第8話  六年生の思う事。

 お姉ちゃんは受験勉強、県内一の進学校を受けるんだと言って居た、自転車で通える位の近い学校だ、僕も小学校最高学年に為って居た、成績は中の上どうも遺伝はし無かった様だ。


 此の時期は憂鬱になる、雨の所為だけでは無い、三歳児検診と言う物に行ってる、何時も此の検診と言う物に行くと、叔母さんは悲しむ言葉を連ねてる、そして其れを慰める母さんの言葉も、僕は良いんじゃ無いかと思ってるそんなに悩まなくても、確かに小さいよ他の子に比べて、でも元気一杯で、ニコニコ笑う其の子の顔を見たらどうにでもなるんじゃないかと思ってた…。


 今回は違ってた、本当に深刻に為って居る、アノ惚けた母さんまでが声のトーンが落ちていた、其の内容を聞いた僕も同じ様に暗い気持ち、違うな怒って居たんだ其の話を聞いたから。


「一寸お散歩に行こうか、お母さんたちのお話時間が一杯係るから。」

「うん!、おさんぽ行こう!」

「今日は公園に寄って行こうね。」

「公園も行くの?、遊んでも良いの?」

「もう直ぐ暗く為るからね、一寸だけだよ。」

 ベビーカーにおもちゃを積んで、此の時期だから傘も持ち歩き出す、道路の左側を歩いて行く、本来なら右側だけど車道側に僕が立つために、左脚が悪い子だ左手を繋ぐと腕に負担がかかりそうでそうしてる、右手を繋ぐと上下の動きが余り無いが、左手繋ぐとかなり上下に振られる、肩に負担が掛かりそうだから、ずっと前からそうしてる散歩に連れて行く時は‥‥。


 何時もの様に、何故か二匹が付いて来る、そう猫だ、当たり前のように付いて来る、公園に入り此処で初めて手を離す、自由に遊んで居られる様に。


 今日の話は聞いて居られなかった、最後の方が聞くに堪えられ無くて連れ出して逃げて来た。


 公園には地域猫の何匹かが居る、其処に向かって体を揺らし乍ら歩いて行く、彼女の中ではきっと猫の様に颯爽と駆けて居るのだろう…。


 母さんも、叔母さんも泣いて居た、それ程までに酷な事を言い渡されて居た、盗み聞きは悪い事だと判って居た、健診から帰った三人が僕の帰宅と重なった。


「少しの間見てて呉れる?」

 何事かと思った、何時もなら明るくお散歩に連れて行って呉れと頼まれるだが…?。


 ニコニコはしゃぐ此の子とは対照的に、沈んだ顔そんな二人を見て頷いた。

「良いよ!、おいで葵ちゃん。」

「お帰りお兄ちゃん、お勉強しよう!」

 そう、此の年齢の子と思えない会話が出来ている、数字と平仮名は既にマスターして居る、体が小さい以外は同じ月齢の子より大分聡明なのかも知れない、だから余り良い話では無さそうだから一度部屋に連れて行く、おやつを取りに一度リビングに戻って来た時だった。


 二人は既に話をしていた、聴こえてきた話に耳を疑って仕舞う、何が在っても聞いて欲しくない、そう思い外へ連れ出したんだ…。


 何を僕は此の子にしてあげられたんだろうか、今日ほど子供である事、何も口出しできぬほど力も知恵も持たない事を身に染みて感じた事は無かった、其れを持ち合わせていたなら、あの場に割って入った事だろう、少しずつ大きく為って行くあの子と同じ位少しずつしか成長して居ないまだ子供なんだと思い知らされた。


「ニャンニャンニャ?」

「ウーニャ!」

「グーにゃ?」

「ニャーン!」

「ナーナーニャ?」

「ニャン!」

 人語を介さぬ、会談が三者で行われている?。

 いや違うか、二匹と一人が正解か…。


 そんな詰らない事を考えて居た、他に何を考えろと言うんだ?。

 自分自身に突っ込み入れていた、他に何も出来ないし、考えられない、其れ位の子供だって事だよな、自分が子供で在る事が恨めしかった。


「ニャニャニー?」

「ニャー!」

「ニャー、ニャー!」

「ミー、ウニャ!」

 然し、ま~人語を介さぬ会談が未だ続いて居る、ホントに理解して居るんだろうか?、相互会話が成り立って居るのだろうか?。


 猫の知能とあの子の知能は如何為って居るんだろう?、そんな事を考える、こんな事を現実逃避と言うのだろうか、ホントに詰まらない事を考えて居た。


 子供の僕には他に何かして上げる事が見つからなかった、其れとも見つからないと自分に思い込ませて居たのかも知れない。


「お兄ちゃん!」

 一気に現実に引き戻される、何かして上げられ無いのか、あんな事聞いたんじゃ其れを探すのは当然だろう、全く知らない子なら兎も角生まれた時から知ってる、次々に何で不幸がやって来る?、知らない子なら今迄の事でも大変だったねと言って上げられるかもしれない、でも今回の話は知りたくない、知りたくなかった。


「お話は終ったのかな?」

「終わったー!」

 公園の時計は五時半を差して居る、幸いにも泣きだしそうな空は我慢して呉れた様だ。


 ヒョコヒョコと体を揺らしながら近付いて来る、一生懸命駆けて居る心算なんだろう、でもその歩む速度は同じ月齢の子が歩く速度と変らない…、待って上げる事しか今は出来ない、駈け寄る事も勿論出来るのだが、此の子は其れを望まない其処で待っててと…。


「じゃあ、帰ろうか?」

「うん!」

 来た方向には更に友達が二匹ほど増えていた。


「もう良いのかな?」

「いっぱいお話したから!」

「じゃあ帰ろうか、お友達にバイバイしたのかな?」

「忘れてた!、猫さんグルグルニャン!」

 大きく手を振って居た、僕は自分の耳を疑った。


「お兄ちゃん帰ろ、抱っこして!」

「此れに乗って行かないの?、楽ちんだよ?」

「ヤダ!、抱っこ?」

「ハイ、ハイ、判りました。」

 帰り道のお約束、抱き上げるとニッコリ笑って両手で服を掴んで来る、そう何時も通り。


「今日もお兄ちゃんとお散歩、何時も仲が良いね。」

 帰る道すがら近所のお店の伯母さん達が声を掛けて来る、此の子は一寸した有名人、歩く姿も可愛いと言われてるが、小さい子の筈なのにシッカリ受け答えが出来る事でも知られてる。


「ハイ、お兄ちゃんとお散歩楽しいの、もう帰るのさようなら!」

 手を振って居た、叔母さん達も手を振って居た。


「其れでは、失礼しますね。」

 そう、こんな小さな子がきちんと受け答え出来てるのに、僕が出来ないのは恥ずかしいから、多少でも出来る様に成りたいと、僕も変わって居た少しでも大人に成りたくて。


 そう早く大人に成りたかった、子供は何も出来ないから‥‥。

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