第63話 遺跡の奥に眠るもの

 アーダンとジルは協力してガーディアンを奥の穴へと押し始めた。俺はいつでも魔法を放てるように準備を整えた。


「ねえ、雷魔法なんてあるの? 雷ってあれでしょ、雨が降るときとかにゴロゴロ音がしたり、光ったりするやつでしょ?」

「そうだよ。その雷だよ。雷魔法は存在する。でも狙った方向には飛ばないことがあるし、威力もそこそこ高い。一番の問題は、一瞬で標的まで届くことだね。途中で動きを操作できない」

「大丈夫なの、その魔法?」


 だからこその落とし穴作戦である。これなら周囲に影響を及ぼさないと考えられる。広い場所だったり、敵が多かったりしたときには役に立ちそうなんだけどね。広範囲殲滅魔法として使えば優秀だと思う。使うつもりはないけど。


「大丈夫だよ、たぶん」

「……」


 念のため、リリアにはシールドの魔法を使ってもらった。これなら防ぐことができるはずだ。あれ? それならわざわざ穴に落とす必要、ないよね。

 そんなことを思っている間に、二人がガーディアンを再び穴に落とした。


「二人とも下がって! サンダー・ランス!」


 雷の槍が穴の中に吸い込まれてゆく。轟音が鳴り響き、穴の中からは意味不明な絶叫のようなものが聞こえてきた。どうやら効果はあったみたいである。あとは倒すことができたかどうかだが……。


 俺たちはしばらく穴を見守っていたが、ガーディアンが再びはいだしてくることはなかった。どうやらガーディアンを倒すことに成功したようである。穴を調べると、底の部分でガーディアンが動きを停止していた。


「ふう、何とかなったな」

「ああ、そうだな」

「お疲れ、アーダン、ジル。二人のおかげでガーディアンの弱点を見つけることができたよ」


 もし、ガーディアンから逃げながら考えていたら、きっと雷魔法を使うという発想は出てこなかっただろう。何せ、使い勝手が悪いからほとんど使うことがない魔法なのだ。エリーザが雷魔法を知らないのもうなずける。


「二人とも、ケガはないわね?」

「ああ、だがかなりの体力と精神力を使った。ちょっと休憩させてくれ」

「分かったわ。リラックスの魔法を使っておくわ」


 エリーザがリラックスの魔法を使った。ガーディアンとの戦いは神経を使う戦いだったようだ。アーダンが軽々と盾で攻撃を受け止めたり、回避していたりしていると思っていたのだが、実は結構ギリギリだったのかも知れないな。


「さてと、この先に何があるか、だな」

「ガーディアンが守っているくらいだから、すごいお宝が眠っているんじゃないのか?」

「アナライズで調べた感じだと、何か大きな物体があるんだよね。でもそれが何なのかは分からないよ」


 コーヒーを飲みながら、王都で買ったお菓子をつまんだ。ほどよい甘さが、疲れた頭と体を優しく癒やしてくれた。リリアもおいしそうに、小動物のようにほおばっていた。


「ねえ、他の場所にある魔石はどうするの? この感じだと、きっとそれもガーディアンだよね?」

「もしかすると、何か大事なものを守っているのかも知れねぇな」

「そうだな。それなら全部倒しておく必要があるかもな」


 最終的にはこの遺跡全体を調べることになるのだ。ガーディアンが襲ってくるなら倒すしかないだろう。連戦にならなければどうにかなるはずだ。弱点も、倒し方も分かったし、今なら問題ないだろう。


「研究者がガーディアンを調べたがるかも知れないね」

「そこはあの穴の中のガーディアンを引っ張り出して調べてもらうしかないな」


 アーダンがガーディアンが落ちた穴を親指で指差した。あまり関わりたくはなさそうな感じである。


「動くガーディアンをそのまま持ち帰るのはさすがの俺たちでも無理だからな。依頼があっても受けないぞ」


 ジルが軽い口調でそう言った。同感だ。あれを生け捕りにするのは無理だろう。アーダンも同じことを思ったのか、無言でうなずいていた。


「遺跡攻略にはまだまだ時間がかかりそうね」

「エリーザの言う通りね。でもまずは、目の前のお宝をいただいておかないとね」


 にしし、とリリアが楽しそうに笑った。遺跡の奥にどんな宝が眠っているのか、とても気になる様子である。イタズラだけにしか興味がないのかと思っていたが、もしかすると、宝石なんかにも興味があるのかも知れない。


 今度、何かプレゼントしてみようかな? あ、でも、リリアサイズのものを探すのは難しそうだな。どうしよう。鍛冶屋のルガラドさんに頼んでみようかな?


「それじゃ、そろそろ休憩を終わりにして、お宝を拝みに行くとするか」

「待ってました!」

「リリア、油断は禁物だよ。無事に拠点に帰り着くまでが冒険だからね」

「もちろん分かってるわよ、フェル」


 お宝を目の前にして上機嫌になったのか、リリアが顔に飛びついてきた。何だか三人から生暖かい視線を感じるのは気のせいだろうか。

 アーダンを先頭に、慎重に部屋の奥へと進んでいく。進むにつれて、どんどん部屋が大きくなっていった。今では天井も見えなくなっている。どれだけ大きな空間なんだ。


「エリーザ、もう少し光を大きくしてもらえるか? 良く見えない」

「分かったわ。それにしても、広い空間ね。ここまで広くする必要があったのかしら?」


 周囲には特に怪しい気配はなかった。ガーディアンの増援が来る気配もない。どうやらこの遺跡のガーディアンはそれぞれ独立したものを守っているみたいである。

 前方にいくつもの金属製の柱が見えて来た。これには見覚えがある。確か、魔導船で小さな船や、荷物をつり下げていた魔道具に良く似ている。


「これって、魔導船についていたものだよね?」

「そうみたいね。荷物の上げ下ろしでもしていたのかしら? それならこの辺りは、昔は川か海だった可能性もあるわね」


 この遺跡は船の港だったのかも知れないな。そうなると、奥にある大きな物体は船なのだろうか?

 さらに奥へと進むと、ようやく全容が見えて来た。


「見てよ、船だわ! あれは空飛ぶ船よ! まだ残っていたのね」


 リリアが興奮してそう叫んだ。それにつられて俺たちも船に近づいた。パッと見た感じではただの船である。いや、船の上に何か楕円形の物体がついている。どうやら船は、その楕円形のものからつり下げられているようである。


「もしかしてあれは、飛行船!?」

「知っているのか、エリーザ!?」

「何かの本で読んだことがあるわ。その昔、飛行船と呼ばれる船で空を移動していたって。ただの作り話だと思っていたけど、実在したのね」

「ということは、ここは飛行船の港だったのか?」


 アーダンが首をひねっている。確かに港にしては、周囲の環境が良くないような気がする。この周辺に人が住んでいたような形跡はないし、近くに別の遺跡があるわけでもない。この遺跡は完全に孤立しているのだ。


「さすがにこのお宝は持って帰れないな。次だ次。次のお宝を探そうぜ」


 早くも考えることを諦めたジルがそう言った。確かにこれだけの大きさのものは魔法袋には入らないし、動かし方も分からない。このまま放置しておくしかなかった。


「それにしても、何千年も経過しているはずなのに、良く原形をとどめていると思わない?」

「きっと金属製だからじゃないかしら? あの金属が特殊なのよ。ほら、ガーディアンも元気だったじゃない」


 リリアが両手を広げている。言われてみればその通りだな。ガーディアンは元気に動き回っていたっけ。壊しちゃったけど。


「確かにそうだな。あの金属を研究すれば、朽ちない剣や鎧を作ることができそうだ。俺の盾も強化できるかも知れないぞ」

「研究者たちの頑張りに期待ね」


 地図にこの場所のことを書き込むと、俺たちはこの空間をくまなく捜索した。だがしかし、飛行船と港と思われる設備以外のものは見つからなかった。船内への入り方が分からず、中に入ることができなかった。


 一通り調べ終えた俺たちは、今日の調査を終了することにした。来た道を引き返し、拠点へと戻った。

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