第16話  六年生の発表会。

「それじゃ行って来るぞ!」

 お父さんがインチキ外車のカギを持ち、お姉ちゃんと、玄関を出て行こうとする。


「お父さんたち何処どこに行くの?」

「あんたはお留守番だよ!、任せて可愛いサンダル見つけて来るから💗」

如何どう言う事?」

「あのお店で、厚底のサンダル売ってたの、靴を買いに行ったから気にしなかったけど、サンダルなら家の中でも履けるでしょ?」

「そう言う事だ、一寸チョット行って来る。」

「少し帰るの遅く為るけど、待っててもらってね!」

 そう言い残して、二人を乗せたインチキ外車は走り出し見えなくなった。


「そろそろ葵ちゃんのお母さんが帰って来る頃ね?」

 何か悪だくみして居る様だった、顔がいたずらっ子みたいな顔してる。


「あんたは、葵ちゃん連れて二階に行ってなさい、あのくつ下駄げた持ってね!」

「何で?」

「靴が有ったら、叔母さんにバレちゃうでしょ?」

「見つかったら、いけない事なの?」

「葵ちゃんのお母さん、葵ちゃんが普通に歩けないと思ってるでしょ。」

「そうだよね、でも何で隠れるの?」

「叔母さんが来たら、そ~っと表に出て見えない所で待ってなさい、呼んでから来るんだよ。」

「そうか!、びっくりさせるんだね?」

「そう!、さっき私にしたようにね!」

「葵ちゃん、お兄ちゃんの部屋に行こう。」

「わかった!、おかあさんをさせるんだね?」

「ん~とね、それね、ぶっくりじゃ無くてびっくりって言うんだよ?」

「うん、ぶっくりだよね!」

 そっか、まだうまく言えないんだ、そうだよね未だ3歳なんだから…。


 二階に上がり、葵ちゃんに塗り絵をして貰ってた、そうして待って居たらすぐに帰って来た様だ、お向かい家の電気が点いた、直に下から声がする、時間は17時半、少し薄暗く為って居た。


「ただ今戻りました、遅く為って申し訳有りません。」

「お疲れ様、ゴメンね未だ散歩から戻って無いのよ、今日は4時半に出て行ったの、何時も通りならソロソロ戻って来る頃だから、上がって待ってましょ?」

「それではお邪魔しますね。」

「お茶にしましょ、もう直ぐ帰って来るから。」

「ハイ、頂きます。」

 ドアの締まる音がした、葵ちゃんの方を見て口に人差し指を当てた、大きくうなづいてくれた。


 コソコソと階段を降りて、そっと玄関を開けて表に出る、そっと静かに閉めてカチャンと小さな音がした、靴を履かせ一軒先の家の当りで待って居たお母さんは小さな音に気付いたはずだ。


 傍で履かせると気付いてしまうかもしれない、葵ちゃんを抱っこして此処迄来て、靴を履かせて立たせた、何度見ても間違い無かった、真っ直ぐに立って居る、我慢できなかったのか僕の周りをくるくる回り始める、本当に楽しそうだ…。


「グルグルニャン、グーグーニャン!」

「ニー,ミャン!」

 何故なぜ其処そこ何時いつもの猫が居た、公園まで付いて来る猫、さっきも家の駐車場で遊んで居た猫だ。

 また謎の会話が始まった、嫌、会談だろうか?、猫と話しながら時々頷いたり、首を振ったりしてる、どうも会話が成り立って居る様だ、この子は猫と話が出来るんだろうか?・・・。


「アーニャI」

「ニャン?」

「イーニャ?」

「ナーオー!」

「ウーニャ?」

「ニャ!、ニャ?、ニャ!」

 相槌あいづちまで入って居る、葵ちゃんだけでなく、猫も首をかしげたり、うなづくくようなしぐさをしてる、信じられ無いがホントに会話してるとしか思えない…。


 お母さんたちの声が聞こえて来る、そろそろ準備しないといけないな。

「一寸遅いから、見て来ましょう。」

「そうですね、一寸暗く為って来ましたし。」

「そろそろ帰って来るとは思うから、ここで待ってて、通りを見て来るから。」

「ハイそうですね。」

 叔母さんの声は疲れた声だった、これで元気に為って呉れるかな?、そう為ると良いな!。


「ほら、早くいらっしゃい、お母さんが待ってるよ!」

 お母さんから合図が出た、握って居た手を離した、僕を見上げたその子に声を掛けた。


「ほら、お母さんが待ってるよ、お兄ちゃんはゆっくり行くから先に行って待っててね!」

「うん、わかった!、さきにいくね!」

 歩き出した、最初はゆっくりと横を何故か猫も並んで付いて行くだんだん速く為る、猫の歩みも同じ様に速く為る、葵ちゃんの中では颯爽さっそうと猫のように駆けて居るんだろう、僕もゆっくり付いて行く、葵ちゃんがもう直ぐ家の角を曲がる…。


 家の角を入った時に、大きな泣き叫ぶ声が聞こえて来た、勿論もちろん叔母さんの声だ。

「葵が歩いてる、葵が走ってる、夢じゃ無いのね!、これは夢じゃ無いのね!」


 僕も家の角までやって来た、そこには我が子を抱きしめて泣きじゃくる叔母さんの姿が有った、本当に嬉しかったんだろう、何時迄いつまでももその声はまなかった、もうあの小さな猫の仔のように体を失う事は無いんだと、嬉しい声を上げて居るんだ、それを止める必要なんかないから…。


 僕と何時いつもの猫はそのそばに立ってその姿を見続けていた、その声が終わるまで傍に立ち続けた。


「如何したの?」

 お姉ちゃんが驚いて居た、同じ様にお父さんも。

 買い出しに出た、お父さんたちが帰って来る迄ずっと、とまらなかった…。


「中に入りましょ!」

 お母さんに促されて、玄関に入り裸足になった葵ちゃん、何時もの動きに為って居た、叔母さんが固まって仕舞う…。


「ジャジャーン!、これはあたしからのプレゼント!」

 袋から左足の分を出し、お姉ちゃんが履かせて見せる、又さっきのように元気に歩きだす。

 それを見て、叔母さんは何が起きたか漸く判った様だった。


「こんな簡単な事だったの?、此れで普通に歩ける様に成ったの?」

「足りなければ、足して上げれば良い、それだけの事だったんですよ。」

 未だ一言も喋って無かったお父さんが、自信たっぷりな声でそう言った。


めてやって下さい、この子が教えて呉れたんですよ、私達に!」

 お父さんと、お姉ちゃんに頭をワシャワシャされていた…。

「有難う御座います。」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 

 ようやくく僕も少し人の役に立つことが出来たかも知れない…。

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