第25話 王都への護衛依頼
翌日の夕方にはコリブリの街に戻ってくることができた。魔石集めに思った以上に時間がかかってしまった。アナライズの魔法がなければ、もっと時間がかかっていたことだろう。
「依頼が完了しました。確認をお願いします」
「お帰りなさい。えっと……ハーピー討伐でしたね。魔石の提示をお願いしますって、こんなに!?」
受付嬢の猫耳エリザさんが驚きの声をあげた。俺がカウンターの上にのせた、魔石の入った袋に驚いたようである。一袋では収まらなかったので、二袋になっていたのだ。
「失礼しました。魔法袋を持っていたのですね。それにしてもこんなに……すぐに確認しますので、ちょっと待っていて下さいね」
ザワザワと騒ぎ出した受付カウンター。何かあったのかとこちらを気にする冒険者たち。俺たちは極力気にしないフリをしてテーブル席に座った。
「明日の人が少ない時間帯に依頼報告すれば良かったわね」
「リリアの言う通りだね。金額がどのくらいになるのかが気になって、ちょっと焦ってしまったよ」
「初めてのゴールドランクの依頼だもんね。しょうがないわよ。次からは気をつけましょ」
魔法袋の中に入れてあった冷たいジュースを取り出し、二人で飲んだ。リリアと今日の夕食を何にするかを話していると、依頼の確認が終わったようである。エリザさんがお金の入った袋を持ってきた。……ちょっと大きくないですかね? 何か視線が集まっているのを感じる。
「こちらが今回の報酬金になります。ハーピーの上位種であるビッグハーピーの魔石も確認できました。さすがゴールドランクの冒険者ですね。ハーピーの魔石の数は全部で百八個でしたので、その分の売却金も加算されています」
百八匹もいたのか。どうりで魔石を集めるのが大変だったわけだ。ハーピーの魔石はそれなりの大きさがあったし、売値も高いようである。これは割の良い依頼だったな。
周囲では「百八!?」とか「化け物か」とか「ゴールドランク!?」とか言う声が聞こえている。
たぶんエリザさんのことだから、俺たちが余計な争いに巻き込まれないように、わざと強調して言ったのだろう。ハーピーを百匹以上倒して、さらにはゴールドランクの冒険者。ケンカを売ってくる冒険者はここにはいないだろう。
俺はお金を魔法袋にしまうと、エリザさんにお礼を言って冒険者ギルドを後にした。報酬は小金貨四十三枚と銀貨八枚だった。商業都市エベランで寒くなった懐が、一気に暖かくなったぞ。これならちょっとお高い魔道具でも買うことができそうだ。
「ずいぶんと稼いだわね。それじゃ、今日はパーッと行きましょ!」
「それじゃ、銀の居待ち月亭の近くにある居酒屋に行ってみようか。お酒を飲むのも良いかも知れないね」
「賛成! お酒を飲んだことがないから楽しみだわ」
え、リリアはお酒を飲んだことがないの? ちょっとお酒を飲ませるのが怖いんだけど大丈夫かな?
不安を感じながら居酒屋に向かった。
結論から言うと、ダメだった。どうやらリリアはお酒に酔うと服を脱ぎたがるようである。人前で服を消し始めたので慌てて両手で包んで隠した。料理はまだ残っていたけど、そのまま退散するしかなかった。
ぐでんぐでんになったリリアは全裸のまま俺にからみ出した。もう俺はどうすれば良いのか分からずに、そのままの状態で強引に寝かしつけた。
リリアにお酒を飲ませてはならない。俺は心に深く刻み込んだ。
翌朝、リリアは昨日のことを何も覚えていないようであり、いつも通り元気に起床していた。どうやら昨日の疲れが取れていないのは俺だけのようである。
ゴールドランクになってからも、順調に仕事をこなしていった。フランさんが言っていたように、ゴールドランクの依頼はそれほどなかったが、シルバーランクの依頼ならそこそこある。
一度の仕事でそれなりのお金を稼ぐことができるようになったので、それだけ休みを多く取るようになった。リリアと魔法の練習をしたり、料理の練習をしたりしながら充実した日々を過ごしていた。
そんなある日、俺に指名依頼があった。
「フェル、お前に指名依頼が来たぞ。依頼者は商業都市エベランのサンチョ・ガリンドだ。覚えているよな?」
「もちろんですよ。初めて護衛依頼をした人物ですからね。どんな依頼ですか?」
「今度は王都までの護衛依頼をお願いしたいそうだ」
「王都! 良いじゃない、フェル。引き受けましょうよ。王都に行ってみようかって話してたところじゃない」
リリアがフンフンと鼻息を荒くしている。コリブリの街の食べ物はあらかた食べ尽くしていた。新しい食を求めて、別の街に拠点を移しても良いかなと思っていたのだ。
そこで候補に挙がったのが王都。お金もあるし、王都でうまいもの巡りも良いんじゃないかと言う話になっていたのだ。
「分かったよ、リリア。ギルマス、その依頼を引き受けることにします」
「おお、そうか。そうしてもらえるとありがたい。指名依頼は冒険者ギルドの評価も高いからな。引き受けないヤツはいないぜ」
すぐにフランさんが手続きをしてくれた。集合場所は商業都市エベランのサンチョ邸。時間にはまだ余裕があるので、十分準備をすることができそうだ。依頼書を受け取るとすぐに準備を始めた。
銀の居待ち月亭の女将にも、今回ばかりは戻ってくるまでには何日もかかるため、宿を出ることを話した。
「そうかい。寂しくなるねぇ。フェルさんとリリアちゃんは、静かだし、部屋をキレイに使ってくれるから、長くいて欲しいお客さんだったんだけどね。こればかりは仕方がないね。今までありがとうよ」
「こちらこそ、長い間、お世話になりました」
俺たちの部屋が静かだったのは、サイレント・ルームの魔法を使っていたからである。そのため、実は部屋の中ではそれなりに騒がしくしていたりするのだ。バレてないみたいなので、魔法はしっかりと効果を発揮していたようである。
宿を後にすると、早速、商業都市エベランを目指すことにした。前回行ったときはゆっくりと街を見て回れなかった。そのため今回は早めに行って、エベランの街を堪能しようと思っていたのだ。
そう言えば、王都までは船で行くことになるんだったな。ちょっと気になるぞ。
「リリアは船に乗ったことがあるの?」
「ないわ。そんなものに乗るくらいなら、飛んだ方が早いからね」
「それもそうか。それじゃ、俺たちはどちらも初めて船に乗ることになるんだね」
「そうなるわね。そう思うと、ちょっと楽しみになって来たわ」
エベラン行きの乗合馬車の中でまだ見ぬ船に思いをはせた。本では読んだことはあるけど、いまいち想像できなかったんだよね。船が揺れて、船酔いするっていう話があったけど、そうなったらどうしよう。せめて楽しい旅にしたいな。
数日後、問題なく商業都市エベランに到着した。到着したら最初にやること。それは宿探しだ。サンチョ邸に泊まることもできるのだが、それでは旅をしているような気分になれないし、ものすごく気を遣ってしまう。お金も十分にあることだし、エベランの宿に泊まろうと思う。
商業都市と言うだけあって、お金もうけには目がない街だと思う。すぐに「案内所」と言う看板を見つけた。どうやらお金を支払うことで、街の案内をしてくれるようだ。
ここで良い宿を紹介してもらおう。やはり寝るときくらいは良い場所で眠りたい。
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