第81話 お化けが出る町、ミズナ

 店主に聞いたところによると、どうやらミズナにお化けが出始めたのはここ最近の出来事のようである。これが水の精霊と関係あるのかどうかは分からないが、念のため調べに行くことにした。


 精霊がお化けを操ることができるのかどうかは謎である。でも精霊もある意味でお化けみたいなもんだし……と言うような趣旨のことをピーちゃんに言うと、「お化けと一緒にするな」と怒られた。どうやら別物らしい。


「アンデット討伐か。久々に銀の剣を使うとするかね」

「そう言えばジルの銀の剣を見るのは初めてだね」

「そうだな……」


 あれ? 何だかあまり元気がないぞ。嫌いなのかな? 俺がアーダンの方を見ると、苦笑いして説明してくれた。


「銀の剣はな、切れ味がイマイチな上に、それほどアンデットに効果がないんだよ。ちょっとくらいはダメージが入るみたいだけどな。それで普段は使わないんだよ。ジルは自分の速さとパワーを生かせる耐久性のある剣が好きなのさ」

「なるほど」

「銀の剣はすぐに曲がるからな。丁寧に使わなければいけないのが、何だかムズムズする」


 確かにジルには合わないかもな。その条件を満たすなら、ミスリルの剣か、オリハルコンの剣になるんだけど、オリハルコンの剣は幻の逸品だからな。売っているところはないと思う。それこそ、王家の宝物庫に眠っているくらいじゃないのかな?


「それじゃ今から武器屋巡りに変更ね。ジルの新しい剣を探さなきゃ」

「ミスリルの剣が欲しいよね」

「売ってるところなんて見たことないぞ」

「この国ならあるかもよ?」


 こうして俺たちはスイレンにある武器屋を全て見て回った。

 結果、どこの店にも売っていなかった。




 肩を落としたジルを半ば引っ張るような感じで宿に戻った。時刻は夕食の時間を過ぎていたが、何とか宿の食事にありつくことができた。危なかった。ちょっとやけになって武器屋を探したのがまずかった。

 せっかく異国に来たのだからと、俺たちはメニュー表から見たことがない料理ばかりを選んだ。


「ジル、きっとどこかに売っているわよ」

「そうよ。落ち込んでもしょうがないわよ」

「そうかも知れないが、そもそも武器の形が俺の持っている剣と違ったぞ。この国の剣は片方にしか刃がついていない。それに妙に曲がっている」


 確かにジルが言うように、見せてもらった剣は片方にしか刃がなくて反り返っていた。店主に話を聞くと、刀という武器だそうである。その口ぶりからすると、ジルは使ったことがなさそうである。


「それならミスリルの剣があっても使えないね」

「そうなるな」


 アーダンと二人で考え込んだ。目の前ではジルがパクパクと小皿に取った食べ物を食べている。まるでやけ食いをしているようだ。そんなジルを、口を開けたリリアとエリーザが見ていた。


「これはミスリルを入手して、どこかの工房に持っていって作ってもらうしかないな」

「ミスリルが手に入ればいいんだけどね」

「そうだな。その辺りも聞き込みするしかないな」


 この国でもミスリルは採れるのだろうか? 武器屋の店主にミスリルの剣のことを尋ねても、「この店にはない」というだけで「そんなものは存在しない」とは言わないんだよね。そうなると、この国にもミスリルは存在しているのだろう。

 一抹の不安を抱えつつ、その日は休むことになった。


「これが布団か。畳の上に並べるのね」

「これってアレよね。すぐ隣に並べればどこまでも布団を大きくすることができるわね」

「これならベッドから落ちる心配はなさそうだね」


 枕元にはランプの魔道具が置いてある。これも外側が紙で作られている。どうもこの国の人たちは紙が大好きなようである。お風呂に入った俺たちは、街歩きで疲れていたのか、すぐに眠りについた。




 翌朝、俺たちは朝食を食べるとすぐに宿をあとにした。そのまま街の入り口を通り抜けると、教えてもらった海沿いの道を進んだ。


「エレオノーラ号はいつ出発するの?」

「一月後らしい」

「思ったよりも早いわね。気をつけておかないと、この大陸に置いてけぼりになっちゃうわよ」

「そうなったら、商船に乗せてもらうしかないな。クラーケンを討伐できるプラチナランク冒険者が乗るとなれば、引く手あまただろう」


 アーダンの言う通りだな。たとえ乗り遅れたとしてもどうにでもなりそうである。商船ならそれなりの頻度で出港しているからね。俺たちを乗せることで安全が確保されるなら、無料で乗せてくれるかも知れない。


 そんなことを考えつつも道を進んで行く。道沿いには、ずっと先まで青い海が広がっていた。情報によると、歩いて向かっても夕方までには到着するらしい。そんなこともあって、少しノンビリとした足取りで進んでいた。

 何と言っても今は休暇中だからね。急ぐ必要はどこにもない。


「お化けってゴーストタイプかしら? それともゾンビタイプ?」

「俺はゾンビの方がいいな。あれならまだ斬れるし」


 俺としてはどちらでも問題ない。なぜか魔法は形がないはずのゴーストにも効果を発揮するのだ。冒険者のパーティーが魔法使いを求めるのは当然のことだと言える。


 ちなみに我がパーティーではエリーザがアンデット系統に効果を発揮する魔法を使うことができる。治癒魔法の一種だ。もちろん俺とリリアも使えるが、それをやると俺たちが治癒魔法を使えることがバレるので極力使わないことにする。


「期待するのは構わないが、あくまでもウワサだからな。本当に出るのかどうかは町について聞き込みをしてからになるな」

「着くのは夕方だから、聞き込みは明日になるね。宿屋の部屋が空いていればいいんだけどね」

「さすがに空いてるわよ。だってお化けが出るんでしょ? 普通の人なら寄りつかないわよ」

「でも俺たちのような冒険者は寄って来ちゃうんだよな~」


 それもそうだ。俺たち冒険者にとっては興味のそそられる話題になってしまっている。冒険者も中々に業が深い生き物である。リリアは半眼でジルを見ていた。まるで「そうだったわね」とでも言いたそうである。


 日が少し暮れ始めてきたころ町が見えてきた。おそらくここが漁業の町ミズナなのだろう。遠くから見た感じでは何も問題はなさそうである。沖の方にも船が出ていたようであり、いくつもの船が港に戻って来ていた。結構早い時間に港に戻ってくるみたいだな。


 町に到着するとすぐに宿を探した。さいわいなことに、この町に来たのは俺たちだけのようである。宿はすぐに見つかった。港街スイレンと同じ様式の宿である。この分だと、これから先に泊まる宿はどこでも期待できそうである。

 宿屋に泊まりつつ、女将や従業員に話を聞いた。


「お化けの話かい? それがね、夜になると浜辺にお化けが出るんだよ。どこからやって来たのか分からないけどね。近くに人や船があると襲いかかってくるのさ。それで日が落ちる前にはみんな沖から戻ってくるんだよ」


 なるほど、それで船が戻って来ていたのか。本来ならばもう少し暗くなるまで魚を捕っていたのかも知れない。他にも海に何か異変がないかも聞いてみた。しかし、最近は海岸付近に近づかないようにしているため、良く分からないそうである。


 明日は港の方に言って、漁師や海岸付近に住んでいる人たちの話を聞こう。突然お化けが現れ始めたのなら何か理由があるはずだ。その原因が分かれば、水の精霊との関係性も分かるかも知れない。願わくば全く関係がなければうれしいのだが。


 夜になったが、宿では特に何も起こらなかった。やはりお化けが出没しているのは海岸付近だけのようである。これならもっと海岸に近い宿にすれば良かった。宿屋を探す前に、先に聞き込みをしておくべきだったな。


 翌日、俺たちはお化けが出るという海岸付近へやって来た。すでに港には船はなく、出港しているようである。これでは漁師さんからはあまり情報を聞くことができないな。取りあえず周囲の聞き込みを開始した。時間はそれほどかからなかった。


「よし、集まった情報を整理するぞ。お化けはゴーストタイプ。日が沈むと現れて、日が昇ると消える」

「近づくと襲いかかってくるみたいだね。その割には弱いらしくて、死んだ人はまだいないみたいだよ」

「何が目的なんだろうな? 嫌がらせか?」

「何か危険を知らせようとしているのかも知れないわよ」

「そんなお化けがいるのかな~?」


 結局のところは夜になるまでは分からないということになった。俺たちはそのまま港付近で船が戻ってくるのを待つことにした。

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