第17話  六年生の運動会、前編

「良かったね、良かったね!」

「有難う御座います!、有難う御座います!」

「都心迄出た甲斐が有ったよ、本当に良かったよ。」

 今日はお父さんが付き添いで、車で都心の病院まで行って来たんだ。


 その病院で診て貰ってその結果、足を切る必要ないって言って貰ったって!。


 未だ成長中だから、其の間は靴で調整して、成長が止まったらその時に靴で調整出来るか?、何もしなくても良い位の差に成ってるか?、判断すれば良いんだって!。


 そうなんだ、僕がやった事をお医者さんも認めて呉れた、よく見る事、観察する事、よく考える事、そして行動に移す事、それが本当に大事な事なんだ。


 後、出来ない事はちゃんと他の人に伝えて、そして恥ずかしがらずに手助けして貰う事。

 今回、やって見た事で僕自身も勉強する事が出来た、此れも葵ちゃんのお陰なんだ。


「如何したの?、難しい顔してるじゃない!、あんたらしくないよ?」

 騒ぎを聞き付けお姉ちゃんも降りて来た、テスト期間中で何時もより大分早く帰ってた。


「何でも無いよ、良かったなって思っただけだよ。」

「嘘言わない!、他の事考えてたでしょ?」

「何で分かるの?、今度の事考えてたんだ、思っただけじゃ駄目なんだね、やってみないといけないって思ってたんだ…。」

「ふ~ん、あんたも少しは成長したんだ?」

 また、頭をワシャワシャされてしまった…。


 本当に良かった、最初の病院で言われた事を疑わなかったら、階段を昇る時に何も気付かなかったら…、そう思ったら怖くなった。


 それからは家の中でサンダル、表は厚底靴で過ごすようになって、歩く姿はふつうの子と変わらないけど、やっぱり小さくて、体の成長も遅かった、でもちゃんと神様は見ているのかな…、凄く頭が良いんだ二つ上の子と同じ事が出来る…、僕は未だ勉強が苦手な侭だけど。


 ただ嫌な声も聞こえて来る、替わった靴を履いて居る、部屋の中で片方だけサンダルを履いて居る、履いて無い時の歩き方が気持ち悪い、とても小さいと、特に女の子から言われてると…。


 からかい半分、やっかみ半分で在るだろうけど、その為殆ど一人で本を読んで過ごしてると聞いた、友達?と話す事も殆ど無いと言って居た‥‥。


 僕は自分が普通と言われる身体だったから言われた事も無い、友達とも普通に遊んでた、そんな当たり前の事が、体にハンデを持ってるだけでこんなに違うのかと…。


 生れた時から知ってる事で疑問に思う事、違うかな、僕がもっと小さい時の有った事、その時の事で僕の所為でそう為って仕舞った小さな命、その時に見た物、感じた物が此の子に重なって見えた、だから何か出来る事をして上げる事が当たり前、そうしなければいけないと思ってた。


 後3ヶ月も残って居ない、そうなんだもう直ぐ中学生に成る、お姉ちゃんを見てて分かった、今迄のように時間が有る訳じゃ無い、勉強も難しくなるから今迄みたいに時間を取って上げられ無くなる、仲の良い友達が出きれば良いんだけど…。


 眼の前でニコニコ笑ってるこの子に早く友達が出きる事を願って居た。


「お兄ちゃんおさんぽいこう!」

「いつもの公園で良いかな?」

「うん!、おともだちとあそぶ!」

「じゃあ、暗くなる前に帰ってこようね?」

「うん!」

 何時もの様に手を引いて歩きだして居た、これも何時もと同じで何処からとも無く猫が現れる、歩みを合わせて付いて来る。


「また、猫さんがいるね。」

「お友だちなの!」

「何時も居る猫さんかな?」

「ミックってお名前なの。」

「じゃあ、何処かのお家の猫さんだ。」

「そうだよ、お兄さんとお姉さんに飼われてるって言ってたよ。」

「そっか、飼ってる人に会ったんだ。」

「ちがうよ、会ったことないよ!」

「お兄さんとお姉さんが飼ってるって言ってたよね?、誰に聞いたの?」

「この子だよ!」

「此の…。」

「そうだよ!」

「ナ~ォ!」

 僕…、猫に返事されたの…、今…?。


「お兄ちゃんどうしたの?」

 不思議そうに覗き込まれてしまった。

 確かにそんな気はしてた、こうもあっさり肯定されて仕舞うと、次の言葉が出て来ない…。


 また一匹やって来る、今度も何時も付いて来る猫だよな?。

「ナ~ォ!」

「ぐるぐるニャン!」

「ニャン!」

 猫と会話してるんだ、やっぱり…。


 先に来たのが前にいて、後から来たのが後ろから付いて来る、公園迄エスコートするように。

「葵ちゃん後ろの猫さんもお友だちだよね?」

「そうだよ!、あの子クー助って言うの!」

「そっか男の子なんだ。」

「ちがうよ、女の子だよ!」

「あれ?、クー助って言ってたよね?」

「男の子みたいなお名前だけど女の子!、ホントのおなまえは、クルミちゃんだよ!」

「前の猫さんは?」

「女の子だよ、おなまえはミルクちゃん!」

 前の猫は完全な茶トラ、其れにミルクとはどんな感性してるんだろう?。


「生まれた時は、おなかのトコ真っ白だったって言ってたよ!」

「それも猫さんが言ってたの?」

「そうだよ!」

「そうなんだ…。」


 公園まで猫の配置は変わらずに到着、靴のお陰で歩いて居る姿は普通の子と変らない、公園で手を放して上げると、猫と一緒に駆けだした、早歩き位だが何時も居る地域猫たちの所に。


「ナ~」

「ミ~」

「ニャン!」

「グルグル、ニャン!」

 いつもの会談風景、これで暫くはこの侭かな、でも良かったこの侭大きく為って行けるんだ、後は猫以外の友達が出来る事、それが出来ればもう少し安心できるけど。


 そんな事を考えて居た時だった、リード引きずった侭の仔犬、何処からか逃げ出して来たんだろう、葵ちゃんと猫たちに向かって吠えながら一直線に向かって居た猫たちも、葵ちゃんも固まって動かなくなった、二匹ほどは逃げ出したが、付いて来る猫と葵ちゃんはその場で固まって居た、不味いと思って僕も駆けだす、あの時の光景が頭を過って居た…。


 もしもの事を考えて、落ちていた小石を拾い、そこへ向かって駆け出して居た…。

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