第18話 サンチョ商会

 冒険者ギルドの建物は思ったよりも小さかった。コリブリの街の冒険者ギルドは宿が併設されており、かなりの広さを持っていたが、商業都市エベランでは違うようである。

 ギルドの中に入ると、数人の冒険者らしき人が併設された酒場で楽しそうにお酒を飲んでいた。


 ギルド内には、他にも魔法薬や消耗品を売っている場所もあるようだ。なるほど、さすがは商業都市というだけあって、冒険者ギルドと言えどもお金もうけには余念がないようである。


 依頼が貼ってあるボードを見ると、どうやら護衛依頼ばかりのようである。それだけ大きな街を行き来する商人が多いと言うことなのかな? この時間帯に残っているということは、訳ありの護衛依頼ばかりなのだろう。とても受けようという気にはならないな。

 

 キョロキョロしている俺たちを置いて、レイザーさんが受付カウンターへと向かった。ここの冒険者ギルドの受付嬢もキレイな人がそろっていた。


 レイザーさんが依頼の報告をしている間に俺たちはあいている席に座った。何か飲み物を注文すべきかと思っていると、レイザーさんが受付嬢を連れて俺たちが座っているテーブル席へとやって来た。どうやら本人確認に来たようである。

 それぞれ名前を言うと、手元のボードに何やら書き込んでいた。


「本当に妖精がいるんですね。驚きました。エベランでは見かけないので、少し目立つかも知れませんね」

「そうですか。貴重な情報をありがとうございます」


 盗賊団を壊滅させた報酬については、確認に少し時間がかかるそうである。つまり、その報酬をもらうまではエベランにとどまる必要があるということだ。俺たちの確認が終わると受付嬢は依頼金を取りに戻った。

 顔がニヤけているライナーに、からかい半分で尋ねた。


「思ったよりもお金になりそうだね」

「そうみたいだな。これで生活に余裕ができたかな? それで、フェル、妖精は目立つらしいけど、どうするんだ?」


 ライナーが素朴な疑問を投げかけてきた。それについては問題はない。


「心配ないよ。リリアは姿を消すことができるからね。エベランにいる間は、申し訳ないけど、姿を消してもらっておくことにするよ」

「しょうがないわね。でも、それが一番良さそうだわ。どうせエベランには数日間しかいるつもりはないからね。わざわざあたしの存在を広める必要はないわ」


 リリアの言う通り、今のところエベランを拠点にするつもりはなかった。エベランの冒険者ギルドの依頼は護衛依頼ばかりのようである。お金は稼げるのかも知れないけど、依頼主に気を遣わなければならないし、お断りである。


 それに、その依頼の間は自由も拘束されるということだからね。おまけに同じような依頼ばかりで、すぐに飽きそうだ。

 俺たちが話しているうちに受付嬢が報酬金を持って来た。すでに三等分されているようであり、三つの袋がテーブルの上に置かれた。袋の中には小金貨十枚が入っていた。


「よし、これで俺たちの依頼は終わりだ。あとは忘れずに盗賊団を倒した報酬を受け取るんだぞ。それじゃ解散」


 レイザーさんが元気よく声を上げると、マルチダさんを連れて出て行った。レイザーさんは何度かエベランには来たことがあるようだ。たぶんその足でお酒を飲みに行くのだろう。マルチダさんが止めなかったところを見ると、今日くらいは大目に見ることにしたようである。


「それじゃ、俺たちも行くよ。宿を探さないといけないからな。さて、エベランの宿代はいくらくらいするんだろうな。ちょっと想像できないな」

「きっとお手頃な値段の宿もあるはずだよ。でもそんな宿はすでにだれかに取られそうだけどね」

「違いないな。地道に探すとしよう」


 こうして俺たちはライナーたちと別れた。残ったのは俺とリリアだけだった。リリアはライナーたちがいなくなるとすぐに姿を消したので、周囲から見ると俺だけに見えるだろう。


「それじゃリリア、俺たちもサンチョさんの商会に行こうか」

「そうね。地図を見た感じだと、ここから西の方角ね。大通り沿いにあるみたいだから、きっとすぐに見つかるわよ」

「貴族が住んでいる地区とかもあるのかな?」

「ここはコリブリの街よりも大きいし、近くに強い魔物が出る場所もなくて比較的に安全だから可能性はあるわね」

「それなら気をつけて動かないといけないね」


 そんなことを話ながら外に出た。歩いて向かっても良かったのだが、どうやら街の中を巡回するつじ馬車があるようだ。せっかくなので乗ってみることにした。

 エベランの石畳の道を馬車が進んで行く。道はしっかりと整備されており、窓から見える景色には色んな種族が行き来している様子が見えた。

 さすがは多種族国家のフォーチュン。見ているだけでも楽しいな。


 馬車は西に向かって走っている。どうやら街の中心部に位置する大教会を中心に、円を描くように走り続けるようだ。ある程度西に進んだところで降りると、地図を見ながらサンチョ商会を目指した。

 サンチョさんは大商人だったので、きっと商会も大きいことだろう。そう苦労せずに見つかると思う。


「見てよ、フェル。あれがそうじゃない?」

「そうみたいだね。あの建物が全部そうなのかな? 五階建て以上はありそうだよ」


 大通り沿いに、レンガ造りの立派な建物が見えて来た。こんな黄金立地にこれだけ大きな建物が建てられるなんて驚きだ。ずいぶんとサンチョさんはお金を稼いでいるみたいだな。

 もしかすると、サンチョさんのお店は貴族も利用しているのかも知れない。気をつけた方が良いな。


 どうしてサンチョさんは、わざわざ危険を冒してまで、コリブリの街に魔石を仕入れに来ていたのだろうか? 別の人に買い付けに行かせた方が安全だと思うんだけどね。

 サンチョ商会に向かいながら、通り沿いに立ち並ぶお店を外からのぞいて見た。


 手頃な値段の商品を取りそろえてある店が多かった。その一方で、王都からの商品が入って来やすいのか、見たこともない商品もたくさん置いてあった。もちろんそれらの値段は高い。いくら懐が暖かくなっているとはいえ、目についたものをすべて買うとすぐに破産してしまうだろう。


 サンチョさんのお店は冒険者にはちょっと入りにくいお店だった。魔石を買い付けていたので大体想像はしていたのだが、どうやら魔道具をメインに、色んな高級品を取り扱っているお店のようだ。


 ショーウインドーには見たこともない魔道具が飾ってあった。新商品と書かれてある。何でも冷たい風が出る魔道具らしい。きっとすごい魔道具なんだろう。魔法で同じことができるので、俺たちにはそのすごさは分からなかった。


「ねえ、これ、すごいアイテムなの?」

「そうみたいだね。俺たちには必要なさそうだけど」

「だよね~。部屋の温度くらいなら、暑くも、寒くも、自由に変えることができるからね~」


 リリアが耳元で小さな声で話しかける。ちょっとくすぐったい。リリアの姿は消えているが、さすがに声までは消えていない。そのため必然的に耳元で話すことになるのだ。


「フェルさん! お待ちしておりましたよ!」


 大通りに大きな声が響いた。驚いて声がした方向を見ると、サンチョさんがこちらに向かって両手を大きく振りながら走って来ていた。その後ろからは焦ったように護衛の人がついて来ている。

 道行く人たちがこちらを見てる。すごく目立っているな、俺。

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