第2話 「グルグルニャ」
「コイツ、ホントに恩知らずだな」
母さんの膝に乗り、気持ち良さそうにゴロゴロ喉を鳴らしている。
撫でてやろうと思って手を伸ばしたら・・。
「フーッ!」と牙をむき出し、子猫だから未だ仕舞えないのは理解出来たが、尖った爪を見せながら威嚇して来る、誰が川から助けてやったと思ってるんだ!。
次の日母さんが病院に行って見て貰った、幾つか治療受けて元気になって帰って来た。
「思いっきり、嫌われてんじゃん」後ろから声が掛かる。
何時も俺を弄って愉しんでる嫌な奴がやって来た。
ワシャワシャと俺の頭を遠慮無く掻き回しながら。
「止めてよお姉ちゃん!」そう三つ上の俺の姉、頭も良くてクラスの人気者。
今回は頭が上らない、あの日川で突き飛ばした隣のクラスの二人に、翌日突き飛ばした事で詰め寄られた処にクラスの担任が出張って来た、其れで突き飛ばした事を謝る様に怒られていた。
騒ぎを聞き付け上級生がやって来た、其の先生に食って掛かって居る。
「弟が何で謝る必要が有るんですか!」
クラスの委員長で教師に信頼されている姉が状況を説明して、逆にその二人が職員室に呼ばれ連れていかれた、其の儘奴らは暫く帰って来なかった。
「有難う、お姉ちゃん」そう伝えたんだが、逆に今度はお姉ちゃんに怒られてしまう。
「あんたバカなの!間違った事してないんだから、ハッキリ言いなさいよ!」と。
唯でさえ普段から逆らえないのに、怒られて仕舞って返す言葉が出て来ない・・。
「ホンっとにバカなんだから、正しい事をしたんだから胸を張りなさい!」と頭を撫でられていた、其の顔は怒って居たのだが、此方を見つめる其の眼は笑って居た、自慢でもする様に・・。
学校での一件も在り中々家に帰り辛く、拾った河原で時間潰して居たのだが、日も落ち始めソロソロ暗く為る時間に成る、帰り辛いが帰るしかない、家へ帰る脚は重かった。
<帰ったら又馬鹿にされるんだろうな・・・>
結局お姉ちゃんが居なかったら俺が悪い事に為ってたんだろうし、親も学校に呼ばれてたんだろうな、如何して俺って大事な時に言葉を伝えられ無いんだろうな・・。
脚を引きずる様にトボトボと家迄帰って行ったのを思い出していた。
本当に頭に来る、例によって例の猫は抱き上げた姉にも媚びを売って居る、全く反抗せず嬉しそうにお姉ちゃんの肩に乗り、其のほっぺたに摺り寄って居る・・・。
「羨ましいか~?」とこれ見よがしに言って来る。
「誰が助けてやったんだ此の恩知らず!」
そう言いお姉ちゃんの肩から奪い取る様に抱き上げた、じたばたと暴れてるが構わず居たが彼方此方引っ掛かれて手も腕も傷だらけ、流石に堪らずトレーナの中に突っ込んだ。
「やだ、やだ暗いのヤダ!、怖いよ寒いのも冷たいのも暗いのもヤダ」思いだした。
此の侭冷たい水の中に又行って仕舞いそうで・・・。
「あれ?、冷たく為らないの?、暗い儘だけど寒くない、温かい?、なんで?」手と足が触ってるの柔らかいし温かい、何で?、温かいし、怖くない、なんで?と暗い中で感じ始めて居た。
「この匂い・・、何処かで嗅いだ事が在るよ?」
何処でだろう、一生懸命思い出そうとしてた。
「あの時だ!、冷たいお水の中から出た時、寒かったけど直あったかい所に居たんだ!」
「あの時、確かこの匂いだった・・」落ち着て来た。
<この匂いは怖くない匂い、この匂いはアタシを助けて呉れた時の匂い、だから怖くない、違うこの匂いアタシ大好き!>、暴れるのを止めた、こんな良い匂いなんだもん・・・。
<在れ動かなくなったぞ?あんなに暴れてたのに如何したんだ>そっとトレーナーの中を覗き込む、コイツ寝てやがるさっき迄あんなに暴れてたのに?、暴れ疲れたのかな?・・。
「大丈夫なの!何やってんの!」
お姉ちゃんが怒り始めた!、覗き込む其の頭を小突かれた。
「お姉ちゃん、中で寝ちゃったよ?、如何しよう?」慌てる俺を見て、呆気に取られてた。
「嘘でしょ?、ホントに?」トレーナの中に手を入れ其の背中を支えた。
服を捲ったら気持ち良さそうに寝ている子猫が居た、お姉ちゃんも覗き込んでいた。
仔猫は幸せそうに寝て居た・・。
「降ろして寝かせて上げよう」囁くように小さな声で。
微笑みながら寝床にして居るバスケットを持ってきた、お姉ちゃんが何時も使ってたブランケットが敷いて有る、でも降ろそうとしたら爪を立てて服にしがみ付いて居る。
如何しようかと覗き込む眼の前の顔に訴えた。
「良かったじゃない!、漸く気に入って貰えたんじゃない?」と嬉しそうに笑ってる!。
「でも如何したら良いの?」そう聞いたんだが、本当に楽しそうに笑った。
でも其れは違って居た、本心は全然違って居た様で楽しそうに、耳打ちして来た・・・。
「飽きる迄、抱いててやんな!」
其れは如何見ても楽しそうに笑った鬼でした・・。
「グルグルニャ」目を覚ました第一声は其れでした。
でも少し違って居たのはゴロゴロ言って、気持ち良さそうに喉を撫でられて居る事。
そう俺の手に、漸く懐いて呉れた様だ、アレだけ嫌われた筈なのに。
此の恩知らずが・・。何時迄も撫でていた、そして撫でられていた・・。
「お前本当に猫なのか?」そう思って声掛けると、不思議そうに此方を見た。
「グルグルニャ」
返事は何時もと変わらなかった、どんな意味が有るんだ、そう考えて居た。
奇妙な変わった仔猫との同居が始まった。
<変な奴?>そうお互いに思って居たとは・・。
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