第43話 不吉な知らせ
昼食の時間になるまではぶらぶらと歩いて過ごした。この辺りは商業地区になっているようであり、買い物客と思われる人たちが多く歩いていた。
さすがにこの時間帯に武器を持った冒険者の姿はなかった。俺たちもただの買い物客だと思われていることだろう。
王都の治安は良好なようである。コリブリの街も治安は悪くはなかったが、ここはさらに良いみたいだ。ケンカをしている人さえ、見かけたことがなかった。
「平和ね~」
「そうだね、平和だね。今はこの大陸で戦争をしている国はないし、魔物の動きが活発になっているとも聞かないからね。このままじゃ、冒険者の仕事が無くなっちゃうかもね」
「それは困るわね。刺激が無くなって、すぐに退屈しちゃいそうだわ」
行き交う人たちは笑顔の人が多い。この笑顔を守るのも、冒険者の立派な仕事なのかも知れないな。
そんなことを話しているうちに、先ほどのカフェがランチタイムになったようである。少し早かったが、お店に向かった。そこではすでに満席に近い状態になっていた。
「もうこんなに人がいるんだ」
「人気のカフェみたいね。それならおいしいに決まっているわ。楽しみね」
一人用のカウンター席があいていたのでそこに座る。最近はリリアと一緒でも、一人分の席でお願いするようになった。二人分の席をお願いすると毎回店員さんを困惑させることになっていたからね。
「おすすめパスタと、デザートのプリンを下さい」
「かしこまりました。デザートは後でお持ちしますね」
店員さんが営業スマイルで注文を取る。少しすると、トマトソースがかかった、おいしそうなパスタが運ばれてきた。
それをリリアのお皿にお裾分けする。今のリリアはパスタを切ることができるのだ。
「それじゃ、食べようか。うん。これはトマトソースの味が濃くておいしい」
「さすがにこれよりも細いパスタはないみたいね。妖精サイズのパスタがあれば良かったんだけど……本当だわ。フェルが言う通り、ソースがおいしい」
パスタをさらに四分の一程度にカットして食べるリリア。サイズ感は全く違うけど、それでもおいしそうに食べていた。今度はリリアサイズの食事を提供してくれるシェフを探さないといけないな。こっちも難易度が高そうだぞ。
「お待たせしました。デザートのプリンです」
「ありがとうございます」
黄色い物体に茶色の液体が乗った食べ物が出てきた。これがプリン。どんな味がするのだろう。プリンをリリアの小さなお皿に取り分ける。もちろん、上の茶色い液体も一緒だ。
「変わった食べ物だけど、これ、何かプルンプルンしているな。スライムみたいだね」
「確かにそうだけど、スライムに例えるのはどうかと思うわよ。今から食べるのに」
リリアがムッとした顔をしている。そうだった、リリアはスライムが苦手だったんだっけ。あのヌメヌメとした感触が嫌いらしい。昔、襲われたことでもあるのかな? いやらしい。
恐る恐る、黄色の物体にスプーンを突き刺した。想像していた「跳ね返るような弾力」ではなく「ポテトサラダにスプーンを差し込むような感覚」だった。そのまま上に乗っている茶色の液体と共に口の中に入れる。
すぐに香ばしくて、甘い味が口の中いっぱいに広がった。甘くておいしい。黄色の部分は甘さが控えめになっているようで、滑らかに舌の上でとろけると、口の中で混じり合っていた。
「これはおいしい! リリアも食べてみてよ。驚くよ」
「どれどれ……お、おいしい! 何これ!? すごいものを作り出したわね。やるじゃない」
もしかしてと思って周囲を見渡すと、どのテーブルにもプリンがあった。なるほど、みんなこれを食べに来ていたのか。納得だ。癖になりそう。
一つのプリンを二人で分け合いながら食べたが、半分くらいはリリアが食べていたと思う。あの小さい体のどこに収まっているのか。体積、おかしくない?
プリンが気に入った俺たちは、その後も惜しげもなくカフェに通った。常連になった俺たちは、お持ち帰り用のプリンを特別に用意してもらえる関係になっていた。
そんなある日。
「え? プリンが売り切れですか!? 一体どうして……。こんなこと、一度もなかったですよ」
「すいません。プリンに使う卵が購入できなくなってしまったのですよ」
「何かあったの?」
リリアがあごに人差し指を添えて、首を左に傾けていた。卵を産む鳥が動物に襲われちゃったのかな?
「それが、卵を仕入れていた酪農家と、急に連絡が取れなくなったと商業ギルドの窓口で言われたんですよ。心配ではあるんですが、お店がありますからね。様子を見に行けないんですよ」
カフェの店長も困り顔だった。これはプリン愛好家としては、何とかしなければならない問題だ。ここは一肌脱ぐべきだろう。
「良かったら俺たちが様子を見に行って来ますよ。これでもそれなりに腕の立つ冒険者なんですよ」
「そうだったのですね。まだ若いのに優秀なんですね。でも、依頼をするお金が……」
「そんなの要らないわよ。あたしたちの関係じゃない。ね、フェル?」
「そうですよ。俺たちに任せて下さい」
俺たちはその酪農家の情報を収集するべく、まずは商業ギルドへと向かった。お店の卵は商業ギルドを通じて購入しているという話だった。
「ここが商業ギルドか。初めて来たけど大きいね」
「そうね。冒険者ギルドと同じくらいの大きさがあるわね」
冒険者ギルドとは違い、レンガをいくつも積み重ねて作った建物だった。だがその大きさは、リリアが言ったように、砦のようだった冒険者ギルドと同じくらいの大きさがあった。
それだけ王都には色んなところから商品が集まるということなのだろう。それに港街ボーモンドから入ってきた海外からの輸入品も、一度ここに集まっているという話を聞いたことがある。
国内だけでなく、国外の商品も管理しているなら、この大きさになってもおかしくはないな。
俺たちは卵の情報を集めるべく、商業ギルドの中へと入った。中は人でごった返していた。見た感じでは商人ばかりのようである。サンチョさんの服装と似た服を着ている人がたくさんいる。もしかして、サンチョさんもいるかも知れない。そんなわけないか。
「おや、フェルさんじゃないですか」
いたー! サンチョさんだ。大商人のサンチョさんがいるなら、楽に調査できるかも知れないぞ。
「お久しぶりです、サンチョさん。ちょっと調べたいことがありましてね」
「ほほう、そうですか。ですが今はちょっと問題が起こっているみたいなんですよね」
サンチョさんが苦笑いしていた。もしかすると、この混み合っている状態は、普段の商業ギルドとは違う光景なのかも知れない。
「問題?」
「はい。どうも、王都に畜産品を供給していた村の一つが、魔物によって壊滅的な被害を受けたそうなのですよ。そこがどうも有名な産地だったそうでしてね」
畜産品を供給……鳥……卵……。
「フェル、もしかして……」
「うん、もしかするかも知れないね。サンチョさん、その村はプリンを作るのに必要な卵を王都に供給していた場所ですか?」
「おや? フェルさんたちもプリンを食べたことがあるのですね。あれは良いものですよ。あの気品のある黄色いたたずまい……おっと、話がそれましたな。私は畜産品は門外漢なのでハッキリとは言えませんが、可能性は高いと思いますよ。何せ、その村と取り引きがあった人たちがこれだけ集まっているのですからね」
困ったような顔をするサンチョさん。どうやらサンチョさんは別の要件でここに来たようである。
「サンチョさん、その村の場所は分かりますか?」
「ええ、それは分かりますが……もしかして、行くのですか?」
「はい。直接その村に行ってみようと思います」
魔物に襲われた村か。ちょっと不吉な知らせだな。これまでそんな話は聞いたことがなかった。魔物の動きが活発になっているのかな?
取りあえず今はサンチョさんに教えてもらった場所に行ってみることにしよう。
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