第3話  小さな影と共に

「このバカ猫!、待ちやがれー!」

「何やってんの~?」上から呑気な声がした。

「ぐるぐるニャン、グルグルにゃん!」

 完全に馬鹿にしてやがる、もう許さん!


「何苛めてるの!」

 頭に一発喰らって仕舞った…。

「あんた、何でこんな小さな仔猫苛めてるの!」

 コイツ一番安全な何処ところに逃げ込みやがッた。

「これ見てよ!、それでも言えるのお姉ちゃん!」

「アラアラまあやられちゃったね💗」

 テーブルの上の惨状を見て出た言葉だった。

「ダメじゃない、この仔がいる何処ところに出してちゃ。」

「えっ?、僕が悪いの?」

「この仔が分かる訳無いでしょ?、あんたが気を付け無きゃダメでしょ!」

 残念ながら信用されず、宿題と勉強はリビングでする様に言われてる、自分の部屋じゃ遊んで仕舞うから目の届くように此処ここでしなさいと…。


 教科書は未だ無事な方、せっかく済んだ宿題を書いたページは目も当てられないほどビリビリに破られていた、直しようが無い程に…。


「さあ頑張ろう!」

「なにを頑張るの‥‥?」

💗もう一回やれば、ちゃんと身に付くよ。」

「もう一回同じ事するの…。」

「ほら頑張りなさい、この仔とあんたを見張ってて上げるから。」

「お姉ちゃんは勉強出来るから簡単に言うけど、ヤダよさっき終わらせたばっかりなのに!」

、見てて上げるって言ってるの、お姉ちゃんだって一回で出来る様に為らないよ?、何回も同じ所を繰り返すの、あたしだって一回で出来れば良いけど…。」

「お姉ちゃんが?」

「そう何回もね、あんただって繰り返しお勉強すれば出来る様に為るよ。」

「僕が?、勉強出来る様に為るの?」

「だって、あたしの弟でしょ💗、さあ頑張って!」

「分かった、もう一回やって見る。」

 ワシャワシャと頭を撫で廻されていた。

 僕もお姉ちゃん位勉強出来る様に成れるのかな…、なれると良いな…。


「ほら、これ飲んで!」

 出されたマグカップには、かなり白いコーヒー牛乳、お姉ちゃんのマグカップにも同じ物が継がれている、小さな小鉢には乳糖の抜かれている子猫用のミルクが入っていた。


「皆で一息入れたら始めようね!」

 皆で飲み干し、敗れたぺーじを切り取りやれやれと思い始めて居た。

 お姉ちゃんは食器を下げて、自分の部屋へ戻って行った…?

「見て呉れるって言ったのに?」


 でも直ぐに戻って来た、三種類の教科書とノート、そして筆記具を手に持って。

「さあ💗、頑張ろ!」

「分かった、頑張る!」


 ここで言ってた事が初めて分かった、僕が一教科で手こずってるのに、既に一教科終ってた、でも、又同じ所を始めてた、お姉ちゃんは頭も良いんだろうけど、先生が言う様にちゃんと努力してるんだと、僕は努力が全然足りないんだと…。


 今回の犯人はと言うと、テーブルにちょこんと座って、不思議そうに見ていた、大人しく‥。それからは、時間が合う時は二人と一匹で一緒に勉強するのが日課に為った。

「あっ、そうだお母さんが言ってたけど、表で遊ぶなら気を付けてね?」

「何に気を付けるの?」

「野犬、一寸大きな野良犬が出るんだって、回覧板で回って来たって、見かけたら近寄らないで、直ぐに近くの家に逃げ込むの、勿論もちろん走っちゃ駄目よゆっくり眼を離さないでね。」

「野良犬か、大きい犬だと恐いな。」

「だから忘れないでね、今言った事ゆっくりね、走っちゃ駄目だからね。」

「分かった、逃げると追いかけて来るもんね。」


「コラ待ちやがれ!」

 またリビングを逃げ回る仔猫を追いかけていた、三カ月ほどあれから経って居た。

「苛めちゃ駄目でしょ!」

 お姉ちゃんは、テスト勉強の為部屋に籠ってた、僕はテストの範囲はお姉ちゃんに見て貰ってもう終わらせていた、で仔猫を追っ駆け回してたので上からあの時の様に声が掛かる。


「苛めて無いよ!、逃げ回るんだ捕まえないと。」

「其れ苛めてるんじゃ無いの?」

「お母さんに頼まれて、首輪と爪切りするんだよ!」

「そう言う事か、お手伝いなんだ?」

「でも逃げ回って!」

「降りるから一寸待ってて!」

 そう言い直ぐに降りて来た、でも捕まえるの手伝わないで、定位置の長椅子に座った。


「捕まえるの手伝って呉れるんじゃ無いの?」

「良いから見てなさい。」

 そう言われて追いかけるのを止めた、やっぱり敵わないや、そう思った。


 追いかけるのを止めたら、トコトコとお姉ちゃんの膝の上に…。

「確保💗、初めての爪切りじゃ逃げちゃうよね。」

 シッカリお姉ちゃんに羽交い絞めに逢っていた。


「ハイ!、後は任せたね。」

「ありがとう。」

 仔猫は無事に引き渡された、そう任された。

「ゴメンね、テストの範囲広くて一寸チョット大変なの。」

「分ってるよ、勉強頑張ってね!」

「頑張るね!、そっちもお手伝い頑張って!」

 そう言って部屋に戻って行った。



「なにすんのよ、怖いよ、変な物着けないでよ、お手々とあんよが痛いよ。」

 パチン、パチンと恐い音がする、何をしてるのよ。



「グーグーニャン」

 又不思議な泣き声がする。

「コイツ何で普通にニャン、とかミーって鳴かないんだろ?」

 後ろ足、後二本を残す所まで来た、手は引っかかれて傷だらけ、早く馴れないと毎回これじゃ…、ずっとこの侭だと何時迄いつまでも傷だらけに為っちゃうよ。


「ほい、終った!」

 そう言って、床に降ろしたダッシュで逃げていく。

「フーッ、シャー」

 隅に逃げ込み威嚇いかくして居る、嫌われたもんだな…。


しばらく、放って置くかな?、お腹空いたらその内に出て来るんだろうな。」

 後なんか頼まれてた気がする、何だっけ?。



「もうヤダ、何なの此れ外れないよ、首のトコ気持ち悪い。」

 一生懸命もがいて見るが、爪を切られて引っ掛からない。

「外れないよ、外れないよ!」

 コロコロと音がする。

「何の音なのよ、何でこの音止まないの!」



「あっ、そうだ干してる靴を取り込んどいてッて言われたんだ!」

 玄関に向かった、靴を履いて表に出ようと玄関を開けた、その隙をアイツは見逃さなかった、コロコロと鈴の音が足元を駆け抜けて行った…。


 既に夕陽の時間に為って居た、小さな影と共に走り去って行った‥‥。

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