第6話 三年生のもう直ぐ秋の思い出。
其れは土曜日の夜の事。
「お腹が痛い、助けて下さい!」
何処かで聞いた声だった、玄関に駆けたドアを開けるとお向かいの叔母さんがお腹を抑えて蹲って居た、救急車は来ない、お父さんのインチキ外車で病院へ向かって走り去って行った。
先に帰って来たお父さんは辛そうな顔をしてる、よい知らせでは無かった様だ、赤ちゃんは産まれたが余り良い状態ではないらしい、このあとお母さんを迎えに病院に戻るのか…。
二人で相談して付いて行く事に決めた、他所の赤ちゃんとは言うものの助けを求めて来たんだ、知らない振りなど出来なかった。
お父さんの車に乗り込み病院に向かう、道が混んで少し時間が掛かる様だ。
病院に付く迄時間が掛かるので、其の間に何でインチキ外車か聞いてみる、簡単なこと、一応アメリカ製の世界中の誰でも知ってる会社の車でマークが付いて居る、そうなんだけど中身は日本のマ〇ダ製、名前はスペク〇ロン、帰国子女みたいな物だと言っていた。
病院に到着して車を停め中に入って新生児室へ、ガラス越しに中を探す、船みたいなものの中で元気に泣く赤ちゃんが一杯居るのだが、一人だけ水槽見たいな中に居て、一回りも二回りも小さな赤ちゃんが一人、手や鼻に管が付いて居る、大きさで言えば僕が拾って来た時のあのチビ位、体は紫色でとっても苦しそうだった。
ピンク色の札に叔母さんの名字が書いて在る、名前も書いて在った<葵>と、フリガナが小さくて見えない、其れに気付いた様に声が掛かる。
「あおいちゃんて言うんだね。」
僕が読めないのに気付いて呉れたお姉ちゃんが教えて呉れる。
「がんばれ!、大きく為ったら遊んでやるからがんばれ!」
完全に重なって見えた、水から抱き上げ息をして無いあのチビに、息を吹き込んでいた時に。
其れはお姉ちゃんも同じだった。
「お勉強幾らでも教えて上げるから、早く其処から出て来るんだよ!」
そう言っていた、三日生きられれば良いと言われた小さな命、でも今一生懸命の生きようとしている其の命、まるで新しい妹が増えた様に言っていた…。
朝夕が少し涼しく為った頃、出かけていたお父さんとお母さんが変な外車に乗って帰って来た、停まると後ろのスライドドアが開き、お母さんが下りて来た、でもドアは締めなかった。
お向かいの伯母さんが、着ぐるみ抱いて居りてきた、三日だなんてクソくらえだ!。
保育器から出て、自分でミルクも飲める様に成り、体重も増えたから今日お向かいのお家に帰って来た、三日なんかじゃ全然足りないと一生懸命に生きようとした葵ちゃんの勝ちだった。
「抱いて見る?」
叔母さんが声を掛けて来た、真っ先に名乗りを上げたのはやはり此の人しか居ないだろう。
「抱いて良いの?、抱きたい、お顔も見たい!」
全く遠慮のないお姉ちゃん、ホントに困ったもんだ…。
「良い匂い、このミルクたっぷりって匂い、赤ちゃん大好き!」
暫く離しそうに無い様だ、完全にメロメロに為って居る、おっかない生き物だ赤ちゃんて、あのお姉ちゃんを骨抜きにして仕舞うとは…。
「次はあたしね!」
此方も遠慮がない‥‥、今度はお母さんなのか‥‥。
お父さんは多分僕と同じ考えの様だ、やれやれという顔をしている…。
お姉ちゃんから奪い取る様に抱いていた、只少し怖かった、僕もあれをやられたのかと…。
暫くして、叔母さんから声が掛かった。
「僕も抱っこして呉れる?、」
「僕は良いです。」
正直にどう抱っこしたら良いか分からないのともし落っことしたら、そう思ったんだ。
「こうすれば良いんだよ!」
と手渡された、すんごく軽い、綺麗な目はビー玉みたいでキラキラしてた。
「ヴーヴー、ヴーヴー、ミャ」
のびたホントに小さな手は僕の服をシッカリ掴んで離さない、嬉しそうに笑ってる。
「随分気に入られたみたいじゃん!」
「離してくれないよ?、如何するの?」
「お兄ちゃん困ってるから、またこようね?」
助け舟が出た、叔母さんが抱こうとしたが、小さな手は服をシッカリ握ってる。
「しょうが無いわね、諦めなさい!」
「えっ?、如何言う事なの?」
「大丈夫だよ、赤ちゃんだから直ぐに寝ちゃうから、其れ迄抱いてて上げなさいよこんなに嬉しそうなお顔してるんだもん、良かったね気に入られたみたいで💗、何時かみたいに引っ掛かれなくて!」
お姉ちゃんに言われて、もう一度今抱いている、此の小さな子を見た、小さなビー玉みたいな綺麗な眼、しっかり掴んで離そうとしない此の小さな手、思い出したくない無い思い出が頭に浮かんでた、最後の最後まで、そう本当の最期まで僕の手の中に居た小さな命の事を‥‥。
僕が詰まらない意地を張ったから…。
僕が、ちゃんと見て無かったから…。
僕が小さくて、何も出来なかったから…。
でも、今度は違う、違うんだ、きっと、きっと違う筈!。
今度は居なくなっても呼んで上げられる、ちゃんと名前が在るんだ…。
今度は探す時に呼んで上げられる<葵ちゃん>と、直ぐに見つけて上げられるから。
道に迷っても、今度はちゃんと手を引いてあげられる様に、一人で歩いて行ける様に成れる様に、此の小さな手を引いてあげられる様に僕が為らないといけないんだ…。
すやすやと寝息を立てていた、小さな手から力が抜けた、小さな目も閉じていた。
でも怖くなかった、小さなお腹は規則正しく膨らんでる、もう怖くなかった幸せそうな顔をしている、そっと本当のお母さんに手渡した、母子家庭きっと大変な事が在るだろう、其れ位は想像出来た、だから此の子が困った時、淋しい時は手を取って上げよう。
此の手の中で最期まで看取って上げた、あの仔の顔を思い出しながら誓っていた…。
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