第59話 遺跡調査

 結局のところ、その日は崖の上から下りるか、谷底を進むかについての結論は出なかった。だが、時間はまだまだある。これから色々と試してみることになるだろう。

 次の日はみんなそろって谷底へと向かった。まずはゴーレムの数を知る必要がある。


 谷底には荒涼とした大地が広がっていた。植物はまばらにしか生えておらず、そこかしこにゴツゴツした岩が転がっている。両側には絶壁がそびえ立っており、そこにいるだけでまるで押しつぶされるかのような、妙な圧迫感があった。


 谷底まで日が差す時間帯はほんの少しのようであり、昼間なのに辺りは薄暗く、ヒンヤリとしていた。時々強く吹く風が細かい砂を巻き上げている。


「あそこにゴーレムがいるわね」

「こっちにもいるみたいだね。このペースでゴーレムに遭遇するとなると、目的地まで行くのは結構大変そうだよ」

「なるべく避けて進んでみるとしよう」


 アーダンの提案でなるべくゴーレムから離れた地点を通る。俺たちの存在に気がついたゴーレムがその重い体をゆっくりと起こした。体についていた小石がパラパラと落ちる。


「さすがに全部を避けるのは無理があるな」

「そうだなって、おい、あっちのゴーレムも立ち上がってるぞ!」

「向こうもよ! どうなってるの!?」


 ジルとエリーザが言うように、明らかに俺たちから離れているゴーレムまで動き出している。まるで俺たちみたいにパーティーを組んでいるかのようだ。


「ゴーレムが連動しているんだわ! 最初に起きたゴーレムの近くにいるゴーレムも一緒に起きるみたいね。気をつけて!」

「リリア、まさか、ここにいる全部のゴーレムが起きたりしないよね!?」

「分からないわ! でもその可能性もあるはずよ」

「まずいな、下がるぞ、急げ!」


 俺たちは一目散に先ほど入って来た場所へと走った。どうやら追いかけて来たのは、先ほど起きた三体のゴーレムだけみたいである。


「アーダン、攻撃を開始するよ」

「頼んだぞ、フェル! 俺たちは援護に回る」

「了解! ウォーター・アロー!」


 水の魔法の矢は寸分違わずゴーレムの核がある部分に命中した。だがしかし、思った以上に岩が硬いようだ。ゴーレムの体の表面に傷をつけただけで、核を破壊することはできなかった。


「硬い!」

「フェル、あそこに核があるんだな? あとは任せろ!」


 そう言うと、ジルがあっという間にゴーレムに接近し、剣で核を貫いた。ゴーレムが悲鳴のような奇妙な音を立てて崩れ去る。

 残った二体も同じように俺がウォーター・アローで核がある場所に傷をつけ、ジルがトドメを刺した。


「うっし、行けるな、これ」


 うれしそうにイイ顔でジルが笑った。不死身でなくなったゴーレムは、ジルにとってはただの狩りの対象でしかなさそうだ。


「まあ、そうだけど、さすがに数が増えると無理があると思うよ?」

「フェルの言う通りだな。今回はたまたま三体だったが、十体、二十体になる可能性だってあるんだ。厳しい戦いになるだろう」


 アーダンの言う通りだ。ゴーレムが連動する法則を見つけなければ、このまま先に進むのは無謀だと思う。作戦会議が必要だな。


「昨日倒したゴーレムは連動して襲ってこなかったの?」

「それが、この辺りのゴーレムはどれも同じだろうと思って、谷底のゴーレムじゃなくて、向こうの荒野にいたゴーレムを倒したんだよ」


 アーダンが指差した方向には赤茶けた荒野が広がっていた。どうやら向こうにもゴーレムがいるようだ。谷底のゴーレムと違うのかな?


「ねえ、昨日のゴーレムを倒したときに拾った魔石を見せてよ」

「ああ、これだな」


 ジルが魔法袋から魔石を取り出した。それをさっき倒したゴーレムのものと比較する。魔石の形がほんの少しだけ違っていた。


「なるほど、どうやら別の種類のゴーレムみたいだな。周囲のゴーレムと連動する種類のゴーレムか。厄介だな」

「集団で襲いかかってくるゴーレムか。そりゃ調査も進まないわけだ」

「感心してないで、何か対策を考えなさいよ」


 さてどうしたものか。連動する最大数とかあるのかな? でもそれを検証するのは危険だな。やはり、ゴーレムに気がつかれないようにして先に進むしかなさそうだ。


「まずは、どうやってゴーレムがこちらを認識しているかを調べないといけないね」

「そうね。ちょうどあっちに良い実験体がいるみたいだしね」


 リリアが赤茶けた荒野を指差した。




「よし、実験結果をまとめるぞ。やつらは音でも振動でもなく、俺たちの体温を感知している」

「熱感知ね。そしてその感知できる範囲は馬車五台分くらい。それでどうするの?」

「そうだね……フリーズ・バリアを使って俺たちの体温をごまかせないかな?」

「なるほど、いいかも知れないな」


 結果は当たりだったようであり、フリーズ・バリアを使ってゴーレムに接近すると、気づかれることはなかった。そして、フリーズ・バリアを解除した瞬間に襲いかかって来た。


「よしよし、あとは向こうの連動型ゴーレムでも有効かどうかだな」


 アーダンが口を横に結んだ状態でそう言った。同じゴーレム種だからと言って、同じ感知の仕方ではないかも知れない。慎重に行動しないといけないな。


「うまく行くといいな。これがダメなら、崖の上からエリーザを宙づりする作戦になるからな」

「ああ! どうかうまく行きますように」


 エリーザが天に祈りをささげた。よほど宙づりが嫌なようである。

 試験を終えた俺たちは再び谷底へと歩みを進めた。先ほど倒した三体のゴーレムがいた場所にはポッカリと岩石がなくなっていた。すぐに新しいゴーレムが補充されるわけではなさそうだ。


「よし、それじゃ行くぞ。失敗した場合、どれだけの数が連動するか分からん。油断はするなよ」


 フリーズ・バリアを施したアーダンがゆっくりとゴーレムに近づいて行く。すぐに逃げ出せるように、エリーザの隣にはジルが待機していた。足が遅いエリーザはジルに抱えられて逃げることになっている。俺とリリアは空を飛ぶので問題ない。


 一歩、また一歩とアーダンが近づく。だが、先ほど反応した距離よりも近づいたが、ゴーレムの反応はない。最終的にゴーレムのすぐ隣まで近寄ったが、全く反応はなかった。

 そのまま静かにアーダンが戻って来た。


「どうやら問題はなさそうだ。念のため、静かに進むようにしよう」

「了解。でも、本格的に進むのは明日からだね」


 今から進むと、到着は夜更けになるだろう。真っ暗な谷底を進むのは危険だ。それにランタンの明かりに反応するかも知れない。安全第一で攻略すべく、俺たちは拠点に戻った。

 翌朝、準備を整えた俺たちは再度、遺跡調査へと向かった。


「フリーズ・バリア! これで大丈夫だよ」

「よし、油断せずに進むぞ。周囲の警戒を怠るな。リリア、ゴーレムの位置の特定を頼むぞ」

「お任せあれ!」


 谷底に横たわるゴーレムたちを避けながら進んで行く。昼食はパンに肉と野菜を挟んですぐに食べられるようにしたものだった。さすがにこの場所で火を使うわけには行かない。ゴーレムが反応するかも知れないからね。

 何度も休憩を挟みながら、足下の悪い中を慎重に進んで行く。


「あの辺りが遺跡のある場所だよ」

「間違いないわね。見てよ! きっとあの穴から遺跡に入るんだわ」


 リリアが大人二人分くらいの高さにある穴を差した。そこにはいかにも人工的にくり抜かれたと思われる半円の穴があった。奥は深いようで、この位置からでは中の様子は見えなかった。


「穴まで登って縄ばしごを垂らすよ。ちょっと行って来る」

「頼んだぞ、フェル」


 軽く飛び上がり穴に到着した。穴は奥まで続いており、光をともさないと奥の様子は分からなかった。

 俺は穴から下へとはしごを下ろした。すぐに三人が上ってくる。


「これが遺跡の入り口なのね。奥はどうなってるのかしら?」

「今のところ何の気配もないね。アナライズの反応もなし」

「よし、奥に進もう。エリーザ、明かりを頼む。フェルとリリアはマッピングと周囲の警戒を。俺とジルは何かあったときに対応する」


 穴に登ったところで装備を確認すると、俺たちはエリーザのスモール・ライトの明かりを頼りに、先へと進んだ。ある程度進んだところでそれはあった。


「扉があるぞ」

「依頼書にはそんな話はなかったな」


 ジルとアーダンが慎重に扉に近づいた。俺たちも近づいてよく見たが、鍵穴らしきものは見つからなかった。何か扉を開くための呪文とかあるのかな?


「どうやって開けるんだろう、これ?」

「壊すしかないわよね?」


 俺の質問にリリアが物騒な答えを返してきた。確かにそうかも知れないが、それは最終手段に取っておきたいところだ。衝撃で今いる穴が崩れるかも知れないからね。


「それをやると、ガーディアンが動き出すんじゃないの?」

「だろうな。さて、どうしたもんか」

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