。あとは明け方に様子を見れば完了だ。


「ダメだったわね、ジル」

「リリア、あいつらを斬れるようになる魔法はないのか?」

「ないわね」


 スッパリと言い放ったリリア。ハアとため息をついて肩を落とすジル。アンデット系の魔物に対して無力なのが、どうも納得がいかないようである。剣に氷魔法を付与しても、結局は物理攻撃になるからね。斬れないものは斬れないのだ。

 その後、一眠りして明け方に海岸付近を見回ったが、ゴーストの姿はなかった。


「これで完了だね」

「朝食も用意してくれるって言ってたから、このまま夜明けまでどこかで休みましょう」

「今日はそのまま休むとして、明日からどうする?」


 水の精霊はまだ動き出していないようなので、急いで調べる必要はなくなったと思う。そうなると、これから何をするかと言うことになる。観光名所に向かうのもありだけど……。


「ミスリルを探しに行きたい」

「ジル……」


 いつになく真剣な表情をしたジル。弱いゴーストさえ倒せなかったことがよほどに悔しいようである。何も言わないがアーダンも同じ気持ちなのかも知れないな。俺たち魔法使い組三人は気まずい空気になって、お互いに顔を見合わせた。


「そうだね。それじゃ、ミスリルを探しに行こうか」

「きっとこの国のどこかにあるわよ」

「漁師さんたちに聞いてみましょうよ。船であちこち移動しているみたいだから、何か情報を持っているかも知れないわ」


 何とかアーダンとジルを励ましつつ夜明けを待った。夜明け前になると、ゴースト討伐の様子が気になった漁師さんたちが様子を見に来た。

 海岸付近のゴーストがすっかりいなくなっていることを確認すると、手放しで喜んでいた。


「ありがとうございます。これでもっとたくさん魚を捕ることができますよ」

「すぐに朝食を用意するんで待っていて下さい」


 そう言うと足取りも軽くどこかへと去って行った。そしてすぐに、漁師さんたちが言ったように朝食が準備された。朝から海の幸満載である。出された魚はどれもおいしくて、味噌汁と言う名前の、茶色いスープも深い味わいがして大変おいしかった。


「あの、ちょっと聞きたいのですが、この国のミスリルが取れる場所はどこにあるんですか?」

「ミスリル? 今は遠くの場所に行かなければ取れないな。確か、山を三つか四つ越えたところにあったはずだ」

「今は? 昔は違ったのですか?」

「ああ、そうだ。昔はこの先の山でも取れていたそうだが、何か強い魔物が現れたらしくて、それ以来、だれも寄りつかなくなったんだよ」


 そう言って遠くにある山を指差した。遠いと言っても、もう一つの場所寄りかはずっと近いようである。強い魔物か。一体どんな魔物なんだろうな。でもそれを倒すことができれば、ミスリルを手に入れることができると言うことだ。


「せっかくだから行ってみる?」

「そうだな。大抵の魔物は倒せると思うし、ダメそうならすぐに逃げれば良いし、行ってみるか」

「行こうぜ。ミスリルを求めて。それさえあればミスリルの剣を作ってもらえるはずだ」


 まあ、ここで行かないという選択肢はないだろうな。ミスリルが取れるということは鉱山の跡地があるのかな? 穴掘りの魔法はあるし、天井が崩れそうなら土魔法で壊れないように固めればいいし、何とかなるだろう。


「それじゃ、さっそく準備ね。山までの道を確認しておかないと」

「まずは情報収集だな。昔の話みたいだけど、知っている人がいるといいね」


 元から今日は休息日に当てるつもりだったのだ。それが次の冒険への準備に変わっただけである。朝食を食べ終わると俺たちはそれぞれ情報収集と山に行く準備に取りかかった。

 ミスリル鉱山が使われなくなったのはかなり昔の話だったようである。情報を得られたのはどれもご年配の方からだった。


 少しでも情報を得られるように町中の人たちに聞いて回ったこともあり、再び俺たちが集まったのは夕食の時間になってからだった。


「山に行く準備はできたよ。足らなかった食料はスイレンまで買いに行って来たよ」

「ありがとう、フェル。まさか登山をすることになるとは思わなかったからな。俺が得た情報だと、閉山して五十年以上経過しているらしくて、もう道は残っていないだろうという話だった」

「それじゃオート・マッピングを頼りに進むしかないね」


 道があれば良かったのだがそれは無理なようである。しかし、魔物が出たからと行って、完全に人が寄りつかなくなるのはおかしい気がする。魔物以外にも何か原因があるのかな?


「これは悪い情報なんだけど、閉山されたのは魔物のせいだけじゃなかったみたい。一緒に有毒なガスが噴出したらしいわ。それもあって、だれも行かなくなったみたいね」

「今でも有毒なガスが出てるのかな?」

「行ってみないと分からないわね」


 有毒ガスか。これは厄介だな。毒ガスから身を守る魔法、ウインド・バリアがあるから、それを使い続ける必要がありそうだな。毒ガスが見えれば良いんだけど、アナライズに反応するかな?


「鉱山に現れた魔物はミスリルゴーレムだそうだ。話によると、どうやら封印されていたのを掘り出してしまったらしい。当然、倒せなかった。魔法の効きも悪くてどうしようもないらしい。当時、討伐隊が何度も送られたそうだが、結局倒すことはできなかったらしい」

「ミスリルゴーレム……どうやって倒すんだよ、それ」

「だよなぁ」


 さすがに厳しいような気がする。魔法の効果は薄いが、完全に効果がないわけではない。そこをついて、どうにかなるかどうか。こればかりはやってみないと分からないな。

 うーん、とみんなが考え込んだ。いくら俺たちでも「厳しい」と言うのが本音なのかも知れない。それでもここであきらめるのはどうかと思う。


「ミスリルゴーレムなら、対抗手段がありますよ」

「ピーちゃん! 何か知っているのか!?」

「ええ、もちろん。ミスリルの加工のやり方はご存じですか?」


 ミスリルの加工のやり方? そう言えば、以前に王都の図書館に行ったときに鍛冶の技術書を読んだことがあったな。確かそれには……何て書いていたっけ?


「ああ、そう言うことね!」


 リリアが何かを思い出したようである。みんなの注目が集まった。

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