第26話 探検、発見、エベランの街

 紹介してもらった宿は新米冒険者には高い宿だった。だがしかし、ゴールドランク冒険者であり、すでに新米冒険者とは呼ばれなくなった俺たちにとっては問題ない。

 エベランの街の商店街に近い場所に位置しており、石造りのしっかりとした建物で、防音性能も中々良かった。


 案内された部屋には寝室と客間の二部屋があった。ベッドは二つ。どちらもふかふかのベッドである。三階の窓から見る景色はそれなりの遠くを見渡すことができた。西の空に夕日が沈みかけている。


「さて、夕ご飯はどうしようかな。リリアには姿を消してもらわないといけないし、それだとリリアが食べにくいよね」

「あたしのことは気にしなくても良いわよ。別に食べなくても良いからね。どうしてもって言うなら、お酒だけ買って来てよ。あれ以来、お酒が気に入っちゃってさ~」


 どうしよう、却下したい。リリアが酒飲みになってきているような気がして何か嫌だ。それにリリアは酒癖が悪い。いくら部屋飲みになるとはいえ、俺の精神力がゴリゴリ削れる。全裸でにじり寄ってくるリリアをどう扱えば良いんだよ。


「よし、屋台で食事を買ってきて、ここで食べよう。それなら二人で一緒に食べられるからね。ただし、お酒はダメだ」

「え~」


 不服そうにするリリアだったが、俺は自分の意見を曲げなかった。妖精って酒好きな種族なのかな? ドワーフだけだと思っていたけど、考えを改める必要があるのかも知れない。


 宿屋の店主に挨拶をして、夕暮れのエベランの街へと繰り出した。前回来たときは毎晩サンチョさんの家で食べていた。そのため、今回が初めての夜の屋台である。一体どんな料理があるのか楽しみだ。


「何あれ、気持ちわるっ! ヘビ?」

「えっと、ウナギって書いてあるね。おいしいのかな?」


 良い匂いはしてくるし、それなりに人も並んでいる。ちょっと気になったので、串焼きを一本だけ買った。他には麺を使った「焼き麺」と言うのがあったのでそれを購入した。

 丸い穴がたくさんあいた鉄板の上で焼かれている食べ物も、とても食欲をそそる匂いをしていたので購入する。


 飲み物は果物ジュースにした。エベランオリジナルミックスジュースがあったのでそれにする。他にも「サッパリレモン水」なんで言うのもあったので、それも購入した。

 満足な買い物ができたところで宿に戻る。

 部屋のテーブルの上に戦利品を並べると、さっそく乾杯をして食べ始めた。


「はむっ。このウナギ、中々おいしいわよ。これならもっと買っても良かったわね」

「ヘビとは違うみたいだね。淡泊だけど、ふっくらとしているし、塗ってあるタレが香ばしくてよく合ってる」


 焼き麺も丸い食べ物もおいしかった。どちらも使ってあるタレがよく合っている。このタレを使えば、俺でもおいしい料理が作れるのではないだろうか。


「このタレ、どこかで売ってるのかな?」

「うーん、自家製ダレって書いてあったような気がするわ」

「そっか、残念。でもここは商業都市だし、探せば似たようなタレが売っているかも知れない」

「そうね。明日街を見て回るときに探してみましょう」


 満腹になった俺たちはお風呂場に向かった。何とこの宿にはお風呂があるのだ。しかも別料金を支払えば、個室の風呂を貸してもらえるのだ。俺は迷わず個室の風呂を借りた。

 そこには大人二人が余裕で入れるくらいの風呂があった。


「良いねぇ。やっぱりお風呂が欲しいねぇ」

「フェルはお風呂が好きよね。一度お風呂に入ることを覚えてしまったら、その虜になっちゃうのかもね。あたしもお風呂は大好きよ」


 そう言って一瞬で全裸になるリリア。せめて前くらいは隠して欲しい。俺はなるべく直視しないように細心の注意を払いながら体を洗った。リリアが体を洗って欲しいと言ってきたので、洗ってあげる。

 指先だけの感覚でリリアを洗うのは中々難しかった。


「ねえ、リリア」

「ん? 何?」

「いや、やっぱり何でもない」

「変なの~」


 俺の気のせいじゃなければ、リリアの胸が成長しているような気がする。ついこの間までは何もなかったはずなのに、今は小さな丘の感触がある。目で確認できれば良かったんだけど、ちょっと無理そうだ。


 妖精って、成長するんだ。十年間、何も変化がなかったからてっきり変わらないものだと勘違いしていた。そのうちリリアもナイスバディになるのだろうか? そうなると、ますます目のやり場に困ることになるぞ。


 そんなことを考えながらも、無事にお風呂の時間は終了した。俺は終始、前かがみのままだった。お風呂に入っているときの俺はいつもこの格好をしているので、リリアには不審に思われていないようだ。

 リリアの裸に反応していることが本人にバレたら軽蔑されるかな? それはちょっと嫌だな。


 夜はお待ちかねのふかふかベッドで寝た。ベッドが一つ空いているにもかかわらず、リリアは俺のベッドで寝た。正確には俺の上でだが。

 どうやらリリアにとっては、ふかふかベッドだろうと、カチカチベッドだろうと関係ないようである。本当にそれでいいのか気になるところだ。ふかふかのベッド、気持ち良いのに。


 翌日はエベランの街を一周した。前回来たときには気づかなかった施設がいくつかあった。それがカジノと奴隷商だ。どちらもコリブリの街にはなかったのでちょっと驚きだった。


 フォーチュン王国にも奴隷制度があるだなんて思わなかったな。「何でもできる自由の国」というイメージが強かったので、ちょっと驚きだった。だが奴隷制度があるということは、それなりに需要があると言うことなのだろう。利用する気はないけど。


 カジノに行ってみたいとリリアがお願いしてきたが却下した。だって、姿を消したイタズラ妖精が、何を仕出かすか分からないもの。

 リリアなら、俺に相手のカードを教えたり、ルーレットの玉を操作したりするくらいなら簡単にやってのけるだろう。絶対に入っちゃいけない場所だな。


「カジノで遊びたかったな~。せっかくお金があるのに、何で使わないのよ」

「これからたくさん使うつもりだから。リリアも欲しいものがあったら言ってよね。あ、カジノに行くのと、奴隷を買うのと、あとはお酒を買うのはダメだからね」

「何でよ、ケチ! お酒くらい買っても良いじゃない!」


 今回はお金があるので魔道具を購入することにした。まずは魔道具のランタンを購入した。油に火をつけるタイプでも問題ないのだが、魔道具の方が明るいのだ。それにこれなら、スモール・ライトの魔法で代用していたとしてもバレにくいだろう。


 小型コンロの魔道具も買った。料理を作るのにも慣れてきた。そろそろレベルアップをしたいと思っていたのだ。魔道具を使えば火加減のコントロールが簡単だ。料理もきっとおいしくなるぞ。


「フェル、これが良いわ。きっと便利よ」


 リリアが見つけたのは現在の時刻を教えてくれる魔道具だ。首からさげて使うらしい。時間が分かれば休憩も取りやすいし、料理を煮込む時間も分かる。良いかも知れない。


「よし、それじゃそれも買おうかな。リリアが使えそうな魔道具はあんまりなさそうだね」

「仕方ないわよ。妖精向けの魔道具を作る人なんていないわよ。たぶん」


 リリアにも何か買ってあげたかったが難しいものがあった。何せ、サイズが全然違うからね。こればかりはどうしようもないね。

 お酒、解禁しちゃう?


「リリア、お酒を買って帰ろうか」

「本当!? やったー!」


 うーん、こんなに喜ぶとは思わなかった。そんなに良い気持ちになれたのかな? これだけ喜ぶなら、禁止するのはやめた方が良いのかも知れない。ほろ酔いの段階で止めれば大丈夫なはずだ。

 結果、ダメでした。リリアはとても気持ち良さそうにしていたんだけどね。

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