第64話 調査結果報告

 無事に拠点にたどり着いた俺たちは同時に座り込んだ。どうやらガーディアンと戦ったころから、ずっと神経を張り巡らせ続けていたようである。安全な場所にたどり着いて、思わず力が抜けた。


「ほら、フェル、念のためシールドを張っておかないと」

「そうだね、リリア。でもシールドでガーディアンを防ぐことができるかな?」

「そこはあれよ、雷属性のシールドにしておけば良いのよ」

「なるほど」


 俺はさっそくリリアの提案に従って、雷属性のシールドを張り巡らせた。これで安心だ。力尽きてぺしゃりと潰れた俺の頭をリリアがそっとなでてねぎらってくれた。

 さすがのアーダンも料理をする気力もなさそうだ。エリーザから精神力回復魔法を受けていたとはいえ、限界があったようである。


「今日の飯も携帯食で良いか?」

「もちろんよ。さすがに作ってとは言えないわ。そうだわ! 私が代わりに作ってあげようか?」

「エリーザ、エリーザもずっとスモール・ライトの魔法を使っていたから疲れているだろう? 今日は休め」

「そう? 分かったわ」


 エリーザが少し口をとがらせてそう言った。どうやらアーダンはエリーザに食事を作らせたくないようである。これはあれだな、エリーザは間違いなくメシマズだな。俺も食事を作る気力が湧かないし、今日も携帯食だな。もう少しおいしい携帯食があったら良かったのにな。


 現在時刻を確認すると、午後の四時だった。夕食まではまだ時間がある。そこでみんなで軽く甘いものを口にした。少しだけ元気が出た。


「明日も似たような感じの調査になるんだろうな」


 ぼそっとジルがつぶやいた。周囲の空気はまだ重いようである。


「またガーディアンと戦うことになりそうだね」


 その空気に思わず苦笑いする。今日は一日、日の光に当たっていない。それが俺たちの気分を下げているのかも知れないな。日の光は偉大だ。


「そうだな……依頼の期限にはまだ余裕があるし、明日、休みでも構わないぞ?」


 アーダンの提案に俺たちは顔を見合わせた。だが恐らく、みんな同じ意見だろう。俺とリリアならひとっ飛びで街まで行けるからいいけど、他の人はそう言うわけにもいかない。


「休みをもらっても、特にすることなんてないよね?」

「うん、まあそうだな。ゆっくり寝るくらいか?」

「体がなまりそうなのでパスだな。フェルとリリアなら一日中、抱き合っていられそうだけどな」


 ニヤニヤとこちらを見るジル。まあ、できる、できないで言えば、できるけど……。その光景を思い浮かべて思わず目をそらした。


「ちょっと、失礼ね! 年がら年中イチャついてないわよ!」


 そう言いながらも俺の顔に張り付いているリリア。どうやら魔力を回復しているらしい。そして説得力がまるでなかった。ジルが静かに首を左右に振っていた。その目には光がなかった。


「それじゃ、明日も調査続行だな。他の場所に飛行船のようなものは見つからないのか?」

「今のところ、今日の場所だけだね。あと気になるのは、大きな魔石があるところかな? でも、あの飛行船を見たら、この大きな魔石はそれを動かすために使うものなんじゃないかと思っているよ。飛行船には魔石が積んでなかったみたいだし」


 アーダンがあごに手を当て、しきりにうなずいている。真剣な表情をしているが、どこか明るい感じがする。


「その可能性はあるな。巨大ガーディアンの可能性はなくなったと思いたいところだな」

「巨大ガーディアンが動けるほどの空間はなさそうだよ。それでも、今日倒したガーディアンが動けるくらいの空間を持つ部屋はいくつかあるみたいだけどね」

「それじゃ、そこにはガーディアンがいる可能性が高いというわけか」


 ジルがフンと鼻息を荒くした。どうやらガーディアンを恐れてはいないようだ。自慢の剣が通用しないのに、強気な様子は変わらない。この心の強さがジルの強さの源になっているのだろう。


「そうなるね。でも、倒し方が分かっているから、不必要に恐れる必要はないと思うよ」

「そうね。穴に落として、雷を落として終わりだもんね」


 リリアがますます俺の顔にひっついている。これじゃジルにからかわれても仕方がないね。あ、エリーザの目が半眼になっている。どうやらあきれているみたいだぞ。




 翌日からも遺跡調査は続いた。魔石の反応があった部屋では毎回、警告音らしきものの後に、ガーディアンに襲われた。ピットからのサンダー・ランスの連携魔法によって、こちらにはほとんど損害がないのがさいわいだった。


「フェルがいなかったら厳しかったわね」

「ああ、厳しかったな。厳しいというよりも、倒せなかった可能性の方が高いな」

「逃げたとしても、どこまで追いかけて来ることやら」


 何だかアーダンたちに褒められているみたいで、首元がくすぐったい。それでも集中、集中と自分に言い聞かせて、アナライズで周囲の確認をくまなく行う。


「この部屋が大きな魔石の反応がある部屋だよ」

「なるほど、確かにフェルとリリアが言っていたようにただの普通の部屋だな。巨大ガーディアンが現れそうな気配はないな」


 慎重に部屋の奥へと進むと、そこには大きな金庫があった。どうやら魔石はこの中にあるみたいだ。見たこともない形の円い文字盤がついている。その近くには鍵穴もあった。


「この中にお宝が眠っているみたいだね。どうやって開けるのかな?」

「これはさすがに開けられないんじゃないのか? こんな形の金庫は始めて見るぞ」


 アーダンとジルが金庫を調べているが、金庫の扉が開きそうな気配はない。ここはリリアの魔法で……。


「リリア、魔法で開けられないかな?」

「さすがに無理なんじゃないの? まあ、やってみるけど。キー・オープン! わお、開いちゃったー」


 ガチャリと鍵穴から音がすると同時に、円い文字盤が高速で動き出した。そしてすぐにカチャリという小さな音がして、扉が少し開いた。

 恐るべし、妖精のイタズラ魔法。効果が高すぎる。きっと秘密の部屋や宝物庫に忍び込むときに使ったのだろう。そしてリリアは金庫が開くと分かっていたハズである。最後の方の言葉が棒読みだったからね。


「それじゃ、開けてみるとするか」

「まさか運良く金庫の扉が最初から開いているとは思わなかったなー」


 ジルが棒読みで応えた。どうやら見なかったことにしてくれるようである。ありがたや。金庫を開けると、そこには大きな魔石がポツンと一つだけ入っていた。もしかすると「金銀財宝が入っているのでは」と期待しただけに残念だった。


「魔石だけみたいね。それでも相当な追加報酬になりそうだわ」

「これであの飛行船を動かしていたんだろうな。でもなんで外してあるんだ? 作ったは良いけど、動かすつもりはなかったのかな?」

「古代人が考えることは分からんな。ここはこのままにしておいて、次に行こう」


 この大きさの魔石なら魔法袋に入れて、持って帰ることは十分に可能だろう。だが、それをしたところで、売る場所は国しかないだろう。持って帰ってもどうにもならないと判断したようだ。


 これが大きな宝石とかだったら大商人が買い取ってくれたのに。次の場所では金銀財宝があることを期待したい。ガーディアンが守っている部屋はまだある。可能性はあるはずだ。


 探索を続け、遺跡調査調査は終了した。調査の結果、金銀財宝はなかった。ガーディアンが守っていたのは四つの部屋だった。

 何かの動力源のようなものが置いてある部屋。使い道の分からない機械がたくさん置いてある部屋。たくさんの木材の破片と紙が散乱した図書館らしき部屋。そしてお偉いさんが使っていたとみられる一際豪華だったと思われる部屋。


 その豪華な部屋には金属製の机が置いてあり、それはまだ形を保っていた。壁に掛けてあったと思われる絵画のようなものは、ボロ布のように朽ち果てて床の上に横たわっていた。

 棚の上に置いてあったと思われる、金属製の飛行船の模型が、その船体をとどめたまま静かに床の上に転がっていた。


 俺たちはなるべくそれらに触れないようにして調査を済ませた。アーダンが遺跡調査の結果をまとめると王都へと戻った。終了までには二十日ほどかかっていた。


「依頼達成の報告に来た」

「達成報告ですね。依頼書の提示をお願いします」


 王都に戻るとすぐに冒険者ギルドに向かった。早く依頼を完了して、ゆっくりと休みたい。拠点内は安全だったとは言え、街の中とは違う。その分、精神的な疲労感が蓄積していた。他のメンバーも同じようで疲れた顔をしていた。


 俺とリリアはまだ良い方だろう。食糧が尽きれば、町まで空を飛んで買い出しに行っていたのだから。ずっと缶詰状態だった三人はかなり参っているようだった。

 あいているテーブルで待っていると、アーダンが戻って来た。


「お帰り。どうだった?」

「正式な報酬は後からになるらしい。今は依頼書に書いてあった額面の報酬だけだな」


 そう言うと、俺たちの前にお金が入った袋を置いた。大きな袋なので、それなりにお金が入っているようである。これで何かおいしいものでも食べよう。


「それじゃ、宿に帰ってゆっくり休むとしようじゃないか」

「ジルの意見に賛成ー!」


 リリアが手を上げて飛び上がった。

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