第3話 素材集めのプロ

 素材集めにそれほど時間をかけるつもりはなかった。夕食の時間までの暇つぶし。そんな感覚で俺たちは近くの森へと入って行った。

 森の入り口付近は木々の密度もそれほど濃くはないようで、地面まで明るい光が差し込んでいた。


 近くに魔物の気配はなく、野生の小動物の気配が木の上の方にいくつかあった。見上げると、木々の間からこちらを見つめる、シマシマの尻尾を持つ小さな動物がこちらを見ていた。


「リリア、狙われているかもよ?」

「何言ってるのよ。あの程度の小物、あたしの華麗な魔法でちょちょいのちょいよ」


 だがしかし、その魔法を使うための魔力の出所は俺である。つまり、突き詰めるとリリアの魔法ではなく、俺の魔法である。そのためリリアが派手な魔法を使うと、あとでリリアに魔力を補充するのが大変なことになるのだ。


「リリアの広い心で、せめて手加減してあげてよね。それじゃ、そろそろ素材集めといきますか」

「うーん、さすがにこの辺りは他の人たちに取られちゃったのか、あんまりないわね」


 すでに探索用の魔法を使っているのか、リリアが腕を組んで頭を振っている。


「そうなんだね。でも奥まで行くのはやめておこうかな。街にたどり着いた最初の日くらいは、まともなご飯が食べたいからね」

「オッケー、それじゃサクッと集めちゃいましょう」


 俺はアナライズの魔法を使った。周囲に魔法が行き渡ると、目的とした素材に、赤、青、黄色がついた。あとはそれらの色がついた素材を採取するだけである。実に簡単だ。だれでもできる。よく見ると、どうやら先人の取り残しが結構あるようだ。


「ふんふふ~ん、お、魔力草だ。確かこれは買い取り価格が高かったな。優先的に採取しておかないとね」

「この感じだと、森の奥に行けばもっとたくさん手に入りそうね。お小遣いを稼ぐのにはちょうど良いかも知れないわよ」

「お小遣いか。そのうちガツンとお金を稼ぎたいね」

「ウフフ、そのうちチャンスが来るわよ、きっとね」


 そんな話をしていると、魔物の反応があった。ゴブリンが三体、少し先を移動している。魔石集めにちょうど良さそうだ。


「リリア、ゴブリンがいる。ちょっと狩ってみようと思う」

「まあ、良いんじゃない? 練習相手にもならなそうだけどね」


 小声で話しかけるリリアを肩に乗せて、反応があった方へと近づいた。木の間からゴブリンの緑色をした肌の色が見えた。ゴブリンたちは俺たちの存在に気がついていないようである。前後左右を警戒することなく歩いている。


「リリア、同時にウインド・アローで攻撃するよ」

「フェル一人でも十分じゃない?」

「リリアも遠慮なく魔法を使ってみたいんじゃないの?」

「それもそうね。自分の実力を知っておくのは大事よね。分かったわ。合図をよろしく」


 ゴブリンたちに気がつかれないように、そっと森の木陰を移動する。ゴブリンたちは都合良く、少し開けた場所に出た。


「いくよ、リリア。ウインド・アロー!」

「合点! ウインド・アロー!」


 何十本もの風の矢がゴブリンたちを襲いかかった。風の矢が次々にゴブリンを光の粒に変え、地面と周囲の木々を穴だらけにした。

 だれかに言われるまでもなく、これはやっちまった状態である。


 俺は何事もなかったかのように、ガイア・コントロールの魔法で地面の穴を塞いだ。だがさすがに木々の穴はどうしようもなかった。


「本気で魔法を使ったらダメね。手加減する必要があるわ。どうする?」

「極限まで魔力を抑え込むしかないか。大変そうだけどね。それよりも、この木、どうする?」

「うーん、切り倒して、小さくして、穴に埋めて、証拠を隠滅しましょう」


 リリアの提案に従った。コリブリの街でどのくらいの期間過ごすことになるか分からないが、なるべく妙なウワサを立てないようにしたい。

 証拠隠滅を終えると、ゴブリンたちの魔石を回収した。親指の先ほどの大きさをした、七色に黒光りする不気味な石である。これが魔道具を動かす動力源になるのだから不思議だ。


「確か魔石は重さでお金に替わるんだったわよね?」

「そうだね。ゴブリンから取れた魔石は全部同じ大きさ、同じ形をしているね。何か意味があるのかな?」

「ああ、それはね、魔物の種類によって魔石の形が決まっているのよ。その形はゴブリンの魔石の形ね」

「知らなかった。それじゃ倒した魔物が何なのか、すぐにバレちゃうね」

「フェル、ウソはいけないわよ」


 魔法の試し撃ちもできたので街に戻ることにした。日が暮れるまでにはまだ時間があるので、余裕を持って夕食にありつけそうだ。

 意気揚々と引き上げていると、三人の人間の反応があった。俺たちと同じく、街に戻っているようだ。


「同業者がいるみたいだね」

「同業者~? 友達にでもなっておく?」

「リリアは嫌そうだね」

「嫌だけど、フェルに友達が必要なのは確かね。行きましょう」


 行くのをやめようかと思ったけど、リリアにそれを見抜かれて無理やり連れて行かれた。

 森から少し出たところで、男一人、女二人のパーティーに遭遇した。年齢は俺と同じ十五歳前後のようである。


「こんにちは」


 勇気を出して先頭を進む男の剣士に話しかけた。


「よう、見かけない顔だな? 新米冒険者か?」

「うん。ついさっき、冒険者になったばかりなんだ」


 後ろから女性たちが近づいて来る。見たところ、魔法使いと狩人のようである。すぐに俺の肩に乗っているリリアに気がついた。二人がリリアを指差した。


「ねえ、それってもしかして、妖精?」

「そうだよ。俺はフェル。こっちはリリア」

「よろしくね」

「わ、しゃべったわ! 本物だわ! 私はルシアナよ。こっちはベールス」


 魔法使いの格好をした子がルシアナで、狩人がベールスのようである。ベールスは背中に弓を背負っており、腰の辺りには大きめのナイフと矢筒がぶら下がっている。


「俺はライナーだ。もしかして、素材集めか?」

「素材集めと魔物退治かな? まあ、素材集めが中心だけどね」

「俺たちもよくやったなー、素材集め。駆け出しの頃にはピッタリだ」


 ライナーが笑った。どうやら悪いやつではなさそうだ。笑い方に嫌な感じがしなかった。


「ねえ、リリアちゃんを触ってみても良い?」

「嫌よ。だれかに触られるのは嫌い」


 ルシアナの問いかけにリリアが拒否すると、俺の後ろに隠れた。


「そっか~、残念」


 ルシアナはションボリとしている。リリアが嫌がることはしたくないので、助け船は出さなかった。

 それにしても、リリアが触られるのが嫌いだなんて知らなかったな。俺が触っても、何も言って来なかったのに。もしかして、今まで我慢してたのかな?


 いや、それよりも、今は俺の頭に張り付いているぞ。どうなっているんだ? 乙女心は良く分からないな。

 三人ともコリブリの街に戻るところだったらしく、一緒に街まで戻ることになった。


「フォレストウルフを狩っていたんだね。魔石の大きさはどのくらいなの?」

「大体、ゴブリンの魔石の、三倍くらいの大きさだな」


 そう言って、ライナーは魔石を見せてくれた。確かに三倍くらいの大きさに見える。


「フォレストウルフ一匹でゴブリン三匹分の価値があるのか。俺もそのうち森の奥に行ってみようかな」

「さすがに一人だと厳しいぞ? なるべく人数がいた方が良い。その方が不意を突かれにくくなるからな」


 ライナーがアドバイスをしてくれた。それをありがたく受け取っておく。一人では限界がある。いつか必ずパーティーを組む必要が出てくるだろうし、今のうちから色んなパーティーに加わって経験値を積んでおくのも良いかも知れない。

 ただし、リリアが嫌がらなければの話である。

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