第15話  六年生の体育の時間

「葵ちゃんちょっと来てくれる?」

「ヤダ行かない!、お兄ちゃんもお姉ちゃんもおいてきぼりにした!」

 一寸ちょっとかんむりの様だ、機嫌きげん直して貰わないと駄目だめかな?。


「おいで、びっくりするかもしれないけど、プレゼントが有るから!」

「プレゼント?、あおいはお誕生日じゃ無いよ?」

「良いから来てごらん、お兄ちゃんと、お姉ちゃん、おじさんからだよ。」

「何なの?、さっきから表でずっと何かしてたけど?」

 手を引いてお母さんもやって来た、今は未だお母さんには見せられない、泣いて居たから。


「お母さんは駄目!、一寸だけ待っててよ、お父さんとお姉ちゃんに飲み物作って待ってて!」

「何なの一体?」

「お母さんにも直に見せるから、一寸だけ待ってて!」

 そう言って何時いつものように抱き上げた。


「あんた靴は?」

「直ぐに戻るから、靴いらないから!」

「そうなの、じゃあ飲み物作って置くから。」

「ホントに直ぐだから!」

 そう言い残して玄関を出た、わきの駐車場へ…。


「おう!、待ってたぞ、母さんは如何どうした?」

「バレない様に言って、待っててもらってる。」

「でかした!、あんたもやるね、お母さんを足止めしたんだ。」

「だって喜んで欲しいじゃない、ちゃんとしてるとこ見て貰って。」

 だって泣いてたんだもん、見て、おどろいてもらって、喜んで欲しい、これで解決できる事を…。


「これがプレゼントだよ、葵ちゃん!」

 一番おいしい所をお姉ちゃんに盗られた、僕が渡す所なのに!。


「これね、お兄ちゃんと、おじさんが作って呉れたの!」

 チャンとフォローして呉れた、許して上げよう。


「あたらしいあおいのくっく?」

「そうだよ、はいてごらん?」

「ありがとうお兄ちゃん。」

 不思議そうな顔して居た、きつく無いかな?。


「いたくない?」

「いたくないよ?、でもいつものくっくより大きいね?」

 さあ、緊張の一瞬、三人で固唾かたずを飲んだ、愈々いよいよその待ちに待った瞬間が来た。


 真っ直ぐ立って居る、何時もの様に体がかたむかない、そうなる様にしたんだ、でもうれしくてたまらない、お姉ちゃんも、お父さんも、僕も息が止まった…。


「歩いてごらん、痛く無いかな?」

 何も言えなくなった僕たちに代わってお父さんが言って呉れた。


 一歩前に右足が出る、体も頭もかたむかない、次に左足が前に出る、それでもかたむかない…。

「あれ?、なにかへんだよ?、あんよがガッタンてしないよ?」

「葵ちゃん、お姉ちゃんの所に来てくれる?」

「お姉ちゃんのところね!」

 歩み出したが体はれない、良かった、本当に良かった、しかしたら、違う、もう左足を無くさなくても済むんだ、そんな事する必要無いんだ!。


「お姉ちゃんきたよ!」

「あんよ痛くない?」

「いたくないよ、でもへんだよ?」

何処どこが変なの?」

「いつもね、あるくとガッタンガッタンてするの、でもガッタンてしないの!」

「良かったね、今度はお兄ちゃんの所に行ってね💗」

「なんでお姉ちゃんないてるの?」

「あれ?、何でだろうね?、おめめにゴミが入ったのかな?」

 その時だった…。


「ウニャーン、ニャン!」

「あっ、ネコさん、グルグルニャン!」

「ニャーン、ニャン!」

「グルグルニャン、グーグーニャン!」

 公園に行く時付いて来る地域猫ちいきねこ様子ようすを見に来た?、しかしたら気付いて呼びに来たのかの知れない、歩けるこの子を遊びに連れ出すために…。


「ウーニャ、ウーニャ!」

「ぐるぐるにゃん!」

 僕は夢を見て居るのだろうか、猫に向かって歩き出す、だんだん速く為る、勿論もちろん速くは無いがけて居る、足を失うと言われた子が、僕の目の前でけだして居た。


 思わず口から出てしまう、きっと、ずっと、言えないと思って居た言葉が…。

「走ったら転んで危ないから止まって!」


 言えない、言える日は来ないと思って居た、でも今日その言葉が僕の口から出てしまった、勇気を出して行動して良かった、みんなが笑えるはずこれで・・・。


「お母さん一寸来て!、急いで!、早く!」

 お姉ちゃんが大きな声で呼んでいる、かすように何度も何度も。


「一体何なの?・・・・・・・・・・。」

 お母さんも言葉を失って居た、ネコを追いかけてアッチへうろうろ、コッチヘうろうろ、猫の後を追いかけて、速くは無いけど駆けて居る、小さな小さな女の子の姿をの当たりにして…。


「葵ちゃんなの?、本当に葵ちゃんなの?」

 お母さんからこぼれた言葉、その言葉に気付いて振り返る。

「あっ!、そうだお兄ちゃんのところに行かなきゃ!、ネコさんバイバイ!」

 こちらに向かって駆けてきたが、それは叶わなかった…。


 何故なら邪魔者じゃまものが入った、駆け出したお母さんにうばわれ、羽交絞はがいじめに有って居た。


 しょうが無いか、一緒に病院に行って先生の絶望的ぜつぼうてきな言葉を聞いた人だから、今回はゆずって置いた方が良いな、気が済むまで…。


「ほら手伝えよ!」

 お父さんから声が掛かる。

「片付けるの手伝えよ!、お前がやろうとしてらかってるんだ、片付ける場所もちゃんと覚えろよ?、今度はお前が準備して始めるんだから!」

「ハイッ!、また手伝って下さい、おねがいします!」

嗚呼ああ、任せとけ!」


 振り返ると、そこにはお母さんと、お姉ちゃんの間を何度も往復する、小さな小さな女の子の姿が有った、今日行った事は無駄じゃ無かった、でも一寸チョット頭も痛かった、今度は僕がつくらなきゃいけないんだと、でも嬉しい悲鳴と言うのかなこれの事を‥‥。


 片付けを終わって家に入る、さあここで問題発生!。

「やだ!、くっくぬがないの!」


 そうです、歩けて、走れた、だから脱ぎたくない、これは予想して置くべきでした…。

 家の中で靴を脱ぐと元の歩き方に戻るから、当たり前になって居た事が、当たり前で無くなった、今まで聞き分けの良かった子が一気に駄々っ子に為って居た、如何どうした物だろう…。


しかしたら有ったかも?」

 今度はお母さんがとつぜん活動を始める、納戸なんどの中をゴソゴソと…。


「アッタ~っ!」

 家中にひびく大声がした。


「良かった捨てないで!、取って置いて良かった。」

 赤い鼻緒はなおの付いた黒い下駄げたかな?。


「これ、お姉ちゃんの七五三用の下駄げたなの、捨てないで良かった!」

 一寸大きめだが、高さは3センチ近く有る、それを左足にだけかせた。

 カッポンカッポンと途切れながら音がする、でも体はれない…。

 お母さんが最後の最後にファインプレーをうばって行った…。



 美味おいしい所を僕はさらわれて仕舞しまった、でも良いかみんなが笑ったんだから。

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