第4話 初めての報酬

 無事にコリブリの街まで戻ってきた俺たちは、そのまま冒険者ギルドの受付カウンターへと向かった。街に戻ってくる冒険者の人数も増えてきたようで、ギルド内は騒がしくなりつつあった。


「フランさん、フォレストウルフを狩って魔石を集めて来ました。査定をお願いします」

「お帰りなさい。三人とも無事みたいね。あら、後ろにいるのはフェルさんね。さっそく仲良くなったのかしら?」


 三人から少し離れたところにいた俺に、フランさんは気がついたようである。別のあいている受付カウンターに行っても良かったのだが、どのように依頼を報告するのかを見てみたかったのだ。


「森から出たところで会いました。新米冒険者みたいだったんで、色々と教えていたんですよ」


 ライナーがちょっと得意げにそう言った。


「それなら良かったわ。今のフェルさんに必要なのは冒険者としての経験だけだからね。これからも色々と教えてあげてちょうだい」

「それは良いんですけど、経験だけってどういうことですか?」

「あら、フェルさんから聞いていないのかしら? 彼、シルバーランクなのよ」

「シルバーランク!?」


 驚きの声が三つ上がった。そう言えばランクの話をしていなかったな。特に聞かれたかったから完全に忘れていた。ライナー、ルシアナ、ベールスの三人が目と口を大きく開けてこちらを見ていた。


「お、俺たちだって、ようやくカッパーランクに上がったばかりだって言うのに……どうなっているんだ?」

「それだけ実力があるってことなのかしら? 確かに妖精を連れているし、おかしいと言えば、おかしいわね」


 答えを求めるように、ライナーとルシアナがこちらを見ている。どうやらベールスは無口な性格をしているようである。表情はコロコロ変わるから、見ていて楽しい子だけどね。


「フェルは賢者だからね。そのくらい当然よ」

「け、賢者!?」


 俺が口を開く前にリリアが勝ち誇ったような顔をして言い放った。その言葉に、目の前の三人だけでなく、周囲の人たちが声を上げた。


「ギルドマスターは経験さえ積めば、プラチナランクだって言ってたわ。だからあなたたちには、フェルさんの教育係として期待してるわ」


 フランさんが固まった三人に声をかけた。その間もフランさんは魔石の確認を行っていたようである。テーブルの上にコインが並ぶ。


「これが今回の報酬よ。フォレストウルフの魔石が四つ。銀貨二枚と、小銀貨四枚ね」

「え? あ、ああ、確かに。確認しました。ありがとうございます」


 石化が解かれたライナーがコインを確認し、袋にしまった。どうやら彼らのパーティーリーダーはライナーのようである。しっかりしてるみたいだし、問題はなさそうだな。


「それじゃ、次はフェルさんの査定ですね」


 言われるがままに前に出て、素材とゴブリンの魔石を渡した。どちらも大した数ではない。


「えっと、ゴブリンの魔石が一個あたり小銀貨二枚。薬草が一枚あたり銅貨一枚。魔力草が一枚あたり小銀貨五枚、毒消草が一枚あたり小銀貨一枚になります」


 薬草はかなり安いみたいだな。これじゃ集めてくる人は少なそうだけど、森の奥に行けばたくさん生えていたりするのかな? 魔力草と毒消草は簡単に見つかりにくかった分、値段も高くなっている。


「全部合計で銀貨二枚と小銀貨三枚になるわ」


 そう言ってカウンターの上にお金を置いた。それを確認すると、懐の袋の中にしまった。一日の稼ぎとして多いのかどうかは分からないが、三人組のライナーたちが先ほどの報酬で生きていけるみたいなので、問題はなさそうだ。


「魔力草……おいしいわね。私たちも素材集めしながら魔物を狩るべきだと思うわ」

「そうは言うがな、ベールス。魔力草なんて、そうそう見つからないぞ? 魔物を探しながら集めるのはちょっと無理なんじゃないかな」

「ライナーの言う通りね。だからと言って薬草ばかり集めても、かさばるばかりでお金にならないわ。それなら一匹でも多く倒せる魔物を見つけて、魔石を回収した方が効率がいいわ」


 ルシアナの言うことはもっともだと思う。俺がこれだけの素材を集められるのはアナライズの魔法を使っているからである。この魔法がなかったら、短時間でこれほどの数の素材を集めることはできなかっただろう。


「それじゃ、俺たちはこれで失礼するよ」

「ああ、またなフェル。あ、フェルさんの方が良いか?」

「まさか。冗談はやめてくれ、ライナー」

「あはは、そうだよな。それじゃ俺たちはこれで失礼するよ」


 そう言ってライナーたちは冒険者ギルドの階段を上っていった。どうやら三人とも、俺と同じように冒険者ギルドの部屋を借りているみたいだ。

 それを見届けると、冒険者ギルドを後にした。


 夕暮れに染まりつつあるコリブリの街を歩く。さすが多種族国家と言うだけあって、フォーチュン王国には色んな種類の人種がいた。俺が元いた国とは大違いだ。あそこは人族至上主義なので、人族以外の種族は奴隷しかいなかった。二度と足を踏み入れたくない場所だ。


 不意に思い出した嫌な記憶を振り払うかのように頭を振って、通り沿いの店を見て回った。店先には錬金術で作られた魔法薬や、服、魔道具、紙やインクを売っている雑貨屋などが並んでいた。


 露天では野菜や果物が所狭しと並んでおり、屋台からはおいしそうな匂いが漂っていた。あれは鳥の串焼きかな? こっちはステーキが売っている。どうやらお酒も飲めるみたいだ。


 どれにしようか非常に悩む。リリアに聞くことができれば良かったのだが、あいにく妖精はご飯を食べないらしい。その代わり、俺の魔力でおなかを満たしているそうである。

 それを知ってからはリリアに食事の相談をしないようにしている。何だか俺だけ楽しんでいるみたいで後ろめたいからだ。


「リリア、あそこの串焼きにしようと思う」

「良いんじゃない? お酒は飲まないの?」

「飲まないよ。水で十分。魔法を使えばタダだしね」


 それに、俺だけ気持ちよくなるのは何だか申し訳ないからね。

 リリアにほほ笑みかけた。そのまま串焼き屋で鳥の串焼きを買うと、あいている席でささっと食べた。


「フェル、あたしに気を遣って、急いで食べなくてもいいのよ?」

「別に気を遣ってないよ」

「ほんとぉ?」


 リリアがジト目でこちらを見ている。何となく気まずくなったので目をそらした。


「本当だって」

「あのね、フェル。別にあたしたち妖精は物を食べられないわけじゃないのよ?」

「え、そうなの!?」


 思わぬリリアの発言にビックリして、リリアをマジマジと見つめてしまった。リリアの目が細くなる。腕を組むと、その小さな人差し指で腕をトントンとたたいた。


「やっぱり気にしてるじゃない。いいこと? 別に食べられるのよ。ただ、何の意味もないけどね。いわゆる嗜好品ってものかしら? なくても全然困らないわ」

「それじゃ、今度から一緒にご飯を食べようよ」


 力強くリリアに提案した。


「それは良いけど、お金が余計にかかるわよ?」

「大丈夫! これからジャンジャン稼ぐからさ」

「分かった。そうするわ」


 やれやれといった感じで両手を上げるリリア。

 やった! これでリリアと一緒に、気兼ねなくご飯を食べることができるぞ。どのくらい食べるのか分からないけど、二人分の食事くらいなら、今日の稼ぎでも食べることができるはずだ。

 俺はリリアが引くほどの上機嫌で冒険者ギルドへと帰った。

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