第62話 弱点は

 部屋の奥の暗がりから、金属の鎧に覆われたゴーレムが現れた。金属は幾重にも重なっており、隙間はない。そのため、鎧の下の状態がどうなっているのか想像もつかなかった。


「どうやら遺跡を守るガーディアンに間違いなさそうだな」

「アーダン、戦ったことがあるの?」


 もしかすると、以前に遺跡調査の依頼を受けたときに、戦ったことがあるのかも知れない。そうなると、かなり有利に戦えるはずだ。


「いや、ない。だが魔物図鑑で見たことがある。確かその本には『ガーディアンは金属の鎧を身につけており、目が赤い』と書いてあったはずだ。今、目の前にいるヤツとそっくりな記述だろう?」

「確かに」


 言われてみれば確かに、鉄兜の隙間から赤い二つの光が見える。それは不気味に赤く輝いており、こちらを見ているような、見ていないような、何とも奇妙な感覚だった。


「魔物と違うから、話ができるかな?」

「おいおい、フェル、一体何語で話すつもりだよ」


 ジルがあきれたような声を出したとき、ガーディアンが意味不明な言葉をしゃべった。どうやらガーディアンはしゃべることができるみたいである。


「何て言ったんだ?」

「分からん。とても話が通じるようには思えないな」


 その後も何度か警告音のような音を発すると、突如ガーディアンが襲いかかってきた。もちろん俺たちに油断はなかった。キッチリとガーディアンのたたきつける拳をアーダンが盾で受け止める。


 ガシンと鈍い音がしたが、アーダンにケガなどはなさそうだ。いつもの様に盾を構え直した。そのガーディアンの攻撃の隙をついて、ジルが剣で鋭く斬りかかった。だが、鈍い音と共に、その攻撃は跳ね返された。


「硬いぞ、コイツ。刃が立たねえ」

「今度は関節部分を攻撃してみてくれ。アーマーベアみたいに攻撃が通りやすいかも知れん」


 再びガーディアンの拳が振り下ろされた。アーダンは一撃目でコツをつかんだのか、今度はキレイにその拳を受け流した。ガーディアンの体勢が崩れた。その隙を見逃さず、ジルが人間の肘に当たる部分を剣で突いた。ギン、という鈍い音がする。


「ダメだ。関節部分もカチカチだ。同じ場所を何度も突けばそのうち破壊できるかも知れないが、時間がかかりそうだ」

「今度は魔法を試してみるよ」


 狭い場所で放つ魔法はとても危険だ。慎重に、威力を抑えて、かつ、相手にダメージを残さなければならない。とても神経を使うことになる。ちなみにリリアはそんなちまちました魔法は嫌いらしく、ドカンと一発派だそうである。よって遺跡内で攻撃魔法を使わせるのは禁止だ。


 いつでも魔法が撃てるように準備を整えると、アーダンが盾をガーディアンにたたきつけた。その衝撃でガーディアンが後ろに下がり、アーダンも後ろに下がった。

 二人の距離が開いた。


「ファイアー・アロー!」


 魔力を一本の矢に凝縮して放つ。少しでも貫通力を高めるために高速回転させたその矢は、いつもよりも明るい光を宿していた。

 火の矢がガーディアンに突き刺さる。表面の鎧は少し溶けていたが、貫くことはできなかった。


「あの鎧は火耐性があるのかな? それとも、魔法耐性?」

「両方かも知れん。フェル、熱くてかなわん。あいつを冷やせるか?」

「了解。アイス・アロー!」


 俺が作り出した、無数の小さな氷の矢がジュウジュウと音を立てながらガーディアンを冷やしていった。ガーディアンは何事もなかったかのように動いている。


「火属性はダメね。ガーディアンもこの部屋も暑くなっちゃうわ。そうだ、ピットで穴を掘って埋めたらどうかしら?」

「それは良い考えかも知れない。ピット!」


 エリーザの助言に従ってガーディアンの真下に穴を空けた。深さもそれなりにあるし、埋めてしまえば出て来るとはできないだろう。

 ガーディアンは突如現れた穴の中に落ちていった。怪しく光る赤い残光が見えていたが、それもすぐに見えなくなった。


「ストーン・ボール!」


 宙空から大量の岩を生み出すと、穴の中にたたき込んだ。これでガーディアンも出て来ることはできないだろう。土魔法でも使わない限り。


「なかなか強力な魔法の組み合わせだな。ピットも使い方によってはかなり凶悪な魔法になるな」

「そうだね。妖精がイタズラ目的で作った魔法にしては危険だね」

「だがこれでガーディアンも……」


 ジルがそう言ったとき、先ほどストーン・ボールで埋めた場所の岩が無くなった。これはもしかして。


「気をつけて! あいつが何かの魔法を上向きに使ったみたいだわ。ほら、見てよ! 登って来るわ」


 リリアが声を上げると同時に、穴からガーディアンがはいだして来た。どうやら土魔法が使えるみたいである。ガーディアンの二つの赤い目からは何の感情も読み取ることはできなかったが、怒りに満ちているような印象を受けた。


「どうすんだよ、これ」

「壁を作って隔離する作戦も無理そうだね」

「コイツの魔力も無限じゃないだろうし、魔力が無くなるまで穴に落として埋めるか?」


 アーダンがガーディアンの攻撃を盾で回避しながらそう言った。可能かも知れないが、どのくらい時間がかかるのか分からない。先にこちらの魔力が切れる可能性も十分に考えられる。


「リリア、何か弱点はないのか?」

「そんなこと言われても、ガーディアンと戦ったことがないから分からないわよ」


 リリアもこの状況がまずいと感じたのか、かなり焦っているようだ。普段の余裕のある顔ではなく、こわ張った表情で俺にしがみついている。

 落ち着け、落ち着くんだ。リリアには長い年月の間に培った知識があるはずだ。それをうまく引き出すことができれば、弱点が見つかるはずだ。


「リリア、古代人は確か、魔道具の代わりに機械を使っていたんだったよね?」

「え? そ、そうよ。魔道具じゃなくて、あの当時は機械って呼んでいたわ」

「魔道具と機械はどう違うんだ?」


 えっと、とリリアが何かを思い出すように、眉間を指でトントンたたいている。その間にも、アーダンとジルがガーディアンの攻撃を防いでいる。エリーザは二人に支援魔法をかけて体力を回復していた。どうやら防ぐだけでもかなりの体力を使うようだ。


「そうだわ。電気よ、電気! 魔石から出た魔力を電気に変換して、機械の隅々まで送っていたわ。そうすることで、色んな機械を同時に動かしていたはずよ。だから機械に大量の電気を送り込めば、機械がショートして使い物にならなくなるのよ。よくそうやって機械を壊してイタズラしていたわ!」

「リリア、電気って何? ショートって何!?」


 リリアがスッキリしたみたいな顔をしていたが、俺には何のことやらサッパリ分からなかった。唯一分かったことは、リリアがイタズラ目的で機械を壊していたことだけである。


「雷よ、雷! あいつに雷魔法を使えば壊すことができるわ!」


 自信たっぷりにリリアがそう言った。何だかよく分からんが、雷魔法を使えば良いのか。それなら何とかなりそうだ。


「ちょっと、今、雷魔法とか言う物騒な単語が聞こえて来たんだけど!?」

「そうだよ、エリーザ。今から雷魔法でガーディアンを攻撃する。これでガーディアンがショートして壊れるらしい」

「意味が分からないわよ!」

「俺にも分からないよ! アーダン、ジル、さっきの落とし穴にガーディアンを落とせる?」


 ガーディアンがはいでてきた穴は健在だ。あの穴にもう一度ガーディアンを落として、雷魔法で攻撃する。雷魔法はちょっと危険なので、この方が安全だ。


「分かった。やってみるさ」

「おーおー、人使いが荒いことで!」


 そう言うジルだったが、何だかうれしそうである。もしかすると強敵と出会うことができてうれしいのかも知れない。

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