第17話 商業都市エベラン

 俺とリリアはまっすぐに襲撃されている隊商へと向かった。ルシアナの魔法のおかげで盗賊たちの足が止まっている。今なら余裕を持って対処ができる。


「加勢に来ました。敵ではありません!」


 念のためそう叫んでおいた。俺の後方ではマルチダさんが放ったファイアー・ボールが盗賊たちの真ん中あたりで炸裂していた。近くの草も一緒に燃えているのだが良いのだろうか?


 そんなことを気にしながらケガ人の治療を行った。ちょっとひどいケガをしている人もいたが死人はまだいないようだ。俺がケガを治したことに驚きながらも、お礼を言って再び盗賊たちに向かって行った。

 もちろん、そのあたりに倒れている盗賊たちは回復しない。そのまま放置だ。


「フェル、ケガ人もいなくなったし、あたしたちも援護しましょうよ」

「そうだな。後ろから弓を引いているヤツを片付けよう。ウォーター・アロー!」

「ウォーター・ボール!」


 強烈な勢いの水が体を貫き、巨大な水の塊が体を押しつぶす。同時に水の塊がはじけ周囲に大雨を降らせた。どうやら消火も兼ねるつもりのようだ。


「そっちの方が良さそうだね。ウォーター・ボール!」

「あら、あなたたち、良い魔法を持ってるじゃない。火を消す手間が省けるわ」


 そう言いながら、マルチダさんは次々と火属性魔法を放っていた。それをくらった相手は消し炭になっていた。なるほど、盗賊たちの後片付けが面倒だから火属性を使っていたのか。確かにそうかも知れないな。


 ライナーたちも数人の盗賊を倒している。形勢は完全に逆転していた。さらにそこにレイザーさんが加わった。


「おいおい、もう終わりがけじゃねぇか。俺の出番も残しておいてくれよ!」


 そう言いながら次々と、何の迷いもなく盗賊たちを斬り倒していき、ついには逃げようとしていた盗賊団の頭を倒した。

 あたりには焦げた匂いが充満していた。俺たちもマルチダさんを見習って、ファイアー・ボールで後処理を行った。


 汚れた地面も土魔法を使ってキレイにしておいた。これであとから来る人たちがこの道を通っても、不快に思うことはないだろう。一部の草むらがなくなっているので、何かあったことには気がつくだろうけどね。


「良くやったぞ、ライナー、ルシアナ、ベールス。これでお前たちも一人前の冒険者だな。俺たちの仕事は魔物相手のものばかりじゃない。上を目指すなら、嫌な依頼も引き受けなきゃならないこともあるのさ」


 早くもレイザーさんが締めに入った。まだ早すぎるんじゃないかな? エベランまではもう少しかかりそうだぞ。だが、そう言われた三人組はやり遂げたような、満足そうな表情をしていた。


 そうこうしているうちに、後ろから来ていたサンチョさんたちが追いついて来た。すでに片付いていることに安堵の表情を浮かべていた。


「さすがはコリブリの街の冒険者ですね。後片付けまで終わっているとは思いませんでしたよ」

「このくらい当然のことですよ。それよりも、襲われていた隊商の無事を確認しないといけませんね」


 レイザーさんの指示で、改めてケガ人と被害の状態を確認した。馬車につながれている馬が無事なところを見ると、盗賊団はどうやらそのまま利用するつもりだったみたいである。


 ケガ人もおらず、荷馬車も大きく壊れているところはなかった。助けた隊商のオーナーからはお礼を言われ、エベランの冒険者ギルドを通して報酬を受け取って欲しいとのことだった。そのついでに今回の件についても報告を入れておいてくれるそうである。

 冒険者ギルドでの面倒な報告を省くことができたので運が良かった。


 この先にもまだ盗賊がいるかも知れない。そのため、助けた隊商は俺たちの後ろからついて来ることになった。

 この隊商には冒険者の護衛はいなかった。それが今回の危機につながったようだ。これからは冒険者に護衛依頼を出すと言っていた。

 お金で命は買えない。しかし、お金で命を救うことはできるかも知れない。


「いやー、ラッキーだったな」

「レイザーさん、盗賊団に襲われてラッキーはないと思いますよ」

「ライナーの言う通りだね。厄介事に巻き込まれて喜ぶのはレイザーさんぐらいですよ」

「あら、私も思ったよりも大金が入りそうなので、ラッキーって思ってるわよ」

「マルチダさんまで。二人は似たもの同士ですね」


 商業都市エベランまではあと少し。余裕が出てきた俺たちは歩きながら話した。もちろん、アナライズは使っている。


「気になったんですけど、レイザーさんとマルチダさんってどんな関係なんですか?」


 初めての盗賊討伐で気持ちが高揚しているのか、ルシアナがストレートに聞いた。これまでの旅で、だれも尋ねなかったことである。その場がシンと静まり、二人に注目が集まった。


「どんなって、見ての通り夫婦だよ」

「夫婦!?」

「年の差、どうなってるの!?」


 思わず叫ぶライナーと俺。予想外の答えである。てっきり娘か何かだと思っていたのに。それを聞いたリリアは特に驚いた様子はない。


「マルチダはハーフエルフだもんね。さすがに年齢までは分からないけど、見た目よりも年上のはずよ」

「さすがはリリアちゃん。気がついていたのね」

「もちろん。最初から気がついていたわよ」


 ウフフと笑い合う二人。きっと人族では分からない何かが二人の間にはあるのだろう。マルチダさんの耳がとがっていないのは、どうやらハーフエルフだったからのようである。

 その後、ルシアナとベールスはどうやって若さを保っているのかを、熱心にマルチダさんに尋ねていた。


 それから半日くらいが過ぎた。ついに目的地である商業都市エベランが見えてきた。

 急に視界が開けたかと思うと大きな石造りの壁が見えて来た。大人三人分くらいの高さがありそうだ。

 

「さあ、もう少しでエベランに到着するぞ。みんな頑張れ!」


 レイザーさんが発破をかけた。たぶん、一番エベランに着きたいと思っているのはレイザーさんなのだろう。マルチダさんが「そろそろ禁断症状かしら?」と嘆いていた。

 禁断症状? と思ったが、どうやらお酒のことのようだ。護衛依頼中は禁酒しているそうである。


 商業都市エベランに到着したことで俺たちの依頼は完了した。

 サンチョさんからの完了のサインをレイザーさんが受け取ると、報酬をもらうために冒険者ギルドへ向かうことになる。

 だがその前に、サンチョさんが俺のところへとやって来た。


「フェルさん、必ず私の商会に来て下さいよ。本当はこのままお連れしたかったのですが、冒険者ギルドへの報告は、全員がそろっていなければならないという決まりがありますからね」


 すがるような目でこちらにお願いをしてきた。そんなサンチョさんの様子を不審に思ったのか、レイザーさんたちやライナーたちがこちらの様子をうかがっていた。


「安心して下さい。必ず行きますよ」


 それでも心配だったのか、サンチョさんがエベランの地図をくれた。その地図にはサンチョ商会の場所に印が付けてあった。別れを惜しむようにサンチョさんたちの隊商が街の中へと消えて行く。


「ずいぶんと仲良くなったみたいだな」

「ええ、まあ……色々とありましてね」


 レイザーさんの言葉に思わず苦笑いで返す。確かにあのサンチョさんの様子を見れば何かあったと思うよね。

 不審に思われながらも冒険者ギルドへと向かった。

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