第51話 エルフの森調査依頼
料理人アーダンのおすすめの焼き肉店というだけあって、霜降りがのった肉は非常においしかった。ここで出される肉は、どうやら先ほどまで調査していたゲーペルの村とは違うところから仕入れているそうである。
そのため「もしここの肉がなくなったら、俺も原因の調査に向かうだろう」と、俺たちがプリンのために調査に乗り出したことに対して共感してくれた。ジルとエリーザもうなずいていたので、同じ思いだと思っている。
「ちょっと心配だったけど、そのコップの量なら大丈夫そうだね」
「何言ってるのよ、フェル。あたしがお酒に酔うなんてことあるわけなじゃない。妖精さんだぞ?」
え? それ関係あるんですか? と言うか、お酒に酔うよね、リリア。これはまずい。これ以上、お酒を飲ませるのは禁止にしないと。
「おお、さすがはリリアちゃん。お酒がいけるタイプだね~」
ほろ酔い気味のエリーザさんがリリアに絡み出した。これはいかん。何とかリリアを近づけないようにしながらも、お肉を食べる。
「さて、調査結果が出るのはいつぐらいになるかね?」
「あれだけの規模だからね。調査が終わるまでには時間がかかるんじゃないかな?」
「そうか? ひょっとしたらすぐに強い魔物が原因だって分かって、俺たちに討伐依頼が来るんじゃないのか? あー、腕が鳴るぜ!」
まだ何も分かっていないのに、一人、やる気満々のジル。どうやら戦闘狂なだけでなく、かなりの脳筋のようである。そしてよほど腕に自信があるらしい。
「ジルってどのくらいの強さなの?」
「ウォータードラゴンくらいなら楽勝だな」
「ウソつけ。さすがにそれは言い過ぎだろうが。まあ、ワイバーンくらいなら余裕だな」
おお、ワイバーンは一応竜種になるので、ジルもドラゴンスレイヤーというわけか。ワイバーンは一頭いれば、小さな村くらいなら壊滅させることができる強さを持っている。それを余裕ということは、ウォータードラゴンも倒せるかも知れないな。
「ねえ、どうやってウォータードラゴンを倒したの?」
「え~、知りたいの~、エリーザ~?」
リリアの目がトロンとしている。これはそのうち寝そうだぞ。
「そりゃ、知りたいわよ。教えてよ、師匠~」
「え~、もう、しょうがないなぁ。えっとね、あのね、ポーンってして、ドカーンってしたのよ」
「え? どゆこと?」
エリーザが目をまん丸にした。その頭にはいくつも疑問符が浮かんでいるような気がした。アーダンとジルも興味があるのか話に耳を傾けていた。どうやらリリアは思考回路が回らなくなっているようだった。
「どう言うことなんだ、フェル?」
「ええと、ウォータードラゴンが水に潜って出てこなくなったんで、ウォーター・トルネードで空中に引っ張り出したんだよ。それで空中に出てきたところでフレア・バーストを撃ち込んだのさ」
なるほど、と納得してくれたようである。だが、疑問符が完全に消えたわけではないようだ。三人がそろって腕を組み、首を大きくかしげている。
「何となくどんな魔法なのかは分かるんだけど、フレア系の魔法なんて聞いたことがないわよ」
「あれ? 知らない? 火魔法で一番強い魔法系統なんだけど」
「プロミネンス系より上なの?」
「そうだよ?」
これはもしかして、一般的には知られていないパターンではなかろうか。使うとまずい魔法だったのかも知れない。確かに威力はすごいもんね。
「プロミネンス系の上があるのかよ。初めて知ったぜ」
「そうね、私も初めて知ったわ。そう言えば思い出したんだけど、フェルって魔法名しか言わないよね? 魔法の詠唱はどうしたの?」
「詠唱は長いから省略してる」
「とんでもねぇ化け物がいたわ。俺なんて、まだかわいいものだったわ」
ジルが早々に白旗を上げた。それはそれでちょっと傷つくぞ。そんなジルを見たリリアがジルの前に飛んで行った。
「そうよ~、ジル。敬いなさい?」
「リリア先輩、すいませんでした!」
「ん、素直でよろしい」
敬礼するジルにそう言うと、フラフラと俺の方へと飛んできた。そのまま俺の胸に飛び込むと、そのまま寝息を立てた。
「あー、今日はこれで解散にしよう。フェル、宿はあるのか?」
「大丈夫、確保している宿があるよ」
「それなら大丈夫だな。明日は昼過ぎにでも冒険者ギルドに集合しよう」
「了解。お休み、みんな」
「お休み~」
翌朝、寝ぼけていたリリアを起こして朝風呂に入った。お酒を飲んでからのリリアの記憶はあやふやだったが、コップ一杯のお酒ならリリアが脱ぎ出さないことが分かった。それだけでも大きな収穫だ。
「いつの間にか寝ちゃってたのね。お肉がおいしかったことは覚えているんだけど」
「それだけで十分だよ。お昼過ぎに冒険者ギルドに集まることになってる。今後のことについて話すんだと思う。拠点をどうするかの話があるんじゃないかな?」
「そうね。宿が別々だと不便だったりするもんね。あたしはここの宿が気に入っているんだけどな~」
「俺も気に入っているから、この宿を押すつもりだよ」
この数日間はお風呂に入ることができなかった。そのため俺たちは久々の長風呂を楽しんだのだった。
朝食と昼食を兼ねた食事を取り、ぶらぶらとその辺りを散策してから冒険者ギルドに向かった。少し早く来てしまったかなと思ったが、そんなことはなく、アーダンたちはすでに来ていた。
「来たか、フェル。ちょっとこれを見てくれ」
「これは……エルフの森の調査依頼?」
「そうなんだ。俺たちがここに来たときにはすでに張り出されていたんだ」
内容をよく見ると、エルフの森で異変が起きたみたいなので、調査をして欲しいとのことだった。依頼のランクはシルバーランク以上になっている。
「シルバーランクからの依頼になっているね。そこまで危険じゃないと判断したのかな?」
「それもあるだろうし、きっと人手が欲しかったんじゃないかと俺は思っている」
アーダンが言うのならそうなのだろう。この中では一番しっかりとしているし、俺たちよりも経験が豊富みたいだ。
「それで、どう思う?」
「引き受けても良いんじゃない? そのつもりなんでしょ?」
アーダンがポリポリと頭をかいた。聞くまでもなかろうよ。あの森の木が枯れた状態を見て動かない冒険者はいないだろう。それほどまでに衝撃的だった。世界の終わりが来てるのかと思うくらいだ。
「ほら、私が言った通りじゃない。大丈夫だって」
「そう来なくっちゃ! 熱い戦いの予感がするぜ」
「それじゃ、決まりだな」
そう言うとアーダンは受付カウンターへと向かった。みんなで受付カウンターに行っても邪魔になるだけだろう。そんなわけで俺たちは大人しく丸いテーブルを囲みながら待つことにした。
「突然森がなくなるだなんて、地脈に何かあったのかしら? でも土の中に魔力は残っていたけど……」
「地脈関係だったら何とかなるの?」
「行ってみないと何とも言えないわね。でも、それなら納得かなぁって思ったのよ」
「おいおい、何の話だよ」
戻って来たアーダンを加えて改めて今回の調査についてのことを話した。
最初の目的地はエルフの森にあるエルフの国だ。まずはそこで情報を受け取る。すでにエルフの国には冒険者ギルドを通して連絡が行っているらしい。
その情報を元にして、その後の行動を決めることになる。ちょっと行き当たりばったりな気がするが、それだけ悠長に考えている時間がないのかも知れない。
「出発は明日にしよう」
みんながアーダンの言葉にうなずいた。
「了解。宿はどうする?」
「もちろん、あたしたちが泊まっている宿に来るわよね? 何せ個室のお風呂が付いているのよ。そんな宿、他にはないわよ」
リリアが猛烈アピールを始めた。個室のお風呂という単語にエリーザが食いついた。どうやらエリーザもお風呂に入りたい人種のようである。これはこちら側に引き込めそうだぞ。
「良いわね、それ。アーダン、リリアちゃんたちが泊まっている宿にしましょう」
「そうだな。そうするか。俺はそこまでお風呂にこだわりはないんだがな」
「同じく。洗い流せればそれでいいよな」
どうやらアーダンとジルはお風呂の魅力をよく知らないようである。この宿でその虜になるといい。ククク……。
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