第57話 新たな依頼

 俺たちの報告を聞いてから、何度も何度も巨大な魔石を調べるギルドマスターのラファエロさん。やがて大きなため息をつくと一つの結論を出した。


「リリアさんが言うように、これは間違いなくファイアータートルの魔石が巨大化したものですね。形状も、魔石の結晶方向も全く同じです」


 再びフウと大きく息を吐くと、頭を左右に振った。


「魔物が巨大化するなどと言う話は聞いたことがありません。そして、そのような技術をエルフは持っていません」


 キッパリとラファエロさんはそう答えた。エルフの中でも高齢のラファエロさんがそう言うのだ。恐らくは間違いないだろう。


「それじゃ、我々が知らないところで何かが起きていると?」

「それはまだ分かりません。ですが、このことは私から王国に報告しておきます。恐らくですが、王国の上層部は慌ただしくなるはずです。あなた方の力をまた借りることになるでしょう。そのときは、どうかよろしくお願いします」


 深々とラファエロさんが頭を下げた。その様子にジルが急に立ち上がった。いつもとは違うジルの様子に思わず目を見開いた。ジルがこんなに慌てるなんて。


「ギルマス、やめて下さいよ。俺たち冒険者なんかに頭を下げる必要なんてありませんよ!」

「そうですよ。いつものように『あとは任せた』って頼めばいいんですよ」


 エリーザは両手を激しく左右に振っていた。どうやらギルマスの思わぬ行動に焦っているようである。もしかすると、何か大きな恩があるのかも知れないな。

 魔石は研究用として、そのままギルマスに預けることになった。正式に国が買い取ることに決定したら、それを報酬金として俺たちに渡してくれるそうである。


「それじゃ、俺たちはこれで失礼しますね」

「わざわざの報告、感謝しますよ。何か分かったら君たちにも情報を提供するつもりです」

「ありがとうございます。ただの思い過ごしだと良いのですが……」

「私もそう思いますよ」




 それから数日間はみんなでお休みを取った。人間、働いてばかりではいけない。しっかりお金を稼いだら、その分、しっかりと休息を取らなければならないのだ。

 俺たちは二人で王都のうまいもの探しをした。さすがは王都なだけあって、毎日のように新しい食べ物が出現していた。とてもではないが、制覇することができなかった。続きはまた今度のお休みのときにだな。


 十分に休息を取った俺たちは久しぶりに冒険者ギルドに顔を出した。これまで俺たちが泊まっている宿に直接依頼が来なかったことから、緊急依頼がないことは分かっている。


「アーダン、依頼ってどんな基準で選んでいるの?」

「そうだな、俺の勘だな。何となくだが、この依頼を受けた方が良いって言うのが分かるのさ」

「本当かな~」


 勘で依頼を選ぶとは。そしてそれを当然と思っているのか、ジルとエリーザは依頼を見に来ない。単純に探すのが面倒くさいと思っているだけなのかも知れないが。


「お、この依頼が良さそうだな。ピンときた」

「遺跡調査~? 地味!」


 アーダンの手元をのぞき込んだリリアがキッパリと言い放った。アーダンが思わず苦笑いしている。リリアはどちらかと言うと、体を動かす方が好きだからね。だから討伐依頼を受けたがるのだ。それに討伐依頼なら、魔石を売ることでさらにお金を稼ぐことができるからね。


「なんでこの遺跡調査はプラチナランク冒険者の依頼になっているのかな?」

「うーむ、なるほど、場所がダロモア渓谷だからか。あそこはゴーレムだらけだと言う話だからな」

「ゴーレムか。確かに厄介な相手だね。それがたくさんいるからプラチナランク冒険者向けになっているのか」


 ゴーレムは耐久性が高く、魔法が効きにくい個体も存在する。一体ならゴールドランクでも何とかなるが、複数体なら厳しいかも知れない。

 ゴーレムは体の中に、スライムが持っているような核がある。その核を壊すことで、完全に倒すことができる。


 そのため、ゴーレムを倒すためには、攻撃しながらゴーレムの核を探す必要がある。

 普通は大変なその作業も、アナライズを使える俺たちにとっては話は別である。何せ、その核がある場所をすぐに見つけることができるのだ。そのような事情もあって、俺たちにとってはそれほど厄介な相手ではなかった。


「アナライズってそんなこともできるのね。本当に反則的な魔法ね」

「それなら余裕で倒せるな。よし、ゴーレム狩りの時間だ」


 アーダンが見つけた依頼を二人の元に持って行ったが反対意見は出なかった。これは相当、アーダンの勘を信頼しているようである。アーダンは何か特殊な能力を持っているのかな?


 依頼書を受付カウンターに持って行くと詳しい内容を教えてくれた。話によると、ダロモア渓谷にある古代遺跡を調べて欲しいという内容だった。

 ダロモア渓谷に古代遺跡があることは昔から知られているらしい。しかし、その正確な位置はこれまで不明だったそうだ。


 それでも古代遺跡からの貴重な出土品を求めて、何度も捜索隊が送られた。だが、度重なるゴーレムの襲来によって、何の成果も得られていないそうである。

 ところが、つい先日、古文書を解読していた研究者が、ダロモア渓谷にある古代遺跡の場所を突き止めたそうなのだ。そしてすぐ国に報告した。


 だがしかし、その場所はダロモア渓谷の奥深くだった。大規模な捜索隊を派遣しようにも、そう簡単には派遣することができない。

 そこで、一刻も早く古代遺跡を調べたかった国が今回の遺跡調査を依頼したのだ。


「依頼主は国からになるのか。それなら、国のお墨付きであるミスリルやオリハルコンクラスの冒険者に依頼すれば良かったのに」

「それが、どうやら断られたみたいです」

「なんで?」


 俺たちはお互いに顔を見合わせた。受付嬢は苦笑いしている。

 そりゃそうだよね。国が頼んだら断ることはできないはずだ。それを断っただなんて……。もしかして、断ったんじゃなくて失敗したのかな? うん、あり得そうだ。彼らの名誉のためにも失敗したなんて公表できないのかも知れない。それはそれでおなかの中がモヤモヤするものがあるけどね。


「恐らくですが、少数人数では不死身のゴーレムの群れを突破するのは無理だと判断したのではないでしょうか?」

「不死身って言うが、核を潰せば倒せるぞ?」


 な? と俺たちを振り返るジル。うなずきを返す俺たち。それを見た受付嬢の苦笑いがさらに深くなった。


「それはそうですが、核を見つけて壊すまでが大変でしょう? それが複数体同時を相手にすることになったら、倒しきれないと判断したのでしょう。ですが、あなた方は違うみたいですね」

「まあな。俺たちには優秀な魔法使いが三人もいるからな」


 そう言って、俺、リリア、エリーザを見るアーダン。そして、どこか納得したかのようにうなずく受付嬢。


「それではこの依頼を受けると言うことでよろしいですか?」

「もちろんだ。引き受けよう。報酬がずいぶんと良いみたいだからな。研究者も確信があるみたいだし、行けば何かあるだろう」

「場所は極秘扱いになっていますので、取り扱いには十分に気をつけて下さいね」


 受付嬢は慣れた手つきで依頼の発行手続きを済ませてゆく。最後にリーダーのアーダンが書類にサインをして、無事に遺跡調査の依頼を受けることができた。


「期限は三ヶ月になります。時間にかなり余裕があると思いますので、しっかりと準備を整えてから向かって下さいね」


 三ヶ月か。これまで受けた依頼の中でも、かなり期限の長い依頼である。それだけしっかりと調査してもらいたいと言うことなのだろう。

 依頼書を受け取った俺たちはひとまず宿に戻り、今後の作戦会議に移った。


「ダロモア渓谷までは足がないな。一番近い町からでも、歩いて二日はかかる。現地に滞在することになるだろう」

「それなら、フェルに拠点を作ってもらわないといけないな」

「そうね。その点からも、私たちがこの依頼を受けるのは適任だったかもね」


 確かに俺たちなら他の冒険者よりも強固な拠点を作ることができる。人里離れたところに長く滞在するなら、最適なパーティーと言えるだろう。


「食料も買い込んでおかないとね。それでも、空を飛んで行けばすぐに町まで戻ることができるから、食料がなくなっても大した問題じゃないけどね」

「ふむ、空を飛ぶか……。フェル、リリア、現地に着いたら空を飛んで目的地までの地図を作ってもらえないか?」

「分かったよ。オート・マッピングを使えばすぐだからね」

「ついでにアナライズも使って、地面の中の様子も調べておくわ」


 アーダンの提案を俺たちは二つ返事で引き受けた。エリーザが言ったように、この依頼は俺たちにピッタリな依頼のようだ。アーダンの勘は本物のようである。そりゃ二人が無条件で従うわけだ。俺もその考えに賛成である。


「本当に何でも有りよね、あなたたち」


 エリーザが白い目でこちらを見ていた。いやぁ、そんな目で見られても困るなー。

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