第5話 三年生の思い出・・・・・
「あたしね、こんどはすばしっこくなくて良いの、お兄ちゃんの所から逃げちゃったから。」
お兄ちゃんと、お姉ちゃんを何故か上から見て居たの。
二人とも泣いてたの、あんよが無くて、お腹に白いのいっぱい巻かれてた…。
二人はあたしのお顔を見て泣いていた、おかしいね?、あたし此処に居るのに?。
あたしとっても悪い子だった、お水の中から、死んじゃうって思った所から、お兄ちゃんが助けて呉れたのに。
大きなとっても怖いのに捕まって、死んじゃうって思ったのに、今度もお兄ちゃんが助けて呉れたのに、あたしお兄ちゃんから逃げちゃった、逃げなきゃお兄ちゃん泣かなかったのに…。
だれかが、あたしに聴いてたの、だから言ったの!。
<すばしっこくなくて良い、だって逃げなくても良いでしょ?、逃げちゃったから二人が泣いちゃうことになったんだもん、もうお兄ちゃんから逃げないもん、ずっと一緒に居たいの!>
でもね、だんだんお兄ちゃんたち遠く為ってくの、あそこに戻りたいのに、お手々で一所懸命行こうとするのに、片方はじょうずに動かないあんよも一所懸命使っても、だんだん、だんだん遠く為って行くの、高い高い処から二人を見て居たの…。
小さく、小さく、とうとう見えなくなった、ヤダ!、あそこに行きたいの!、あそこに戻りたいの!、何で行けないの?、あたしが悪い子だったから?、お兄ちゃんから逃げたから?。
其の時聴こえて来たの、誰かがあたしに聴いて来たの、だから答えたの…。
「あたしね、こんどはすばしっこくなくて良いの、お兄ちゃんの所から逃げちゃったから。」
「本当に良いのかい?、そう為っても戻りたいのかな?」って聞こえたの。
だから答えたの、大きな声で!。
「もうお兄ちゃんから逃げないもん、ずっと一緒に居たいの!」って。
「解りました、あなたの望み叶うと良いですね!」
もっと早く、ずっと遠く為って居た、でも怖くなかった。
<また、お兄ちゃんに逢えそうな気がしたから、怖くなかった…>
あれから暫くは、落ち込んで居たんだけど、少しずつ日常生活の中から思い出す時間が短く為った、勿論悔やんで居るよ、何でもっと気を付けなかったんだろうって?。
そして、名前付けて上げなかったんだろうって、呼んで上げられればこうは為らなかったのに、でも何をやっても帰って来ないから、もう何をやっても遅いから…。
だけど今も続けてる事が在る、机の上に白くて綺麗な小さな箱が置いて在るから、乳糖の抜いて有るミルクを毎朝置いて上げる事、其れだけは続けてる、大好きだったから…。
あれから三カ月過ぎていた、お母さんがお向かいの叔母さんと楽しそうに話してた、あの時門が開かなかった家だ、共働きで日中居る事が珍しいんだけど?。
挨拶して家に入り、自分の部屋にランドセルを置いて、一声かけて宿題持って降りて来た。
丁度お姉ちゃんとお母さんが家に入って来た、何か凄く嬉しそうに話をしながら。
何か有ったのかな?、会話の中から大体の事が判って来た、お向かいの伯母さんとは言っても、お母さんより少し若いのだが、初めての赤ちゃんが出来たらしい、長い事待って出来たので嬉しくて堪らなくて、お母さんが捕まり話を聞いて上げて居た様だ、丁度帰って来たお姉ちゃんも序でに捕まって仕舞った様だ…。
でも二人とも嬉しそう、暗い話題じゃ無くて、明るい話題だから良いのかなと思って居た。
あれから暫くして、三年生に成ってもう直ぐ梅雨に入るかなという日の事、余り顔を合わせた事は無かったのだが、お向かいのオジサンが仕事中に倒れて其の侭帰らぬ人に為る、そのショックも在ったのだろうか、葬儀も終わって数日後、もう11時に為ろうかとの時間にインターホンが鳴る、宿題の出来なかった所をお姉ちゃんに見て貰っていた時だった。
インターホンでお向かいの叔母さんが助けてと言って居る、慌てて玄関を開けるのと同時にお母さんとお父さんを呼んだ、叔母さんの足元に水たまりが在る、お姉ちゃんは理解したように家中に響く様な大声で指示を出す。
「お母さん、直ぐに来て!、叔母さんと赤ちゃんが大変!」
「お父さん、救急車呼んで!」
二人供俺達二人を育てた経験者、直ぐに事態を理解して対処を始める。
だだ、悪い時には悪い事が重なる、嫌、良かったのだろうか叔母さんは家に助けを求めて‥。
事故で出払って居り救急車は直ぐには来ないと…。
病院の名を聞いてお父さんは車のカギを持ち出て行く、お母さんは毛布を持って来るようにお姉ちゃんに伝え、僕にはレジャーシートを持ってお父さんの所に行くように…。
納戸からレジャーシートを抱えて駆け出す、お父さんのインチキ外車に向かって、お姉ちゃんも毛布を抱えてやってきた。
インチキ外車の2列目、3列目は平らになっているレジャーシートをサンドイッチに毛布で挟む、そこにお父さんが叔母さんを乗せた。
お母さんは病院に連絡が着いたと言って後ろに乗り込み、お姉ちゃんに何か伝えインチキ外車は走り出した。
「あんたはもう寝なさい!」
「心配で寝れないよ!」
「あんたが起きてても何にもならないでしょ?」
「でも…。」
「何か有ったら起こすから。」
「分かったよ…。」
その頃病院では大変だったらしい、産声は上がらなかった、体重僅か950グラムの小さな、仔猫位の小さな命が必死に鼓動を刻んで居た。
「お母さん、厳しいですが三日間も生きて呉れたと思って下さい。」
そう伝えられたと、翌朝僕は一度家に帰って来た、お父さんに聞かされた…。
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