第18話 六年生の運動会、後編
何処から逃げ出して来たんだろう、仔犬か一直線に葵ちゃんと猫達に向かって駆けて行く、其の姿が眼に入った葵ちゃんは固まっている、嫌、身が竦んで動けないんだ、全力で駆けだして居た堤防を駆け下った様に。
「キャン!、キャン!」
と鳴きながら近付いて行く仔犬、未だ動けないで居た。
「グルグル、にゃん!、ぐるぐる、ニャン!」
と何故か葵ちゃんが叫ぶ、胸が締め付けられる声、随分前に聴いた鳴き声で間違い無かった。
ただ僕が其処に付く前に、エスコートして居た猫が駆けだす。
最初は逃げ出したと思って居た、仔犬とは言え猫達より二倍ほど大きい柴犬なんだから…。
先ず駆けだしたのはクー助、仔犬の前に飛び出した!。
「バカそっちじゃない!」思わず叫ぶ。
飛び出された事で其方に意識が行き其の後を追いかける、クー助はジグザクに逃げて行く…。
だがその犬を更に追いかけて行くもう一匹ミックが其れを追って行く、意外に速い直後ろに追い付いていた、其の侭追走している。
「ニャゴ、ニャン?」ミックが何か鳴いて居る。
「ウニャ、ニャン!」今度はクー助。
「ニャニャ!、ニャーン!」
「ニャニャーン!
其の直後に向きを変え小さな池の方へ向かう、そして左回りに池の周りを回り始める。
「もっと早く走れ!」思わず口から出た言葉、さっきはもっと速かった筈、仔犬に合わせて速度を落として居る様に見える。
其の侭池の周りを回り続ける、何か変だ?、追ってる仔犬が少しづつ池の方に寄って居る。
眼の前で信じられない事が起きていた、其の仔犬の少し外側の少し後ろをもう一匹の猫、チャトラのミックが子犬と同じ速さで回ってる。
何故か時々ミック右の前足が変な動きをしてる、良く見て観ると何か地面を前足で払って居る様に見える、何だろう?。
その度に何か飛んで居る、其の度に左へ、そう仔犬は池の方に寄って行く…。
更にクー助が速度を落とし池の縁を走っていた、其の時ハッキリ見えた小さな小石を右からぶつけてる…。
「キャン!」と一際大きく鳴き声がして、仔犬は池の中にダイブ。
「キャン、キャン」と鳴きながら一目散に走って行く、信じられない光景を見て仕舞った。
小さな町の、小さな公園、其の中の小さな池の傍で、大きな捕り物劇が起きていた、まるでアニメ映画の中で起きてる様な捕り物劇、其れを目撃して仕舞った…。
よっぽど怖かったんだろう、まだ固まってる小さな子を抱き上げる、両の手でギュッと上着を掴んで離さない、何故か変な言葉を発して居た。
「ぐるぐるにゃん!」
「如何したの?、未だ怖い?」
そう声を掛けると小さく首を振る。
「ウォニャニャン、ミー。」
そう言って眼を閉じていた、掴む手の力は其の儘、お腹も規則正しく膨らんでいる、そう心配要らない、もう心配する必要も無い…。
足元には今日の
「ありがとな、僕は今迄みたいに見て上げられ無くなるから、お前達頼んだぞ!」
通じるかどうかは解らなかったが、そう言ってそれぞれ頭と背中を撫でて居た。
「ニャーニャ、ニャン!」
「ニャーニャン!」
聞いて居るのか居ないのか本当の所は分からないけど、僕には頷いたように見える、そう信じたい、さっきの此の仔の声を聞いてしまった、この手の中から旅立ったあの小さな命が最期に残した声と同じ声…。
「お帰り、お家に帰ろう…。」
寝ているこの子に届いたかどうかは分からないけど、其れでも言わずに居られ無いきっと帰って来たんだと信じたかったから…。
あの日からもう三ヶ月が過ぎ、桜の咲く頃に為っていた、今日は何時もと違う服を着てる、午前中は僕の、午後はお姉ちゃん、それぞれの学校に行く日…。
お姉ちゃんは無事に合格して一番の進学校へ、僕はお姉ちゃんが通った中学校へ、少し気が重いあの生徒会長の弟だと言われるから…。
でも、其れは僕が頑張れば済む事、この子は保育所で友達に何を言われても僕達が造った靴を嬉しそうに履いて通ってる、そう凹まず毎日元気に通ってる、そんな強い子に負けてられない。
未だ立場上は六年生の頃に事件が起きる、叔母さんと葵ちゃんがケンカをして家を飛び出し何時まで待っても帰って来ない。
探しまわっても見付からない、何か大事な話をしていてケンカに為ったようだ。
あの子足だそんな遠くへは行けないはず、近場から探して見たが見当たらない、何処からともなく足元に何時も二匹が表れて困った顔をした、そうとしか言えない…。
「ニャーウニャ!」
着いてこい、そう言われた気がして着いていく、少し歩いて在る家の前に到着、そこはよく知ってる家、お母さんの友達の家、インターホンを押そうとしたら鳴き声がする。
玄関脇の犬小屋の所に茶トラの方がいて鳴いている。
「ウーニャ、ウーニャ!」
側には柴犬もいる、僕が一年生の時からよく知ってる、毎朝交差点にいて叔母さんと通学路を見守ってる、先ず吠えたりしない、信号守らない時だけ吠えるけど…。
ゆっくり近付くと、犬も困った顔してる?、不思議に思い更にもっと近付いた、んッ?、居た!、気持ちよさそうに寝てました、ミックにありがとなと言うと。
「ウーニャ!」
まるで気にするな!、と言ってる気がした、そうだなあの時に頼むぞって言った事を守って呉れたんだな…。
叔母さんに声をかけ事情を話し家に電話して迎えに来て貰う、葵ちゃんのちっちゃな家出は一件落着した。
信じられないでしょう?、コレも実際に在ったんですよ、落ちたのは池じゃ無いですけど…。
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